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俺、ヒーローなんだけど   作者: くま太郎


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ヒーローだって男の子

 仮面の男の拳と守さんの必殺技のコンボで、背中がヒリヒリしている。普通の高校生なら、周囲が労わってくれている筈。

 しかし、残念ながら俺はヒーローな訳で……。


「流石は吾郎、上手く避けてくれたな。自転車は運んでもらうから、お前はパトカーに乗れ」

 爽やかな笑顔で話を進める守さん。確かに直接対峙しかたから分かった事もあるけどさ。

 後輩の心配はしてくれないんですか?貴方の必殺技ライトニングスラッシュは威力がえげつないんですよ。


「あいつ、人間でしたよ。直撃したらやばかったんじゃないですか?」

 もし仮面の男にライトニングスラッシュが当たっていたら、大問題になっていた。何より俺の背中に被害がでているんですが。

 ちなみに俺の回復魔法は手の平から氣を放つタイプだ。だから手を患部に向けなきゃいけない……早い話が、自分の背中は治せないのです。


「やはり、人間だったか。今回のライトニングスラッシュは討伐用じゃなく、観察用だ。狙いは外しているし、市街地用に威力も抑えている」

 抑えて、あの威力なのか……甲一級に上がれる日は、遠いのです。


「観察って事は、転移の確認ですか?」

 仮面の男は、突然現れて、現場から消える様にいなくなっている。お陰で何も対策が出来ていないのだ。

 その為に光属性のライトニングスラッシュで行動を観察したの事。完全な巻き添えです。


「それで何か分かった事はありますか?」

 俺達ヒーローが使っている転移システムは、かなり大掛かりな物だ。事前準備やオペレーターのサポートが必須。

 何の準備もぜずに転移する事は不可能と言っても良い。それにもかかわらず仮面の男は、任意の場所に突然現れて、そして用事が清むと消える。そのからくりが分からないと、被害が増えるだけだ。


「ああ、第三者が仮面の男を転移させている感じだった。正確には仮面を転移させていて、男はそのおまけで転移しているって感じだ」

 それなら納得がいく。多分、仮面の男は決まった場所に転移させられているんだと思う。


「同じ場所に戻るだけの転移システム。それなら、そこまで大掛かりな設備は必用ないですね」

 それに男への配慮はゼロだと思う。

(そこまでして城宮の生徒を襲う理由……あいつキャッスルナイツを見れば一目瞭然か)

 どう足掻いても、すっきりしない事件だと思う。


「詳しい話は本部でしよう。服は今度弁償させてくれ……まずはヒールを掛けておくぞ」

 そう言って自分の車に乗り込む守さん。明日は外せない用事があるので、素直にパトカーに乗る。何より早く対策を建てないとまずい事になるのです。


 今日は休みなんだけどな。最近、休日出勤が増えた気がする。


「対峙して分かったんですが、あいつは確実に人間でしたよ。そして、あの仮面は魔道具って言うより呪具に近い物です」

 しかも、かなりヤバい物だ。着けている人間への配慮は一切なし。多分、力の源は恨みや妬み等の暗い感情。


「恨みか。城宮の生徒を調べてもらったけど、該当者はいなかったぜ」

 城宮の生徒から、仮面の男を探そうとしても無理だ。


「多分、身長や体格は当てになりません。あの身体は魔力で構成されている可能性が高いです。恨みをもった相手に力や体格で負けない為に、魔力で補っているって感じでした。だから、身体の動かし方ががぎこちない」

 腕にはマジックハンド、足には竹馬をはいて動いている感じだ。当然、動きはぎこちなくなる。でも、力は圧倒的で残酷性も高い。


「それじゃ、また調べ直しか。他に気になる事はなかったか?」

 仮面の男にはもうない。俺が気になっているのは、被害者キャッスルナイツだ。


「調査の手助けになるか分かりませんかキャッスルナイツと、そいつ等に恨みをもっていそうな人を調べてもらえますか?」

 俺がキャッスルナイツの事を伝えると、守さんは大きな溜息を漏らした。そんなに的外れな提案だったのか?


「恨みを持っているのは、キャッスルナイツ以外の全員さ。教師も含めて、城宮の人間はあいつ等を恐れて恨んでいる。キャッスルナイツってのは、昔からある城宮学園の自警組織なんだよ」

 守さんの話では昭和には、もう存在していたそうだ。だから、あんな古臭い名前なのか。


「漫画の生徒会じゃないんですから……良く学園が黙っていますね」

 教師も恐れるってなんだよ。俺は甲級ヒーローだけど、上形先生が怖いぞ。


「キャッスルナイツへの入団条件は、親が上級国民である事と先輩からの推薦がある事だ。生徒会と違って、規律性は求められない。そしてOB、OGには政治家や芸能人、会社の社長が大勢いる。漫画の生徒会みたいな権力を持った集団なんだよ」

 元は他校の生徒から城宮の生徒を守る為に生まれたらしいけど、時間と共に好き勝手するだけの集団になったらしい、

 親子でキャッスルナイツに在籍していたってもの珍しくなく、OBやOGと太いパイプがあるそうだ。

(キャッスルナイツの背後にはがちの権力者がいると……そりゃ、あんな勘違い集団になるか)

 さっきあった三人組を思い出す。そんな集団なら仲間の敵討ちは、在籍の必須条件なのかもしれない。


「随分詳しいですね」

 それだけキャッスルナイツは、有名なんだろうか?でも、俺は聞いた事なかったし。


「中学のダチが城宮に進学して、キャッスルナイツに絡まれたんだよ。それで詳しいのさ。そいつは今城宮で教師をしている。それもあって、この件は俺が担当しているんだよ」

 その友人からキャッスルナイツに入っている生徒だけが襲われているって相談を受けたらしい。調べてもらうと、最近のキャッスルナイツは犯罪にも加担しているそうだ。

聞けば聞く程、闇深案件なんですが。キャッスルナイツと仮面の男、どっちが悪なんだろうか?


 守さんのヒールは完璧だった。そして本部は冷暖房完備。何より事件の闇深さに気を取られて、大事な事を忘れていた。

 シャツの破れた所から木枯らしが入り込んできて、めちゃ寒いです。

(負けるな、俺。明日は鷹空さんの手料理が食えるんだぞ!)

 自分を鼓舞しながら、自転車をこいでいく。

 ただ今、時刻は夜の十時。米を乗せて自転車をこぐ背中丸出しの高校生……確実に補導の対象なんですけど。

 そしてもう一つ大事な事に気付く。俺まだ晩飯食をべていません。でも、この恰好でコンビニ寄る度胸なんてないです。

(どっちにしろ米をおろさないと店には入れないか……あれは)

 目の前に見つけたのは、見知った後ろ姿。


「よう、月山。バイトの帰りか?」

 その割には妙にお洒落な恰好をしていやがる、まさか、二度目の春じゃないよな?

 ……いや、月山こいつは、俺側の人間だ。この短期間で、新しい春なんて来るわけがない。


「お、俺はただの幼馴染み……じゃなくて友達です……なんだ、吾郎か。俺はちょっと出掛けていたんだよ……お前こそどうしたんだ?もう蝉の脱皮の真似なんて、季節外れだぞ」

 月山君、君は僕がヒーローだって知っているよね。これはいわゆる名誉の負傷なんだぞ。


「違うっつうの。これは仕事で破けたんだよ。まあ、名誉の負傷ってやつさ」

 名誉の負傷って書いて巻き添えって読むんだけどね。後、数センチずれていたら、俺の背中が大変な事になっていたと思う。


「でも、お前米積んでいるじゃん。正直、かなり怪しいぞ」

 月山の言う通り、荷台はにお米、籠には調味料を乗せている。どう見てもヒーローの帰りには見えないと思う。


「買い物の途中で事件に巻き込まれたんだよ……そうだ、月山。お前、城宮に知り合いはいるか?」

 いなくても月山も、この地区に住んでいるからキャッスルナイツの事を知っているかも知れない。


「い、い、いるけど、それがどうした?」

 なぜか思いっきり動揺する月山。キャッスルナイツにトラウマがあるんだろうか?


「仕事絡みでちょっとな。キャッスルナイ……」「し、城宮にハザーズが出たのか?誰かが狙われているとか言うんじゃないよな?」

 動揺から一転。鬼気迫る勢いで、詰め寄ってくる月山。


「詳しい事は言えないけど、狙わているのはキャッスルナイツって連中だ。お前もニュースで見たろ?このあたりで、学生が襲われているって事件。その被害者がキャッスルナイツなんだよ」

あからさまにほっとしている月山。今の態度で確信した。こいつは確実にキャッスルナイツの事を知っている。

 しかも、あまり良い印象を持っていない様だ。


「ヒーローの前で、こんな事言ったら怒られるかも知れないけど、自業自得だよ。俺の知り合いもあいつ等(キャッスルナイツ)に迷惑しているんだ」

 眉間に皺を寄せて、怒り露わにする月山。知人もそうだけど、月山もキャッスルナイツを嫌っているようだ。

(友達じゃなく知り合い……そして、今の怒り方)

 ただの知り合いに、あそこまで感情移入するとは思えない。

 前に話してくれた元カノさんの可能性がある。いじりたい所だけど、武士の情けだ。気づかないふりをしてやろう。


「あのな、俺達が助けているのが、全員善人ばかりだと思うか?助けても感謝されるどころか“来るのが遅いんだよ。税金で飯食っている癖に”とか“ピースガーディアン様かエスパルオンさんみたいな格好いいヒーローの方が良かった。外れじゃん”とか言われるんだぞ」

 それはまだ良い方で、助けた奴の方が悪人って事もある。何しろそいつを恨んでハザーズに変化したってパターンもあった。


「内容が具体的すぎる……お前も、ストレス溜まっているな」

 うん、高校に入って、お前や健也……鷹空さんに会うまでは人を信じられなくなっていたからな。


「まあ、キャッスルナイツはきついお灸が確定しているから安心しろ。それと何かあったら、お前とお前の知人さんは甲級ヒーローが優先的に助けてやる。ライソに助けって一言送るだけで、コカトイエローが駆けつけるぜ」

 わざと砕けた言い方で話す。何しろで甲級ヒーローを個人で呼ぶなんて、上級国民でも不可能。いくら金を積んでも無理なのだ。

 ちなみに前に九稲総司令にいちゃもんをつけたのは、キャッスルナイツのOBだったのだ。

 今回の事件でキャッスルナイツの事を色々調べたらしい。当然、その結果は総司令にも報告がいく。

 お灸どころか大炎上確定だと思う。救助優先度が下がるし、ヒーロー利権に一切関われなくなるのだ。会社や親戚からクレームが殺到していると思う。


「……助かるよ。あいつに何かあったら、マジで頼む。ハザーズに狙わる危険性があるんだ」

 月山君、君の元カノって、何者なの?とんでもないお嬢様とか?


「……その代わり城宮の情報を聞いてもらえるか?どんな些細な事でも良い。いきなり強気になった奴がいるとか、服装や人間関係が派手になったとか、学生目線だから分かる情報が欲しいんだ……後、ついでにコカトイエローファンの女子がいないか聞いてもらえる?」

 もてたいとか贅沢な事は言わない。クレームじゃなく、黄色い声援が欲しいんです。


「変わった事がなかったかは聞いておくよ。お前のファンねえ……それを聞いてどうするんだ?実は、俺コカトイエローだって言っても信じてもらえないと思うぞ」

 その夢は諦めた。でもヒーローだって男なんだぞ。


「モチベーションを上げたいんだって!もう少しでクリスマスだろ?当然、仕事なんだけど……俺を応援してくれている女の子がいるって分かったら、元気出るじゃん」

 クリぼっちを通り越して、クリバトルなんだぞ。しかも、守る対象は高確率でリア充な恋人達。せめて黄色い声援が欲しいのです……やる気下さい!


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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます 守さんヒールかけるの遅い笑 しかも避けるの前提攻撃 相変わらず主人公の不遇具合がコミカルで好きです 今日もヒーローが読めて幸せです ありがとうございました
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