手だし禁止ですか?
テスト明けの日曜日。クラス……いや、同じ学年の皆は部活や遊びを満喫すると思う。
そしてこんな時間から起きているのは、俺だけだと思う……コカトイエロー、始発で埼玉に向かっています。
(ブリーディングウィード、目撃数増えすぎだろっ!)
昨日、守さんと話している最中にも目撃情報が増え、急遽調査となったのだ。
当たり前だけど、メインはバグズファイブ。俺はアドバイザーポジションらしい。
目撃情報が多いので、もう一人上級ヒーローがアドバイザーとして参加するそうだ。
待ち合わせ場所は大宮駅近くにあるコンビニ。時計を見たら、まだまだ待ち合わせ時間には余裕がある。
(ついでに朝飯を買っておくか…… 確か西口に公園があったよな)
テスト終わりのご褒美って事で、豪華にいかせてもらう。
まずは敵に勝つって事で、ロースかつ弁当。お汁代わりにカップ麺。デザートにプリン。野菜も必要だから、ハムサンド。仕事をするんだ。これ位食べなきゃ。
喜び勇んでレジに向かうとしたら、誰かに腕を掴まれた。
まさか、万引きGメンに誤解されたとか?ヒーローなのに、万引き犯扱いはきつ過ぎる。
「鶏君、医者と待ち合わせしているって言うのに、随分とバランスの良い朝食だね」
そこにいたのは、ある意味万引きGメンより、厄介な人。うん、完全に怒っています。
「せ、獺川さん、偶然ですね。出張か何かですか?」
サンサンクの三人は仕事柄、食生活に凄く気を使っている。
たまに食事に行くけど、食べる物を選ぶのに時間が掛かってしまう。
だって、どんな料理か分からないお洒落ネーミングなメニューなお店に行くんだもん。
出てくるのは、野菜がメインのあっさりヘルシーな料理。あんな洋風精進料理は高校生に物足りないのです
その中で特に獺川さんは、医師だけあり自他共に厳しい。獺川さんの採点だと、俺の籠は間違いなく赤点です。
「話を聞いていないのかな?今日は私も同行するわよ……正確に言うと、君の監視さ」
アドバイザー?言っちゃあれだけど、俺の方が階級は上だぞ。怖くて口には出せないけど。
「それはどういう意味でしょうか?……あ、まず会計してきますね」
階級は俺の方が上だけど、獺川さんは人生の先輩。待たせるのは失礼だ。
「その中で買って良いのは一つだけ。残りは戻して来なさい。朝から揚げ物を胃に負担が掛かる。しかもカップラーメンも買うなんてメインが二つになるじゃないか?カロリーオーバーだぞ」
正論過ぎて返す言葉がございません。月山でも駄目出しをすると思う。
「カップ麺はお汁代わりですし、今日は身体を動かすと思うので……駄目ですか?」
なんとかカップ麵は死守したい。これは戦いに備えた仕込みでもあるのだ。
「逆に聞くよ。オッケーされると思うかい?それに今日の君の役目はアドバイザー。手出し禁止だ。君の性格からして何かあると、確実に乱入する。それだと彼等の成長に繋がらない。だから私が来たのさ。アドバイザー役のアドバイザーとしてね」
正論パート2。バグズファイブが負けそうになっていたら……いや苦戦していたら、我慢出来ずに乱入すると思う。
「それなら弁当を戻します。カップ麵は……に使おうと思いますので」
獺川さんに今回の仕込みを説明する。トンカツ弁当は諦めました。他に何食べよう。
「ほう、面白い考えだね。それなら私に代案があるわ。朝はこれで我慢しなさい」
そう言って獺川さんが籠に入れたのはサラダチキンを使ったサンドイッチとプレーンヨーグルト。確かに見守るだけなら、これで良いかもしれないけど。物足りないです。
「分かりました。現場までは、どうやって移動しますか?俺はバスを使うつもりなんですけど」
下見もしたいし、もう少ししたら移動しようと思う。
「それなら私の車に乗って行けば良いでしょ。詳しい話も出来るし」
まあ、コンビニでハザーズやヒーローの話はし辛い。それにアドバイザーをする時の心構えを聞いておきたい。
「お願いします……いつ見ても凄い車ですね」
獺川さんの愛車はランドクルーザー。ヒーローの仕事は郊外に行く事が多い。パワーのある四駆は、どこでも行けて便利だそうだ。
「雪香と音子の車に比べたら、大人しいわよ」
ちなみに雪香さんの愛車はフェラーリで音子さんの愛車はポルシェ。乗せてもらった事あるけど、滅茶苦茶緊張しました。飲食どころか口を開く事すら躊躇った。
「お二人とも仕事が仕事ですし。でも、なんでアドバイザーを引き受けてくれたんですか?」
獺川さん本業も忙しい。むしろ守さんか川本さんの方が時間に融通がきく。特に川本さんは、バグズファイブとか関わりを持った事がある。
「雪香も音子も今忙しいでしょ?サンサンクのメンバーとして、私が動かなきゃ駄目なのよ。それにブリーディングウィードにも興味があるしね」
チームで動いているヒーローは互いにフォローし合っている。
今は美樹本さんと美影さんはファッションショーの準備に向けて忙しい。だから、獺川さんが二人の分も動くんだろう。
「相変わらず仲が良いですよね。高校の同級生でしたっけ?」
中学の同級生と、それなりに仲良かったつもりだけど、今は付き合いが殆んどない。
小学校に至っては済んでいる地域が違うので。何をしているのかも分からないのだ。
「二人には手術や学会の時に助けてもらっているから……でも、一番の理由は君よ。強くなったけど、直ぐに無茶するし、何でも一人で解決しようとするでしょ?雪香も音子も心配しているのよ。まだ、高校生でしょ。大人を頼りなさい」
それを言われると弱い。クリプテッドファイブは解散して、実質、俺は一人で動いている。
そうすると、どうしても無理しなくちゃいけない場面がある訳で。
強いヒーローになる、大人になるってどういう事なんだろう?
◇
獺川さんの運転でついたのは、自然が多く残っている公園。結構大きく住民にとっては大切な憩いの場所だそうだ。
「昨日、目撃情報があったのが、ここの公園なんですね」
ハザーズの目撃情報があった所為か、駐車場は閑散としている。
お巡りさんがいて規制線が張られていれば、近づく人はいないだろうけど。
「森もあるし、地面も手入れされている。植物系ハザーズが好みそうな場所ね……結界を張るから変身しなさい」
獺川さんの車には魔力加工がされており、結界を張ると周囲から認識されなくなる。
その範囲は1キロ四方に渡るそうだ。結界を張った後、車と違う方向に移動。そこで結界を解除すれば、どこから来たのか特定され辛くなる。
「初めまして。バグズファイブの援護に来た者です。責任者の方はいらっしゃいますか?」
頭を下げながら警察官に尋ねると、周囲がざわついた。
「コカトイエロー?ここのハザーズって、そんなにやばい奴なのか?」
「サンサックのレッドクレリックもいますよ。どっちも有名はヒーローじゃないですか?」
「す、少しお待ち下さい」
そうだよね。上級二人も来たら驚きますよね。まさか獺川さんが、俺の監視だとは思わないよね。
「わ、私がそうですが」
高そうな制服に身を包んだ中年男性緊張気味に話し掛けてた。多分、これがヒーローに対する一般的な反応だと思う。
遠目で見ている分には頼りになるけど、近くに来られると怖い。俺達は人外的な力を持っている。警戒して当然だ。
「この二人の対応は、私に任せて貰って良いですか?……テスト明けなのに、大変だな。赤点は回避出来そうなのか?」
警戒しまくりの警察官に声を掛けたのは意外な人物だった。
「空子さん、なんで埼玉にいるんですか?」
ハザーズが出れば全国どこでも行く俺達と違い、空子さん達警察は管轄で動く。
俺達への反応と真逆で、他の警察官の反応は冷やかだ。ここでは空子さんは余所者扱いなんだと思う。
「例の会議に出る政治家が、今度ここで開かれるイベントに出るんだよ。その絡みとヒーローやハザーズに詳しいってんで呼ばれたのさ。でも、お前等二人が一緒に動くなんて珍しいな」
周りの警察官の空子さんを見るが畏怖に変わる。上級二人に臆するどころか親し気に話しているのを見たからだろう。
「コカトイエローはバグズファイブのアドバイザー役兼監視です。そして私はコカトイエローのお目付け役って感じすね」
獺川さん、お目付け役は酷くない?警察の人もポカンとしてますよ。
「あー、誰かが手綱を握ってないと、鶏が一人で片付けようとするもんな」
空子さんからも、そういう目で見られてたとは。
「何かない限り手だしませんって。とりあえずバグズファイブと打ち合わせしたいんですけど」
もう集合時間だ。打ち合わせをして園内を調査しないと。
(ハザーズが本当にいるかどうか調べて、園内に人がいないかの確認。ハザーズの能力の調査、戦える場所の選定。やる事は山ほどある)
ハザーズとの戦いで万が一があってはいけない。入念に調査して安全を確保しないと。
「それがまだ来てないんだよ。お陰で全員待ちぼうけさ」
空子さんが溜息をも漏らす。もし、空子さんの訓練に遅れたら……考えただけで、胃が痛いです。
「約束の五分前には待ち合わせ場所に着いているが、社会人の礼儀でしょ」
俺は待ち合わせ場所を確認する為に三十分前にいたい派だぞ。
「コカトイエロー、覚えておきなさい。世の中には大人になっても、マイルールで行動する人がいるのよ。診察時間になってからコーヒーを飲み始める人もいるんだから」
レッドクレリックさん、獺川さんとしての愚痴が漏れてますよ。
「待たせたな。バグズファイブ……新生バグズファイブの登場だ!」
空気を読まずに、強キャラ感満載で宣言するレッドフライさん。
主役は遅れて登場するが許されるのは、物語の中だけです。
「二週間の特訓で私達は、パワーアップしました。今ならどんなハザーズにも負けません」
ブルーキャタピラーさん、ごめんなさい。指示した俺が言うのも、あれなんですが、二週間の特訓じゃそんなに強くなれません。
「私達の強さにブリーディングウィードが怯えて逃げてしまうかもね」
ホワイトモールクリケットさん、そんなに強さが変わっている風には見えませんよ。特訓や練習でパワーアップ出来るなら皆が四番でエースになれます。
「今の俺達は乙級にも引けを取らないと思います」
イエローローリーポーリさん、甲って言わなくて良かったね。獺川さんがキレる寸前よ。
「今までの俺は女受けを考えて活動していました。でも、今は違う。ヒーローにはイケ度にあった実力が必要なんですね」
ブラックスティングさん、そのいかにも特訓しましたって感じの薄汚れたマント正直ダサいです。
これ、まじで手だし禁止ですか?




