怪?進撃
周囲がドン引きしている中、吾郎がドアを開けた。
「想像はしていたけど、実際に見るときついな」
健也が青ざめた顔で呟く。視線の先にあるのは、物言わぬ石像と化したヨワムレゴブリン。
彼等にとっては、突然襲われた悲劇である。驚いた顔のまま石像となった者、苦悶の表情を浮かべている者……軽く見渡しただけで、彼がさっきまで生きていた事が分かるのだ。
「流石はポーチャーの戦闘員だ。死してもなお持ち場を守っている。この石像を動かすのに、どれだけの時間や体力が掛かると思う。浅はかな知恵を使うから、こうなるんだ」
エロ半魚人が吾郎を見ながら鼻で笑う。化け物に一矢報いてやれたのだ。
(こいつらが石像を片付けているうちに、マッドフォックスに連絡をしなくては)
笑みを浮かべてはいるもののエロ半魚人は、内心かなり焦っている。
吾郎はバーディーアンを脅す為の高校生でしかなかった。しかし、蓋を開けてみると、ポーチャーを全滅させかねない化け物だったのだ。
「まずは縄を柱にくくりつけてと……二人とも、念の為にそいつから離れてろ。それと破片が飛んでくるかもしれないから、入口からも距離を取れ」
健也と月山が行動に移すと、吾郎は一番近くにあった石像に近づいていく。
「吾郎、石像を動かすなら俺達も手伝うぞ」
青ざめた顔のまま健也が話し掛ける。今、彼にとって大事な幼馴染みである智美がポーチャーに捕まってるのだ。見たらトラウマになる石像ではあるが、なにかせずにいられないのだ。
「動かす?そんなの時間の無駄だっての……こっち来たら怪我するぞ」
そういうと吾郎は一体の石像の足を掴み、そのまま持ち上げた。
石像の足を掴んだまま、ハンマー投げの要領で回り始める吾郎。
「吾郎……お前、まさか?」
月山が問い掛けると、同時に石像は放り投げる吾郎。石像は仲間目掛けて突っ込んでいき、ボウリングのピンの様に他の石像を巻き込んで倒れていく。
「これで行けるぞ。足元に気をつけろよ」
あまりの衝撃的な展開にエロ半魚人は涙目になっていた。ここにいたヨワムレゴブリンは、同じ釜の飯を食べた仲間である。見た目は同じでも、きちんと区別がつく間柄であった。
その仲間が文字通り粉々に砕けちったのだ。
確かに最初に喧嘩を売ったのは、間違いなく自分達だ。バーディーアンと仲が良いというだけで、吾郎達には何の落ち度もない。
しかし、エロ半魚人は糾弾せずにいられなかった。
「鬼、悪魔、このポーチャー殺し!お前にはヒーローとして矜持がないのか?……まあ、いい。次のドアを開けるにはパスワードが必要だ。パスワードが書かれた紙をヨワムレゴブリンの誰かが持っている。下手したら紙も石化しているんじゃないか?ざまあみろ」
ここぞとばかりに吾郎を煽るエロ半魚人。しかし、当の吾郎はガン無視してドアに近づいていく。
「ドアは金属製で厚みもあるな……次はっと」
吾郎はテイルロッドを取り出すと、ドアに向けて何かを調べ始めた。
それを見てほくそ笑むエロ半魚人。
(蛇の尻尾で鍵を開けるつもりか?無駄だっての。もし開けられたとしても、ドアの向こう側にはドキュンケンタウロスが待ち構えている。ドアを開けた瞬間、串刺しだぜ)
ドキュンケンタウロスの戦闘力は、イケメン三軍神に勝るとも劣らる事はない。
槍を得意とし、その刺突は分厚い鉄も貫く。
手のつけらない暴れ者で、性格は凶悪で残忍。
「吾郎、俺達が紙を探す。その間に少しでも休んでいてくれ」
健也が石像に近づきながら、吾郎に提案する。それを見て再びほくそ笑むエロ半魚人。
「これ位で疲れる訳ないだろ。それと紙は必要ない……角度は、この辺だな……うぉりゃ」
吾郎はそう言うと気合を込めてドアを蹴り飛ばした。その威力は凄まじく、ドアは激しい音を立てて壁に激突した……待ち構えていたドキュンケンタウロスを巻き込みながら。
「ドキュンケンタウロス?酷い……ぺちゃんこだ」
ドキュンケンタウロスは、ドアと壁に挟まれて圧死。生前は暴れ者であったドキュンケンタウロスだが、今は見る影すらない。
「吾郎、なんでドアの向こうに敵がいるって分かったんだ?」
月山の問いかけに健也も頷く。ドキュンケンタウロスは音を立てずに待ち構えていたし、エロ半魚人はドキュンケンタウロスのドの字も出していない。
「蛇にはピット器官があるんだよ。それでドアの向こうの温度を探ったのさ」
そのまま歩き始めようとした吾郎であったが、エロ半魚人は肩をワナワナと震わせたまま動こうとしない。
「お、お前は罪悪感とかヒーローとしての矜持はないのか?正面から堂々と戦って負けたのなら、あいつ等も納得したさ。だけど、ろくに顔も見ないで倒すなんて酷くないか?」
涙目で訴えるエロ半魚人。月山達も感じる事があるのか反論出来ずにいた。
吾郎の戦い方は世間でもてはやされているヒーローの戦い方とは、程遠いものだ。
「正々堂々だ?戦闘に、そんな自己満足必要ねえよ。俺が正々堂々と戦って、こいつらが怪我したり、死んだらどうする?親御さんやクラスの皆に俺は清く正しく戦ったけど、守れませんでしたって言えってか?」
正々堂々と戦い人から賛美を受けるより、誰かが不幸にならない為に尽力する。
それが吾郎のヒーロー美学であった。
◇
監視カメラを見ながらマッドフォックスは、胃を抑えていた。ここまで掛かった時間はわずか五分。
(どうする?ハーレムライオン様に報告するか?でも、寝入り際は不機嫌だし)
なによりポーチャーの主戦力の七割が五分で壊滅したとは言い難い。
「なんだよ!あの化け物は?規格外にも程があるだろ!」
マッドフォックスがヒステリックに叫ぶ。
その目には涙が浮かんでいた。
そして檻に閉じ込めらている女性達も、吾郎にドン引きして怯えている。
智美と麗美は苦笑いを浮かべ、小夜は呆れ顔になっていた。
ただ一人翼だけは喜色満面の笑みを浮かべている。
「やっぱり吾郎がコカトイエローだったんだ。そして僕を助けにきてくれている。まるで王子様みたい」
そして囚われの身とは思えない幸せオーラを出しまくりながれデレまくっていた。
「あんな理不尽な王子がいてたまるか!いいさ。次の部屋にはイケメン三軍神最強の男ダンディズムデビルが待っている……頼んだぞ、ダンディズムデビル」
マッドフォックスの問い掛けると、画面の隅に別ウインドウが現れた。
「狐の旦那。そんな大きな声出さなくても聞こえるって……今から来るヒーローを倒せばいい。それだけなんだろ?」
檻の中から黄色い声が響く。
画面に映ったのは、無精髭を生やしたイケメン。端正な顔をした成人男性で気だるげな表情を浮かべているが、その顔からは強者の余裕が感じられた。




