色々やばいのです
やばい。まじでやばい。アオリインプの浄化なんて、もうどうでもいい。
コートの歓声をガン無視して、待機所にダッシュ。
「本部に直行したいので、車をだしてもらえますか?城宮のハザーズはポーチャーと繋がっていました」
俺の言葉を聞いた職員の皆が無言で頷く。城宮に巣くっているハザーズオッフェンは人化の術を持っている。
そこがポーチャーと繋がっていた。これかなりやばい展開だ。
(人化の術が他のハザーズに流れているだけでも、やばいってのに)
一番の問題はハザーズ同士が協力関係を結んでいたって事だ。
今までは各個撃破だから対応出来ていた。でも、手を組まれると、かなりやばい。
援護に向かったら、そこはおとりで後手に回って被害が拡大する。
ハザーズと戦っている最中に、援護が来てはさみ打ち。
ハザーズを倒したと思ったら、増援が来て体力切れで格下に惨敗。
パッと考えただけでも、やばい展開がいくらでも思いつく。
「こちらでも確認しました……もう本部には連絡をいれています」
とりあえず月山に『先に帰るから、後は頼む』とライソを入れておく。
だって、下手すりゃ徹夜なんだもん。
でも、仕方がない。俺の青春は学校やコートじゃなく、戦いと事務机にあるんだし。
◇
覆面パトカーに乗って本部へ移動。そのまま直で会議室へ。
……分かっていたけど、会議室の空気が重いです。会議室にいたのは守さん、川本さん、美樹本さん、美影さん、獺川さんの五人。集まれる上級ヒーローは全員集まったって感じだ。
「吾郎、詳しい話を聞かせてくれ」
守さんが重い口を開く。全員、上級ヒーローだからやばさが分かるんだと思う。
「城宮でのバスケの試合に仮面の男の乱入がありました。仮面の男を浄化したら、今度はポーチャーが乱入してきたんです。詳しい事は職員の人が撮ってくれた動画を見て下さい」
動画が進むにつれて、更に会議室の空気が重くなっていく。事前に話は聞いていたと思うけど、実際目にすると現実味が増す。
「仮面の解析は終わっているわ。かなり趣味の悪い呪具ね。仮面をつけられると、被害者は取り込まれてしまうの。分かりやすく言えば、生体ユニット化する為の呪具よ。そして対象者の負の心を増大させて、狂化させる」
流石は美樹本さん、もう解析してくれたんだ……生体ユニットか。だから、体格が大きくなっていたんだ。
そして魔力の根源は学園に沁みついたキャッスルナイツへの負の感情。だから、キャッスルナイツを見ると問答無用で襲い掛かっていたと。
「被害者少年は心身ともに衰弱している。自習室で勉強していたところ、キャッスルナイツに絡まれて暴力を振るわれたそうだ。その後、誰かに話し掛けられたらしいけど、その記憶はないわ。恐らく仮面の仕組みの一つね」
獺川さんが救急当番している所に運び込まれたらしい。
(キャッスルナイツは仮面の男だろって難癖をつけてきた。つまり、最低でも後一人仮面の男がいると)
「俺が今気になっているのは、デストラックスの事です。ランスボアは車に乗って会場にやって来ました。ずっと疑問に思っていたんですけど、二足歩行の猪が乗っていたら絶対に目立ちます。でも、車を降りるまで人化していたのなら、辻褄は合います」
つまりオッフェンはデストラックスとも繋がっていると。ポーチャーは同じ東京だからまだ分かるけど、山中に潜んでいるデストラックスとどやって繋がったのだろう?
「ナーチャーアニマルとの橋渡しもしていたかもな」
川本さんがため息を漏らしながら呟く。まあ、ここにいる全員がため息しか出ないと思う。
それだけ事態は深刻だ。
「総司令には、俺から報告をしておく。吾郎は報告書をまとめてくれ……事が事だから、量が多いけどな」
マジですか?……漫画でしか見た事がない様な量の書類が積み上げられました。
書類に取り掛かろうとした瞬間、美影さんに肩を叩かれた。なんか笑顔の圧が凄いんですけど。
◇
体中が痛い。昨日、殴られた所が青あざになっていると思う。
出血とかならヒールを掛けてもらえるんだけど、青あざになりそうですは微妙だ。
何より処置室行く時間がなくて本部から、そのまま学校に来ました。
「月山、おっす。昨日は助かったよ。」
不幸中の幸いと言ったら怒られそうだけど、練習試合は中止になったらしい。城宮の面目は丸潰れだと思うが、俺から言わせたら自業自得だ。
「おはよ。体は大丈夫なのか?」
月山が心配そうな顔で見ている……やばい、ちょっと泣きそうだ。
だって、怪我の心配をされるなんて久し振りなんだもん。
守さんなんて自分の技で怪我させておいて、直ぐに仕事の話を開始したんだぜ。
「下手したらアザになっているよ。もう、ちょい上手く油断させられたら良かったんだけど」
甲二級ってしゃべったのが失敗だったか。あそこは上級ヒーローでいくべきだった。
「あれだけ殴られてアザで済むのかよ。でも、ヒーローって回復魔法使えるんじゃないのか?」
確かにヒーローは怪我が多いから、回復魔法は必須だ。でも、全てのヒーローが回復魔法が得意だと思うなよ。
「言っておく。俺は切り傷しか治せないんだよ。消毒は医薬品ないと無理だし」
医学知識や魔力が不足しいていて、打撲は治せない。俺が出来るのは、あくまで救急処置。きちんとした治療は専門家に診てもらう必要がある。
「……それでもハザーズを一撃で倒すんだから、凄いよな。流石は上級ヒーローだ」
物凄い棒読みなんですが……あの一撃の凄さが分からないとは。これだから素人は。
「お前、あの一撃の凄さが分からないのか?命を取らず、それでいて心は折る渋い一撃なんだぞ。きっと城宮にはコカトイエローファンが増えた筈だ」
昨日の動画を見たヒーロー関係者は全員褒めてくれた。正に匠の一撃ってやつだ。
体育館からいなくなる時、歓声が聞こえていたし。
「いや、全員引いていたぞ。気分悪くした女子もいたし」
どうやら、あの歓声はバーディアンに対してのものだったらしい。俺、頑張ったんだけどな。
「くっ、冬休み前にエネルギーを溜めたかったのに。クリスマスイブどころか冬休み殆ど仕事だよ!」
高校生&モブ顔を探索にうってつけらしく、追加の仕事が増えたのです。
◇
冬休み目前&もう少しでクリスマスって事で、教室は笑顔で溢れていた……多分、俺以外は。
(援護依頼がとんでもない事になっているんですけど!)
人化の術のインパクトが大きかったのか、北は北海道から南は沖縄まで援護要請が沢山届いている。
移動には時間は掛からないけど、タイムスケジュールがかなり厳しいです。
ゲームのフリクエじゃないんだから、無茶振りだぞ。
「吾郎、ため息ついてどうしたの?元気がないぞ」
そんな俺に話し掛けてくれたのは鷹空さん。休みの間顔を見られないのが、かなりきついんですが。
「思いのほかバイトが忙しくなりそうで……鷹空さんはク……休みは部活とバイト?」
クリスマスの予定を聞きたかったけど、そんな度胸ないです。だって『デートだよ』とか言われたら、立ち直れない。
「そうだね。イブもバイトだし……吾郎、イブの夜って十分でも時間取れないかな?渡したい物があるんだ」
夢じゃないよな?イブの予定は……都内で行われるクリスマスイベントのガード。
美影さんが主宰するイベントを急遽手伝う事になったのだ……だって、圧が凄いんだもん。
「デザイナーのNEkОさん主催イベントでスタッフをするから、それが終わってからな大丈夫だよ」
場合よっては休憩時間をずらしてもらえる。ブルーパラディン主催のイベントに襲撃を掛けるハザーズはいないと思う。ファッション絡んだ時の美影さんはがちで怖い。
「マジで?うちの店も、そのイベントに出店するんだ!前に美影さんが来た時に味を気に入ってくれて、店長に直でオファーしてくれたんだって」
マジですか……待てよ、プレゼントどうしよう。俺も何か渡したい。
そして趣味の悪い物をあげたら美影さんに叱られてしまう……でも、後三日しかないんですが。




