クリスマスプレゼント?
上級ヒーローでございってふんぞり返っても、既に起きた事は変えられない。
カインド君は、群れに受け入れられた。、でも、そこにはもう幼馴染みはいない訳で……。
カインド君の角を持って帰還した俺の口からは、自然と大きなため息が漏れた。
手に持ったカインド君のつのが少し重く感じる。
「ゴロちゃん、お帰り。どうしたの?……トナカイの角?」
転移装置を出ると美影さんと瀬川さんが俺を待っていた。仕事絡みだと思うけど、少しほっとする。
「実は……」
俺は、さっきの仕事で起きた事を二人に伝えた。なんか生暖かい空気になっているんですが。
「鶏君、安心しろ。動物は君が思っているより、ずっとタフだ。そうじゃないと野生で生き残れないしな」
確かにそうだけど……俺はカインド君に自分を重ねて感情移入していたんだろうか?
「ごろちゃんらしい話ね。なんか、ほっこりしちゃった。その角私が預かっても良い?アクセサリーに加工してあげる」
大人な二人からするとロマンチック過ぎる発言だったらしい。
「でも金の流れは気になるので、引き続き注視していきます。次はどこに行けば良いんですか?」
気を切り替えて、次の援護の備える。例年でいけば、ここからが本番だ。
「とりあえず君はポンズ・ターキーをしていれば良い。正確に言うとハザーズの動きが停滞している」
なんでも午前中に上級ヒーローが活躍しまくった結果、ハザーズの中で『今動いたら化け物連中が来るじゃね?』と動揺が走っているらしい。
「ここの会場が狙わている危険性もあるの。私達は本業で手が離せない時があるから、ごろちゃんお願い」
この会場を狙うハザーズがいる?自業自得とはいえ、運が悪すぎないか?
公式発表では、会場の警護を担当しているのは、丙級ヒーローの三人組。
でも、実際は、上級ヒーローが四人も揃っている。更に転移装置を利用しに来るヒーローもいるんだぞ。
◇
ヒーローショーでスーツアクターをする人はいるけど、着ぐるみに入っているヒーローは俺位だと思う。
「ママー。ポンズ・ターキーがいるよ」
俺を見て微笑む親子連れに手を振り、場を和ませる。ゆるキャラ効果のお陰で皆笑顔だ。
(こっちが癒される仕事は久し振りだな……次はあっちの区域か)
命のやり取りが日常化している身としては、癒し効果抜群である。
「吾郎お疲れ様。大人気だね」
そして俺の一番の癒し鷹空さんが来てくれた。ちなみに着ぐるみの中では満面の笑みになっています。
「でも、ミズ・ターキーやハクサイ・ターキーの方が人気あるみたいだね。さっき三体一緒にいたけど、お客さんの数が段違いだったよ」
一番人気はメインキャラのミズ・ターキーで、主なファンは家族連れ。
次はハクサイ・ターキーで女子に人気だった。なんでもイケメン設定らしく、中の人にも写真選考があるらしい。
ポンズ・ターキーは三匹の中ではオチ担当らしく、小さい子に人気でした。
「さっきの女の子、凄く喜んでいたよ。ポンズ・ターキーのぬいぐるみ持っていたし」
ミズ・ターキー姉弟は結構人気があるらしく、グッズ化されていた……俺のグッズはクリアファイルとテイルロッドボールペンが良く売れるそうだ。
「クリスマス・イブに誰かを笑顔に出来るのは嬉しいよね。七時まで残り五時間頑張るよ」
七時にイベント終わって、そこから片付け手伝いです。鷹空さんも片付けがあるだろうから、会えるのは何時になるんだろう……その前に鷹空さん約束?覚えているよね?
(時間も場所も決めてないんだよな。どうしよう)
ちなみに俺のプレゼントは美影さんが預かってくれています。
◇
頑張った。あれから五時間ポンズ・ターキーを演じきったぞ。
「ごろちゃん、お疲れ様。後は止まり木の片づけを手伝いに行ってきて。そして、これがクリスマスプレゼント。ちゃんと翼ちゃんに渡すんだぞ」
美影さんがウインクしながら、綺麗にラッピングされた紙袋を手渡してくれた。
「あ、ありがとうございます。でも、ハザーズは大丈夫なんですか?」
結局、イベント開催中ハザーズの襲撃はなかった。鷹空さんとの十分を邪魔されたら泣くぞ。
「それなら安心して。さっき美子が倒したから」
獺川さんは時間を確保する為に、率先して動いてくれたそうだ。そして美樹本さんも主催者の権限で、俺を止まり木の手伝いに派遣してくれた。
いつまで経っても、俺はサンサンクの三人には頭が上がらない気がする。
「ありがとうございます。行ってきます」
美影さんにお礼を言って止まり木を目指す。鷹空さんの用事って、何なんだろう?
◇
世の中、そんなに甘くない。うん、分かっていたよ。
「これ、どこに運べば良いんですか?」
お約束で止まり木以外の片づけも手伝っています。だって朝一緒に働いたスタッフさんが“大酉君、こっちも頼む”とか言うんだもん。断れない自分が嫌です。
「それはトラックに積んで。そこが終わったらテントの撤収も頼む」
ヒーローだから体力も力もある。結果、重宝されまくりです。
(このまま鷹空さん先に帰っちゃうパターンないよね)
ネガティブな予想ほどリアルに出来る自分が嫌です。そしてこういうのってフラグになるんだよな。
「大酉君、次はうちね」
リアル過ぎる妄想にへこんでいると、止まり木の店主巣護さんが声を掛けてきた。
「今行きます……それで何をすれば良いんですか?」
横目で鷹空さんを探す。良かった。まだ帰っていない。
「翼ちゃんと一緒に、物を返しに行って来てくれるかな?夜道を女の子一人で行かせるのは不安だし」
巣護さんの視線の先にあるのは、40センチくらいの段ボール。持つと手が塞がるので確かに危険だ。
そして神様、ありがとうございます。予期せぬ幸運に泣きそうになっています。
「分かりました。場所は、どこですか?」
段ボールは思ったより軽くて、持つとガチャガチャと音がするので調理道具とかが入っているのかも知れない。
「僕に着いてきて。それじゃ、真理さん先にあがらせてもらいます」
そう言って歩き出す鷹空さんと一緒に会場を後にする。
(た、タイミングを見てプレゼントを渡すぞ)
そう考えただけで、苦しい位に鼓動が高鳴る……ベストなタイミングはいつだろう。
段ボールを持ったままじゃ雰囲気ゼロだ。何よりプレゼントを取り出せない。
つまり段ボールを返却してからが勝負だ。返却してからも時間はある筈だし。
◇
……着いたのは鷹空さんのマンション近くにあるお店。マンションまで徒歩五分といった所。
「ちょっと待っててね。返しに行ってくるから」
そういうと鷹空さんは、カバンからクレープを焼く時に使うT字型の棒を取り出した……それじゃ、この段ボールは何?
「うん、分かった」
とりあえず先に帰っていてじゃなく、良かった。良かったけど……この流れでブランド物の手袋は重すぎないか?
(美樹本さん達にお膳立てしてもらった意味が……空回り過ぎて泣けてくる)
今日、頑張ったんだけどな。
「お待たせ。近くに公園あるからそこに行こ」
促されて着いたのは、小さな公園。シーソーとベンチがあるだけのこじんまりとした公園だ。
「昔、ここで良く遊んだんだよね……メリークリスマス、吾郎。僕からのクリスマスプレゼントは、その中だから」
まさかの段ボール自体がクリスマスプレゼントだったの?でも、中身は何なんだ?
「俺からもクリスマスプレゼントがあるんだ」
段ボールをベンチに置いて紙袋を手渡す。断られるのが怖くて目を伏せてしまう。
「ブルーキャッツの紙袋!開けて良い?……素敵な手袋。絶対大事にするね」
満面の笑みを浮かべる鷹空さん。この笑顔を見れただけで、今日の連戦がチャラになる。
「喜んでくれて良かったよ。俺も見て良いかな?」
鷹空さんが頷いたのを確認して開けてみると、入っていたのは調理器具と調味料。そして料理の本だった……これ、クリスマスプレゼントだよね。
◇
同時刻、止まり木。
「真理さん、翼のクリスマスプレゼント重すぎませんか?自分の家で使っている調味料や、自分が使い慣れている調理器具なんですよ」
バーディーアンのクレリッククロウこと副浪智美が引き気味で話し掛ける。
「逆光源治計画だっけ。今から大酉君を良い夫、理想のパパとして育成していくっていう」
話を振られた真理も返答に困っていた。
「力が影響しているとはいえ、重いですよね。クリスマスプレゼントなんだから、もう少しロマンティックな物の方が良いですわよと言ったんですが」
白鳥麗美もため息を漏らす。
ちなみに、その時の翼の返答は『ロマンより吾郎の食生活改善が先なの』だったと言う。