活躍したんだけど1
白鷺学院は元お嬢様校だけあり、女子の比率が高い。俺にとってアウエーの様な所。
(これ、俺が出て行ったら顰蹙を買うんじゃないか?)
学校に着いたら、状況は更にアウエーになっていました。
白鷺学院の生徒が遠巻きにバーディアン達の戦いを見守っている。
それは良い。俺も良く見る光景だ……問題は聞こえてくる声。
「負けるな、ホークソルジャー」
「オウルプリーストさん、頑張って」
「スワンメイジ様、私達がついていますわ」
バーディアンは地元ヒーローだけあり、それぞれに固定ファンがついているらしい。
(俺のファンいるかな?手柄横取りしたってブーイングされないよね?)
援護に行くと助けに行ったヒーローのファンからブーイングされる事がある。
野球で言えばツーアウト満塁の場面で、移籍したての選手が代打に選ばれる様な感じだ。ファンとしては気持ちが良い物ではないらしい。
そして困った事に俺のファンは男性が五割、大人の女性が三割……同い年の女性ファンは極少数。
でも、これはまだ良い。推しヒーローを助ければ、感謝はされる。
問題は……。
「あの金髪ハザーズ超イケメン」
「ホストインキュバスしか勝たん」
「ホストインキュバス様、こっち見て―」
どうやらハザーズがチャームを使えるらしく、一部の女子生徒が魅了されていたのだ。
俺の見た目は黄色いバトルスーツで、ベルトのバックルには蛇の顔がついている。
そしてマスクのバイザーは鶏のくちばしがモチーフ。頭には鶏冠、背中には翼のマーク。
コカトリスがモチーフだけあり、俺の見た目は怪人より……下手にホストインキュバスに攻撃すると、ブーイングが起きる危険性がある。
(ブーイングで済んだら、まだましか)
チャームの段階によっては、生徒に深刻なトラウマを与えてしまう。
目の前で最愛の人を殺されるのと変わらないのだ。
「応援のヒーローが来たのか……皆、僕を守ってくれるかい?」
チャームを掛けたハザーズ、ホストインキュバスが女子生徒にお願いをした。
……良くある展開だけどさ。その名前、きつくないか?
(ボスに“お前は今日からホストインキュバスだ”とか言われたんだろうけど……良く納得出来たな)
俺のコカトイエローだって、お世辞にも格好良いとは言えない。でも、ホストインキュバスよりはましな名前だと……信じたい。
「「「喜んでっ!」」」
同時に叫んで、人の壁になる女子生徒。結構強くチャームに掛かっている様だ。
「ヒーローのお前が、その子達を攻撃出来るかな?」
ニヤニヤしながら、俺を挑発してくるホストインキュバス。庶民を盾にするハザーズは少なくない。
このパターンはかなり厄介で下手に触ったらセクハラ、怪我をさせたら刑事訴訟なんて事もある。
(あのハザーズ、俺の事を知らないのか?)
それなりに知名度がある筈なんだけど……。
でも、ホストインキュバスの顔には余裕がある訳で……ただのモブイエローが来たと思っているんだろうか?
「得意になっている所悪いんだけど……普通に飛び越せるんだよね」
第一形態の俺の跳躍力は3m位。人間の頭位、軽く飛びこせる。
(戦況は……蜘蛛のハザーズの所からだな)
ジャンプしながら戦況を確認。ホストインキュバスは、生徒にお願いをしていたから、青いウィッチとの距離が開いている。
スライムのハザーズは攻撃手段が乏しいらしく、白いウィッチを攻めあぐねていた。
そんな中、一番劣勢なのがスーツを着たウィッチ。蜘蛛型ハザーズの手数に対処できずにいる。
そして今回の目標
目標一・白鷺学院の安全確保及び魅了の解除。ヒーローの一番の義務は平和を守る事だ。
目標二・ハザーズの退治。こんな街中でハザーズに逃げられたら、被害が拡大してしまう。
目標三・バーディアンの救出。バーディアンは、地元のヒーローだけあり人気が高い。大怪我を負ったら、俺の責任問題になり兼ねない。それに知り合いの知り合いって可能性もある。
そして努力目標、格好良く戦って地元での人気を増やす事だ。仲良くなった女の子に“実は俺、コカトイエローなんだ”って決め顔で伝えてみたい。
着地をすると皆が俺を見てきた。そして、しばしの沈黙。
お願いだから、誰か反応して。
「コ、コカトイエローだ。甲二級のヒーローが来てくれたぞ」
白鷺学院では数少ない男子生徒が俺に気付いてくれた。君には、今度コカトイエロークリアファイルをプレゼントするぞ。俺の姿はワンポイントのみだから、普段使いも出来るんだ。
「こ、甲二!?そんなの反則だろ!トラップスパイダー、そっちに行ったぞ」
ホストインキュバスがクレームをつけてくるけど、知ったこっちゃない。ヒーローが負ければ被害者が増える。
今回の場合だとチャームに掛かった子は、まともな恋愛が出来なくなる危険性があるのだ。何より精神エネルギーを取れると、気力がなくなり廃人みたくなってしまう。
「お、おでには六本の腕があるんだど。二本腕に負ける訳ないんだな」
どうもトラップスパイダーは、バーディアンを圧倒している事で自信をつけたらしい。
その手には投げ縄やトラばさみを持っている……努力目標は難しいかもしれない。
「テイルロッド……それなら、自慢の腕を減らしてやるよ……貴方は、仲間の援護をお願いします」
スーツを着ているバーディアンに声を掛けて、援護に向かわせる。
ベテランヒーローの知恵、こういう場合“俺があいつを倒すから、下がっていろ”とか言うと反発されます。
でも、仲間の援護に行ってと言うとスムーズに動いてくれる。
(ウィッチの人達って変身していると、顔が分からないから言葉遣いが難しいんだよな)
だからウィッチ系の人と話す時は、敬語を使っています。
「そんな棒っきれ当たらなきゃ無意味だど……痛いっ!」
校庭に響くトラップスパイダーの叫び声。少し遅れて女子生徒の悲鳴も響いた。
今回は短めなので17時に後編更新します 読んでる人いますか?