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救う為に(下)

 石化ブレス温存したい。でも、カインド君は救いたい。


「さて、どうすっかな」

 化けトナカイを飛び越えて攻撃……跳ぼうとした瞬間、化け蝦夷狸と目があった。多分、あいつは遠距離攻撃が出来る。うかつに飛び込めば狙い撃ちされて終わりだ。

(意思が複数宿っているハザーズは分断が起きやすい。そこを責めるか)

 カインド君は、他の二つの意思に圧倒されている。海鹿の意思は食人欲求だけ……残るは……どうやって切り崩すかだ。


「どうするんだ?ヒーローさん?クリスマスイブに雪山で寂しく孤独死するか?まあ、お前みたいな低級ヒーローを待っている女なんていないだろうけどな」

 勝利を確信しているのか化け蝦夷狸が煽って来た……やっぱり名乗らないと、(上級ヒーロー)って気付いてもらえないのね。


「甘いな。昼に、同じクラスの女の子からホットドッグをもらったんだぞ」

 嘘はついていない。でも、こんな小さいエピソードで、どやった自分が虚しいです。

 あれ店の商品だし、美樹本さんにお願いされた可能性もある。


「り、リア充だ……俺だって小五の時に交換会でプレゼントをもらったぞ……お、俺だってクリスマスに女の子とクリスマスパーティーした事あるだぜ」

 い、いたたまれない。

 モテない男あるある。数少ない女子とのエピソードで、プライドを保とうとする。

 俺だってとっさに出たエピソードが、あれだもん。


「……うすっ!全員エピソード弱すぎだって。ヒーローも、それは宣伝と義理だぞ」

 化け蝦夷狸(こいつ)、言ってはいけない事を……絶対にぶっ飛ばす。


「じ、十分だけど会う約束をしている!プレゼントも用意したし」

 頑張れ、俺。しっかりプライドを維持するんだ。クリスマスに奇跡は起きるんだぞ。


「それプレゼント貰う為の常套手段だっての。転売されてお終い。後日、本命君とのホテル代になるんだよ。ばーか」

 コカトイエローのハートにクリティカルヒット。涙が溢れてきた。反撃するパワーないんですけど。


「なあ、もう止めないか?これだと、俺達を馬鹿にしたリア充達と一緒だぞ……モテない同士が喧嘩してもむなしいだけだもんな」

 どうやらカインド君の意思を封じる為に、他の怨念の気持ちを強くしたから、もてない君達の自我が強くなったようだ。

 結果、化けトナカイが一回り小さくなった。


「さて、化け鹿さんよ。俺の名前はコカトイエロー。コカトリスの力を持つヒーローだ」

 テイルロッドを構えて、化けトナカイと対峙する。今なら瞬殺出来るけど、それじゃカインド君は救えない。


「ごめんだね。命あっての物種さ。鹿児島に帰らせてもらう」

 海鹿の気配が消えると、カインド君はただのトナカイに戻っていた。

 カインド君を飛び越えて、化け蝦夷狸と対峙する。


「よくも色々言ってくれたよな。喰らえ、アボカドブレス」

 アボカドは人間以外の動物……特に犬には猛毒だと言う。同じイヌ科の狸にとっても恐怖の対象だと思う。


「危なっ……へ、蛇?ぐぇ」

 いくらアボカドが狸にとって有毒だとしても、致死量のブレスを放つのは難しい。

 だから、俺はブレスを放つと同時にテイルロッドを蛇に変え、化け蝦夷狸の喉笛を噛み切ったのだ。


 元の姿に戻ったカインド君は、酷く怯えていた。


「浄化……怖かったよな。吹雪もあがったか」

 念の為に浄化して、カインド君の中の怨念を消しさる。浄化の効果なのか、吹雪は止み青空が見えていた。

 そしていくら優しく声を掛けても、もうカインド君の耳には届かない。逃げないのは無理な強化の所為で、過度に体に負担が掛かった所為だと思う。


「カインド!……心配したんだぞ。さあ、帰ろう……コカトイエローさん、ありがとうございました。お体に怪我とかないですか?」

 牧場のお兄さんが優しくカインド君を抱きしめる。気のせいかカインド君も嬉しそうだ。


「少しきつかったけど、大丈夫ですよ……午後も援護がありますので、へばっていられません」

 正直言えば、かなりしんどい。でも見栄を張るのもヒーローの勤めだ。


「そうですか。では、乗って下さい。カインドは後ろに乗って」

 雪上車の中に入ると、ほっとするような暖かさに自然に緊張が緩んでいく。

 そして大事な事に気づいた。報告書にもてない男性のやり取りを書かなきゃいけないのだ。結果によっては地獄でしかないんですけど。


「……時間はまだ余裕があるな。この辺でお土産を売っている所とかありますか?」

 スキー場は閉鎖されていたけど、近くにお土産屋さんがあると嬉しいです。


「それでしたらうちの牧場に来て下さい。観光牧場なので、有名なお土産なら置いていますので……スキー場から十分位ですけど大丈夫ですか?」

 それ位なら大丈夫だ。カインド君をちゃんと送り届けたい。それに正直、少し休みたいです。


 気づいたら寝ていたようで、いつの間にかトナカイ牧場に着いていた。


「私はカインドを牧場に戻してきます……それとサインお願いしても良いですか?」

 もちろんサインを書いたし、写真も撮った。だって、俺のファンになってくれそうだし。

 評判を少しでも上げておきたいのだ。


「白い恋人に北海道のコーンスープ、スープカレーも良いな」

 お土産を選んでいると、カインド君がおずおずと群れに近づいて行くのが見えた。 

 最初は警戒していた群れのカインド君だと分かると優しく迎え入れていた。

 

「これ今年カインドから抜け落ちた角なんですけど、もらって頂けますか?トナカイの角は北欧で幸せと勇気をもたらすお守りなんですよ」

 角を受け取ると、カインド君と目があった気がした。さっきまでとは違う穏やかな優しい目だ。

俺の勝手な解釈なんだろうけど、ありがとうと言ってくれている気がした。


頑張りました


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― 新着の感想 ―
連続更新ありがとうございます! 後はクリスマスの奇跡が起こるのみ!
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