一番強いのは?
今回の一番の肝は、どうやってハザーズをおびき出すかだ。
仲間が倒された直後だから警戒している可能性がある。
魔力、オーラ、幻獣力、ヒーローによって呼び方は違うけど、ヒーローは身体から特殊なエネルギーを発しているそうだ。
実際、守さんなんて一流芸能人並みのオーラあるもん。
ハザーズも馬鹿じゃない。強力なエネルギーを放っているヒーローが近づいてきたら逃げる。
でも、それじゃ討伐が出来ないので力を抑える技術が開発された。
足元に意識を集中させて、幻獣力を抑える。
(部分吾郎化)
ブリーディングウィードは植物が元になったハザーズだ。だから根で情報を集めている可能性が高い。地面に直で触れる足の力を抑えれば、俺の存在に気付かないと思う。
(ハザーズの気配が濃くなってきた……向こうも、こっちを探っている感じだな)
足元に意識を集中し過ぎた所為か、気付いたら少し速足になっていた。
なんでそれ気付いたかと言うと、不満駄々洩れな視線を背中に感じたからだ。
「あり得ない。歩くペース早過ぎ。あいつ、絶対モテないでしょ」
ブルーキャタピラーが、ぼそりと呟く。ああ、モテないぞ。大正解だ。
でも、これで遠慮なく餌になってもらえる。
「それは気付かなくてすみませんでした。私が探索をしてきますので、バグズファイブの皆さんはベンチに座って休んでいて下さい」
丁度、噴水についたので近くにあるベンチに座る様に促す。そしてハザーズの気配と真逆の方角に歩を進める。
「やっと座れる。あ、お巡りさんも座りませんか?」
レッドフライさん、気を効かせているつもりでしょうが、警察官はお仕事中なんですよ。
警戒中、しかも同僚が見ている中でベンチに座る人はいないと思います。
当たり前だけど、警察の皆様はバグズファイブを守る態勢をとる。俺はその背後に回り、林側からは見えない位置に移動。
(予想通り、こっちに近づいてきているな)
息を潜めてブリーディングウィードが罠に掛かるのを待つ。
「バグズファイブ、破れたり。戦場でベンチで休憩など愚の骨頂。スコップスギナの仇は、この支柱セイタカアワダチが取らせてもらう」
侍口調のブリーディングウィードがバグズファイブの前に立ちはだかった。
警察官の背中越しに確認すると、支柱を手に持った身長2m近いハザーズだ。
髷も結っており、見た目は渋めの武士って感じである。
「新しいブリーディングウィードだと!バグズパワーも残り少ないって言うのに」
ブラックスティングさん、まずは立ちましょう。座っている余裕なんてない筈。
(こっちをちらちら見ているな。俺がいるから余裕があるのか)
いや、俺が別のハザーズと戦っている可能性もあるんですが。
「ならば立て。我は侍。卑怯な真似はせぬ。ただし一対一での戦いを所望する。バグズファイブよ、我と戦え」
卑怯な真似か。支柱セイタカアワダチの態度からは余裕が感じられる。バグズファイブと警察官を合わせると、戦力はこっちの方が有利だ。
その上で、あの余裕だ。多分、あいつはバグズファイブが疲れている事を知っている。
まあ、それ位の策が使える奴じゃないと、バグズファイブの教育にならない。
バグズファイブはどうするかなって見ていたら、全員が下を見たまま固まっていました。
「……いつ、出て行くんだ?皆、心配しているぞ」
皆?空子さんに言われて周囲を見ると、警察の皆様が心配そうな顔で俺を見ていた。
下手すりゃ目の前で殺人事件が起きる可能性があるんだから、心配になるのは仕方がない。
でも、バグズファイブが名指しされているし、まだ俺がしゃしゃり出る場面ではないと思う
「あいつ等に本当のヒーローの覚悟があるのか見たくって。それによって、今後の教育方針が変わりますので」
俺の役割はバグズファイブがデストラックスを倒せる様にする事。でも、その後は知りませんじゃ無責任過ぎる。
ヒーローとしての本当の覚悟を身につけてもらわないと。
「ヒーローの覚悟って……命懸けで格上の相手に挑めって事か?」
いや、そんな事言ったら、俺も格上と戦わなきゃいけなくなるじゃん。そんなの無理です。
「ヒーローに一番必要なのは栄誉でも勝利でもありません。担当している事件をベストな形で解決する事です。今、最低限しなきゃいけない事は、警察官を守る事と支柱セイタカアワダチを公園から出さない事。その為には、支柱セイタカアワダチを倒すのが一番。自分達が倒せないなら、どうるすべきか?それが出来るか見ているんです」
自分が倒せないなら、どうするべきか?待っているだけじゃ事態は悪化するだけだ。
「お前に助けを求めろってか?さっきモテない扱いしていたし、きついんじゃないか?」
プライドが許さないってやつ?俺は必用なら誰にでも頭を下げるぞ……そうしないと、トラウマ級の悲惨な場面を見る羽目になってしまう。
「誰も来ぬのか?腰抜けめ。警察官でも、誰でも良い。我を満足させる者はおらぬのか?」
セイタカアワダチが、手に持っている支柱を警察官に向ける。流石に行かないとまずいな。誰でも良いって言っていたし。
「コカトさん、助けて下さい!私達じゃ勝てません。だからお願いします」
ホワイトモールクリケットさんが悲痛な声で叫ぶ。うん、良く出来ました。
「分かりました……俺が相手になっても良いですよね?疲れたヒーローを倒しても自慢にならないでしょ」
警察官を飛び越えてバグズファイブと支柱セイタカアワダチの間に割り込む。
思いっきり安堵の溜息を漏らすレッドとブラック。遅いと言わんばかに舌打ちをするブルーさん。俺、あの人達に何かしたっけ?
でも、ホワイトさんとイエローさんは感謝していたので合格にしておきます。
「ほう、この者達よりは腕が立つようだな。名を名乗れ」
随分古風な喋り方だけど、セイタカアワダチソウって、北米原産の外来種だよね?日本のハザーズに馴染む為の努力なんだろうか?
「コカトイエローだ。どっからでも掛かってきな」
セイタカアワダチに勝つのは簡単だ。でも、どうせならバグズファイブに戦いのお手本を見せたい。
「一人で戦う心意気は認めよう。しかし、無手の相手に勝っても自慢にならぬ。我の武器は支柱に頼らずとも、倒れぬという雑草の誇り。園芸植物が頼りにしている支柱を雑草が武器にするとは最高の皮肉だとは思わぬか?丁級ヒーロー君」
丁級ヒーロー?俺が?
(あ……モブ化解除していなかったもんな)
だから、あんなに余裕があるのか。
「俺は無手でも戦えますんで……武器は必用になったら、使わせてもらう」
もう一体のハザーズを釣る必要があるので、モブ化はまだ解除しない。
勘違いした自分を恨んで下さい。
「自信過剰も良いが、あの世で後悔しても遅いのだぞ」
そう言うとセイタカアワダチが支柱を逆袈裟で斬りつけてきた。
(躱せるスピードだけど……)
「嘘だろ!支柱を蹴り上げた?……いや、力の流れをみていなしたのか」
イエローさん、70点。皆から遠ざける位置に蹴り飛ばしたのも気付いて欲しかった。
蹴りの威力でセイタカアワダチは林側に移動。これでバグズファイブや警察官との距離が出来た。
「この蹴りの威力……まさか丙級?いや、それにしてはオーラがなさ過ぎる」
おい、そこの雑草。上級でもオーラがあるのは守さんみたいなイケメンだけなんだぞ。
あんな普段から素敵オーラ出している人と比べないで下さい。
セイタカアワダチの位置を確認して跳躍。目指すのは、セイタカアワダチの背後にある木。その枝に掴まり、一回転して着地する。
「まじ!なんてジャンプ力なの?木の枝に掴まって、バックをとった」
ホワイトモールクリケットさん、使える物はなんでも使いましょう。自分の得意な場所で戦えれば、格上ハザーズでも有利に戦える様になります。
「テイルロッド……不安ならお仲間を呼んでも良いんだぜ」
お願いだからプライドとか捨てて早く呼んで下さい。一体取り残したからって、お泊りは嫌なんです。
「我相手に杖で戦うと?そんな蛇の飾りなんかがついた杖を使って恥ずかしくないのか?」
セイタカアワダチに鼻で笑われた。蛇に変化して攻撃したいけど、それだとブルーさんの勉強にならない。
テイルロッドで、セイタカアワダチに攻撃を始める。
「レベルが違い過ぎる……ハザーズを杖だけで翻弄している」
ブルーさんが驚いているけど、杖は俺のメインウエポン。そして文字通りの身体の一部だ。
訓練もしたけど、今では自由自在に扱う事が出来るので頼りになる武器だ。
ただ、蛇にも味覚があるのが難点。トラップスパイダーの腕は強烈に臭かったです。
(セイタカアワダチが根を地面に刺した……来るぞ)
植物は根から電気信号を出して情報を共有しているっていう学説がある。
ブリーディングウィード達も、同様に電気信号でコミュニケーションをとっているのだと思う。
「よお、セイタカアワダチ。俺も混ぜろよ」
そう来たか。次に現れたのは片手がジョウロになったハザーズ。ジョウロで、どうやって戦うんだろう?
「ジョウロウルシ。来てくれたのか?向こうは六人もいる。共に戦ってくれるか?」
前言撤回。大撤回。あのジョウロには漆の液が入っているんだ。距離をとって戦わないとかぶれてしまう。
(それにしても白々しい。バグズファイブが戦えない事を教えている癖に)
その証拠にジョウロウルシは俺の事しか警戒していない。
「とりあえず二体揃ったな。ここから本気でいく」
バトルスーツを着ていても漆かぶれは怖い。もし呼吸用の穴から入って顔に掛かってしまったら……速攻で倒す。
まずは近づいても大丈夫な支柱セイタカアワダチから……。
「すげー。手刀でハザーズの首を切り裂いたぞ」
「相手が油断している隙に一瞬で近づいて倒す。忍術の先生が言っていた通りの動きだ」
ブラックさん、レッドさんごめんなさい。お手本より、かぶれ防止を優先させてもらいました。
「お前、本当に丁級なのか……そ、それ以上近づいてみろ。全身かぶれさせてやる」
ジョウロウルシが脅す様にジョウロを掲げた。なんて嫌な宣言だ。でも、近づかなきゃ良いんだよね。
「残念、甲二級だ……ソルトブレスッ」
ソルトブレスなんて恰好付けてはいるけど、昼に食べた豆腐ラーメンから塩分を抽出させただけだ。
狙うのはジョウロウルシの口の中。でも、呼吸を止める為じゃない。多分、こいつ等は葉で呼吸をしている。口は会話をする役割しかない。
「あぶねっ。って、何も起きないじゃないか。ビビッて損した。こんなの何の意味があるんだよ……う、腕が動かない?」
植物にとって塩分は大敵。ましてこいつ等は。魔力を全身に巡らせる事で身体を動かしている。つまり身体を動かそうとすると、塩分も身体を回る。
そしてジョウロウルシは、そのまま枯れていった。
「倒したようですね。それじゃ帰りますよ」
ジョウロウルシを倒して一息ついていると、獺川さんが近づいてきた。
「あ、俺武蔵野うどんを食べて帰りますので」
塩分補給大事。後始末はバグズファイブに任せ、地元グルメを堪能するんだ。
「都内でも食べられます。前から君のブレスに興味があったんだ。体内の塩分がどれだけ減っているか調べる。はい、さっさと歩く」
獺川さんはヒーローの時は敬語で話してくる。でも、今は敬語が消えてお医者さんモードに……絶対逆らえません。
「えー、せめてお土産用のを買わせて下さい」
もう口の中はうどんになっているんですが。
「却下。時間が経てばデータの正確性が薄れる。まずは車内で採血。戻ったら詳しい検査をする」
だから戦闘前に採血したんですね。




