青春戦隊、光来
……俺は歴戦のヒーローだ。戦闘だけじゃなく、ハザーズと舌戦を繰り広げる事もある。
だから、面の皮も厚くなったつもりだったんだけど……流石に肩身が狭くて胃が痛いんです。
「なあ、月山。“応援場所は俺に任せろ”って言ったからお願いしたけど、流石にここはアウトだろ?」
月山が選んだのは城宮の応援席の近く。当たり前だけど、城宮の教師や生徒が大勢おり、完全なアウエーです。
「お前が出した条件は目立たない事とすぐに動ける事。どっちの条件も満たしているぞ」
確かに出口のすぐ側だし、目の前には電光掲示板がある。
……いや、なんで高校の体育館に電光掲示板があるんだ?しかも、俺達がいるのは二階席。下手な市民体育館より設備が整っている。
「しかし、凄い設備だな。これ授業や部活で使うだけなんだろ?」
授業料、どれだけ取られるんだろ?改めて城宮に入学しないで良かったと思う。
「城宮だからな。体育館だけで五つあるらしいぞ」
マジかよ。生徒数は月浪と変わらないんだぞ。
「試合開始までまだ時間があるな。ちょっと挨拶に行ってくる」
本当は鷹空さんや健也の所に行きたいけど、流石にマナー違反だと思う。
俺が挨拶に行くのは仕事関係の人達。変身場所も確認しなきゃいけないのです。
◇
うん、そういう事だったのね。仕事関係の人に挨拶して戻ってきたら、月山の隣に女の子がいた。
しかも、もの凄く仲が良さそうなんですが。
(眼鏡に帽子。マスクまでしてら。風邪でも引いてるのか?でも、一番の問題は……)
二人の仲が良すぎて会話に混じる度胸がないのです。だって、物凄いリア充いちゃいちゃオーラが出ているんだもん。
無言で席に座って、スマホに目を移す。だって、月山凄く楽しそうなんだもん。王餅さんといた時の十倍は良い顔をしている。
(随分、親しい感じだな。って事は、この人が例の元カノさんか)
元カノが城宮の生徒なら、色々と納得がいく。事情があって別れたけど今でも好きな女の子が危険に晒されているとなったら、必死に懇願してきたのも頷ける。でもね、俺は君達の為に色々動いているんだぞ。
そんなヒーローも眼中にないらしく、もう五分は放置されているんですが。
「みっ君、隣に座った人、前に話してくれたお友達?」
み、みっ君?なに、その仲良くなきゃ絶対に呼ばれないネーミングは?
俺も、ごっ君って呼ばれたいんですが……いや、流石のごっ君はきついか。
(そういや、元カノは幼馴染みだって言ってたもんな)
「吾郎、戻って来たのなら、声を掛けてくれたら良いのに。小夜、こいつが同じクラスの大酉吾郎。吾郎、幼馴染みの小夜」
あれ、流れ的に俺に紹介するパターンじゃないの?甲二級ヒーロー、後回しにされているんですが。
「どうも、大酉吾郎です。凄い人数ですね」
元カノさんの方を見ながら頭を下げる。初対面の、ましてや友達の元カノの名前を呼ぶポジティブさなんて俺にはない。
「中野小夜です。今日はユースの人達も来ているんですよ。ここの第二体育館は、ユースチームが主に使っているんです」
なんでも学園のスポンサーが持っているチームらしい。お金持ちって凄いね。
当然、ユースの中には、学園の生徒もいるそうだ。
人気は凄いらしく、ユースの人見たさに生徒が集まったらしい。
「ちょっと待ってください。それじゃ城宮のバスケ部は、どこで練習しているんですか?」
城宮のバスケ部は、そんなに強くない。ユースを差し置いて練習出来るんだろうか?
「俺も同じ事を思って聞いたんだよ。校舎裏にバスケコートがあるんだってさ」
流石にアウトだろって思ったが、弱小バスケ部に入る生徒はやる気がある奴が少ないらしい。三年間部活に所属しましたっていう実績が欲しい人が殆んどとの事。
「……人の事言えないけど、切ない青春だな……」
だから、レッドはヒーローになれたのか。青春コンプレックス戦隊ユースファイブ、守さんのいう通りだったんだ。
しかも、そんな状態で、エースレッドは爽やかに笑っていたと。何か心が痛いんですけど!
闇落ち戦隊にならないよね。他の四人も何がしかのコンプレックスを抱えているんだろうか?
「みっ君、もしかして気付かれていない?」
中野さんが月山に尋ねる。大丈夫、二人の関係は知っています。ヒーローは、あえて黙っているんです。
「こいつもちょっと……かなり訳ありなんだよ。吾郎、事情があって注目を集めたくないんだ。なんとか出来ないか?」
まあ、学校の奴、特に健也には見られたくないよな。健也、王餅さんの事を未だに気にしているし。
「そこは心配するな。さっき頼んできた」
席番号を伝えて、意識疎外の術を掛けてもらった。俺が突然いなくなっても、誰も気にしない。
◇
術のお陰で誰も俺の事を気にしていない。そう、月山と中野さんも、俺の存在を忘れていないか?
(まあ、月山が楽しそうだから良いか……でも、別れた事情ってなんだろう?)
中野さんも凄い良い笑顔で月山と話をしている。鈍い俺でも好意が分かるレベルだ。
「月浪男子とユースの試合だね。みっ君の友達も出るんだよね」
中野さんの言う通り、健也はスタメンで出場する。プロを目指している健也にとって、ユースとの試合は自分の実力を測る良い機会だと思う。
「ああ、十二番の奴だ。健也、頑張れ」
月山だけじゃなく、皆がコートに注目していた。コートは熱気に包まれいて、本番さながらの盛り上がりだ。
(これだけ注目が集まれば、出て来るよな)
熱気の中に嫌な気配が漂っていた。恨みやと妬みが溶け合ったどす黒い負の感情。
「中野さん、ユースの中にキャッスルナイツはいますか?」
仮面の男はキャッスルナイツを恨んでいる。今までは闇討ちをしてきたけど、注目が集まっている場所で、キャッスルナイツを倒せば、彼等にとって最高のカタルシスだろう。
「居ますけど、それが何か?」
嫌な予感はあったようで、闇の気配がどんどん濃くなっていく。
健也、悪い。今日はお前じゃなくヒーローの出番らしい。
闇の濃度が更に濃くなった瞬間、そいつは現れた。
「なんだ?あいつは?おい、吾郎」
月山が助けてくれと縋ってくる。大丈夫、お前と中野さん……いや、ここにいる全員を俺が守ってみせる。
「俺に任せておけ。ちょっと、コートに行ってくら」
月山に笑顔で応える。俺はヒーローなんだぜ。
「みっ君、大酉君を止めて。あれ、学校で噂になっている仮面の男だよ」
中野さんが月山に俺を止める様に促す。でも、心配しなくて大丈夫。
俺は甲二級ヒーロー、コカトイエローだ。
「心配しなくて大丈夫さ。吾郎は強いんだぜ。前に言ったろ?ヒーローと友達になったって」
この流れからのコカトイエロー登場って美味しくない?特撮ヒーローみたいでテンション上がるんですけど!
「神聖なコートを汚す奴は、このエースレッドが許さない」
俺が立ち上がろうとした瞬間、エースレッド君が登場……どや顔をキャンセルして、とりあえず座ります。めっちゃ気まずいんですが。
「みっ君、大酉君、大丈夫?凄く気まずそうにしているけど」
中野さん、とどめを刺すのはやめて。
「心配しなくて大丈夫さ。吾郎はヒーローだけど、間が悪いんだ。お約束展開に愛されているんだ」
コカトイエローになれば、びしっと決めるよ。でも、大酉吾郎だと、こんなものさ。
「仮面の男だ?俺ちゃんが倒してやんぜ!チャラブルー様が来てやったぜ」
「試合に乱入なんてダサすぎなんですけど……だるいけど、ギャルピンク来たよー」
「仮面なんて被っていたら、肌が荒れるわよ。ドクモホワイト、私の美しさにひれ伏しなさい」
「モブイエロー、来ました……恥ずかしいー。全員、揃ったよ」
モブ君、君の気持ちは痛いほど、分かるぞ。
「「「「青春戦隊ユースファイブ、皆の希望を守る為に、光来」」」」
そう言って決めポーズをするユースファイブ。ヒーローショーじゃないんだから、決めポーズはいりません。
「おい、上級ヒーロー。なんだ、あれは?」
なんだといわれましても、ユースファイブとしか言えないんですが。
「仮面の男と対をなすヒーローらしくて……仮面の男は、キャッスルナイツに対する負の感情から生まれたみたいんなんだけど、それを青春の力で倒す的なヒーローなのかなって」
正直に言おう。俺も何を言っているか分からない。だって、ユースファイブは守さんの管轄だもん。
「え?負の感情で生まれたのなら、逆効果なんじゃないんですか?見せしめ状態になっていますよ」
五対一。しかも陰キャ対リア充?の構図な訳で、物凄く心に来るものがある。
(おかしいな。闇の濃さが足りない。それに仮面の男は、勝算なし出てくるとは思えない……そういう事か)
「やっぱり、行ってくる。もし、仮面の男が浄化されたら、学校中に正体がばれてしまう……それにもう一体来てるようだ」
この気配はポーチャーだ。
読まれているのか、この作品?




