決意
書きたかった場面です
一際重厚な扉の前で吾郎は突然立ち止まり、振り向き真剣な目で月山達を見る。
「ここから先は俺の事をコカトイエローって呼ぶんだ。頼むぞ。鷹空さん達に正体がバレる訳にはいかないんだ」
その声は真剣そのもの。彼が恐れている事はただ一つ。コカトイエローとばれて翼に距離を置かれる事だ。
「いや、俺と健也がいてお前がいないの不自然だろ。言わなくても状況証拠でばれるぞ」
月山が容赦なく突っ込む。吾郎達は三人で行動していた。そんな中で月山と健也がいて、吾郎だけいないのはあまりにも不自然。
「まじで?ほら、俺だけヒーローに救われたって設定で……このイベントの担当ヒーロー誰だっけ。知り合いなら口裏合わせてもらえるんだけど」
さっきまでとは違いうろたえまくる吾郎。悪戯がバレた子供並みの慌てようである。
「えっと……丙七級のクラフトマンスリーって人達らしいぞ。職人の力で戦うヒーローか」
クラフトマンスリーの名前を聞いた途端、吾郎が落ち込む。そして壁に向かったのの字を書いていた。
「知らない人達だ……都内のヒーローなら名前知っている筈なんだけど。担当地域どこになっている?」
壁から離れて健也にすがりつく吾郎。その姿からは、上級ヒーローとしての威厳は微塵も感じられない。
「主に中部地方を担当しているらしいぞ。向こうで活躍しているアイドルがイベントに参加しているから来たらしい……ヒーロー、うざいから離れろ」
健也が吾郎の手を振りほどく。
「お前ダチのピンチを見捨てるのか?つ、月山、何かいいアイデアない?」
健也に見捨てられて、今度はターゲットを月山に変えてすがる吾郎。プライドもへったくれもない姿である。
「早くボスを倒してしれっと混じるしかないだろ。罠にはまっていたとか言って」
月山は確実に確実にバレると思っていた。今のアイデアは気休めでしかない。
むしろ月山は別の心配をしていた。吾郎の正体を知ったら鷹空翼が、更に暴走する危険性がある。
◇
月山達になだめられてドアを開ける吾郎。その瞬間、マッドフォックスと目があった。
「ご招待ありがとうな。甲二級コカトイエローが来てやったぜ」
さっきまでの醜態は隠して堂々と宣言するコカトイエロー。背後では月山と健也が同時にため息を漏らした。
「早すぎるって。なんで甲二級が混じっているんだよ。ち、ちょっと待ってて下さいね」
マッドフォックスは非戦闘員のポーチャーである。逆立ちしてもコカトイエローには勝てない。彼が今出来る事ははただ一つ。ボスハーレムライオンを呼ぶ事だけ。
「ご……コカトイエロー、檻を壊してもらえますか?」
月山が言い終わる前に、吾郎は檻を壊していた。翼をチラ見しながら、その場からすぐに離脱。
「つき……君達は、女性陣の保護を頼む」
小芝居をしながらマッドフォックスが向かった方を注視する吾郎。当然ガン見している翼の視線には気付いていない。
月山は吾郎の指示が出る前に小夜の傍に駆け寄っていく。健也も智美に駆け寄っていた。
『みっ君、言い難いんだけど。大酉君の正体バレてるよ。ほら』
小夜の指さす先には巨大なディスプレイがあった。そこに映されているのは、モザイク処理がされたダンディズムデビルの死体。
『吾郎の小芝居は無駄だって事か。小夜、怖くなかった?』
そう言うと月山は小夜を抱きしめた。この場にはマスコミがいない事もあり、小夜は月山の胸に顔をうずめる。
『最初は怖かったけど、ライブ放送だったから……むしろ、ポーチャーの方が大酉君に怯えていたよ……鷹空さんなんてアイドルのコンサートばりに黄色い声あげていたし……もしかして大酉君、まだ気付いていないの?だって、あれだよ』
小夜の視線の先にいるのは吾郎に熱いまなざしを送る翼。その顔から愛が溢れ出している。
『嘘だろ?鈍すぎないか?』
あまりの鈍さに健也も驚く。健也は智美から相談を受けていたし、翼から吾郎の事を根掘り葉掘り聞かれていた。
『微塵も気付いていないぞ。恋愛は超ネガティブなんだよ』
月山が溜息を漏らしながら伝える。何しろ彼は吾郎から何度も恋愛相談を受けていた。
結果、吾郎は友達止まりと思い込んでいる事を知っているのだ。
『健也、先に言っておくね。私達バーディーアンなの。巻き込んでしまってごめんなさい』
妙な間が空いた後、智美が意を決して告げた。
そして智美が健也に謝罪した。智美がバーディーアンでなければ、健也は誘拐される事はなかったのだから。
『そうか……驚いてはいるけど、さっきまでの光景が衝撃過ぎて、すんなり受け入れられるよ……お前も吾郎みたく強いのか?』
健也も前からもしかしてと疑っていた。そして何より、友人のとんでもない強さを見た所為で、たいていの事では驚かなくなっていたのだ。
『まさか!私達は三人で一体のポーチャーを倒すのが精一杯なんだから。あんなゲームの雑魚キャラみたく倒されていたら、立つ瀬がないの』
智美の言葉に無言で頷く健也と月山。
「来るぞ……皆さん、気を付けて下さい」
正体がバレているとは知らず、必死に演技する吾郎。
そして地響きを立てながらやって来たのは身長3mはある大男。紅蓮の髪と髭を生やし鋭い牙をもっている。
「俺の名はハーレムライオン……随分と疲れているな。そんな状態で俺様に勝てると思っているのか?」
低く威厳のある声が響く。もし、吾郎が万全の状態ならハーレムライオンに余裕で勝てたであろう。
(疲労感はまだ良い。鷹空さん達を守る……そして向こうで捕まっている女の子達を元に戻さなきゃいけない……怪我せずには無理だな)
女の子達が捕らえらている檻はハーレムライオンの背後にあるので石化ブレスは使えない。身長差とリーチの差も大きく、体型だけ見ると吾郎の方が圧倒的に不利である。
「勝つに決まっているだろ……早い?……アジトだけあって、お前に有利な力が働くって訳か」
ギリギリでハーレムライオンの一撃をかわした吾郎であったが、その速度は予想を遥かに超えていた。
「良く分かったな。ここにいれば俺様の力は倍増する。そしてお前が倒したポーチャーの力も吸収したのだ」
防戦一方、翼達を守りながら戦う為、吾郎は一方的に殴られていた。満身創痍、体中傷だらけである。
「やめろっ。僕の…僕の大事な吾郎だぞ……智美,麗美変身するよ」
涙を流しながら、ハーレムライオンを睨む翼。そして二人が頷くのを確認して翼達は変身する。
「「「バーディーアン飛来!月山君達は僕達が守るから戦って」」」
(鷹空さんがバーディーアン?……健也は分かるけど、なんで俺が誘拐されたんだ?)
この状況でも翼の気持ちに気付かない吾郎。
「吾郎、負けるな。飯奢ってやるから無事に帰ってこい」
月山の激例が飛ぶ。その目には涙が浮かんでいた。
「吾郎、俺達の事は気にするな。戦え」
健也が必死に叫ぶ。本気で友人を心配している叫びであった。
「戦う?もうコカトイエローは傷だらけだぜ。もう戦う力なんてないだろ」
ハーレムライオンが高笑いをする。
(俺には過ぎた仲間だな……嫌われても助けなきゃ罰が当たる)
「戦う力がない……勝手に決めるな!コカトイエロー第二形態」
吾郎が第二形態を使わなかったのには理由がある。第二形態はおぞましい姿になるのだ。
助けた人に恐れられ、友人だった者からも忌み嫌われた事がある。
その所為で、吾郎は心にトラウマに近い傷を負っていた。しかし、吾郎は大切な人達を守る為に第二形態に変身したのだ。
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