希望進路は?
今回は少し短めです
……やばい。まじでやばい。コカトイエロー、本気でピンチだ。
「期末テストは二週間後だ。全員ちゃんと勉強していると思うが、油断しないように。各部活動も休みになる……」
担任の先生の話を聞いてから冷汗が止まらない。
(やばい。ここしばらく何も勉強していないぞ)
普段は予習復習を欠かさない方だ。決して、真面目だからじゃない。仕事が忙しいから、そうしないと着いていけないからだ。
でも、ここ最近援護の機会が増えたし、バグズファイブの強化計画に時間を回していた。
「吾郎、随分顔が青いぞ……何かあったのか?」
月山君、逆に僕は聞きたいよ。なんで、そんな余裕があるんだい?
「テストの事すっかり忘れていた。まじヤバい」
今からテスト勉強して間に合うだろうか?正直に言います。全く自信がありません。
「きちんと授業聞いていれば大丈夫だって。お前、前回のテストでも赤点はなかっただろ」
ギリね。ギリギリ赤点を回避出来たレベルだ。お陰で総司令からこっぴどく怒られた。
……よく考えたら、職場の上司にテストを見せる意味が分からないんだけど。
「吾郎、今からでも間に合う。一緒に勉強しようぜ……満、今回も勉強を教えてくれ」
話に加わってきた健也が月山に頭を下げる。そう、月山は頭が良い。
バイトしていても塾に通っている生徒より成績が良いのだ。もちろん普段からめっちゃ勉強しているけど、地頭が違うんだと思う。
「俺も頼む。出来たら、数学と英語を重点的に」
部活なら赤点を取ったら、活動停止になるかもしれない。
でも、俺が赤点を取ったら、総司令によるハードトレーニング+獺川さん、川本さんによる補習が待っているのだ。
当然、使われるのは俺のプライベート時間。
ちなみに獺川さん達は仕事扱いになる。仕事だから遠慮も配慮もない本気モード。そして二人は変身した状態で講師をしてくれる。一秒も油断できないのです。
(お陰で高校に合格出来たけど、あの地獄はもうこりごりだ)
高校受験の時にも協力してもらったけど、苦行レベルの大変さでした。
「分かったよ。場所は吾郎の家で良いよな」
月山が俺の家を選ぶ理由は誘惑する物がないからだ。それに一人暮らしだから、気を使わなくても良い。
(良いけど、二人共自分の家に上げたがらないんだよな)
なにか見せたくない物でもあるんだろるか?
「良いけど、飯は各自で準備しろよ。自慢じゃないが、今俺の家にはカップ麵しかない」
バグズファイブの強化計画に手を取られて買い物に行けていないのだ。それでも一応、醤油・塩・味噌・豚骨と種類は揃っている。
「ごーろーう、まだ、そんな食事しているの?ちゃんと栄養摂らないと駄目でしょ」
何時から聞いていたのか、鷹空さんが話に加わってきた。そして、その表情から本気で怒っているのが分る。
「か、カップ麺でも栄養を摂れるから……主に塩分とか」
俺は歴戦のヒーローだ。どんなハザーズにも臆する事はない。
でも、今の鷹空さんはがちで怖いっす。
「カップ麺なんて塩分過多でしょ!勉強会には僕と智美も参加するから……健也も月山君も良いよね?」
嬉しいけど、俺の意志は?……とりあえず本部に来客申請書を上げなきゃ。
◇
……勉強会があるからって油断出来ない。本部でもテスト勉強を始める。
(お願い。今日は援護なしで……あってもサブ援護でお願いします)
一回援護に行くと書類だけでも、数時間潰れてしまう。
「お、鶏君、頑張るっているな。ところで吾郎君は、どこの大学に行くつもりなんだい?」
勉強をしていたら、獺川さんが話し掛けてきた。大学か……正直、何も考えていない。
「進学したいですけど、将来何になるかまだ決めていないんですよ。ずっとヒーローだけって訳にもいきませんし」
ヒーローは準公務員だからある意味安定している。でも、かなり不安定な仕事でもあるのだ。
「うん、偉い。その考えは正しいぞ。怪我、加齢……変身が出来なくなる。ヒーローは人の為になる素晴らしい仕事だ。でも、いざヒーローでいられなくなった時、どうするか考えておいて損はない」
ヒーローに怪我はつきもの。回復能力があるヒーローもいるけど、それだけに頼るのは危険だ。
何より年をとって戦えなくなった時や変身出来なくなった時……いざって時の為に、稼げる手段を身に付けておく必要がある。
「……お兄ちゃんやクリプテッドファイブの仲間みたく変身出来なくなる事もありますしね」
クリプテッドファイブが俺一人になった理由は結婚や妊娠だけじゃない。俺以外の四人が突然変身出来なくなってしまったのだ。
「結婚を決めた途端に変身が不可能になる。医学的にも興味ある事例だ。吾郎君はどう考える?」
あの日の事は今でも覚えている。ニーズヘッグを倒して束の間の平和を楽しんでいたら、突然全員変身出来なくなったのだ。
正確に言うと変身しようとしても、幻獣石が反応しなくなった。
「当時は、目的を達成したからって言われていましたけど、俺は変身出来ていますし……後、言われていたのは平和以上に大事な者が出来たからでしたね」
そう、皆は変身出来なくなったけど、俺はコカトイエローに変身出来たのだ。
でも、そのお陰でお兄ちゃん達はすんなりと引退出来た。ヒーローの責務を引き継ぐ存在がいたから。
(あれからお兄ちゃん達と気まずくなったんだよな)
俺はお兄ちゃん達を巻き込まない為に距離を置いた。お兄ちゃん達は、俺一人に戦わせる負い目からか距離を置く様になったのだ。
「ヒーローの変身原理は皆違うからね。変身が出来なくなる理由も皆違うんだろうな。ヒーロー以外で自分がやりたい事を見つけておいた方が良いぞ」
ヒーロー以外にやりたい事。なりたい自分か……ヒーローを抜くと俺はただのモブ。
美樹本さんや美影さんの様に秀でた才能がある訳じゃない。川本さんや獺川さんみたく頭が良い訳でもない。
やりたい仕事じゃなく、きちんと出来る仕事を見つけないと。
「ありがとうございます。その為には勉強を頑張らないと駄目ですね」
目指せ、赤点回避。成績が上がれば選択肢も増える。ヒーローコカトイエローじゃなく、ただの大酉吾郎になった備えをしておかないと。
「援護要請です。ブリーディングウィードが二か所に現れました。一体はバグズファイブが向かいましたが、もう一体の方を対応して欲しいとの事です」
訓練で疲れているのに、バグズファイブはヒーローとして動いてくれた。
それなら俺も動かなきゃいけない。
「私が行きます。吾郎君はしっかり勉強している様に。ブリーディングウィードは植物のハザーズなんだろ?研究に使えるからね」
そう言って獺川さん俺の肩を優しく叩くと、援護に向かってくれた。
後、先にブリーディングウィードに謝っておく。獺川さんは忍術を使う上に、的確に急所を斬ってくるぞ。室内では無敵。屋外でも樹や建物を利用して縦横無尽に動く。
解剖決定だね。
バグズファイブのラスボス名前を忘れる大失態
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