表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/47

今日も援護なんだけど

 報連相は大事。総司令官からも、口を酸っぱくして言われている。

  だから、ホームルームの担任の話にもきちんと耳を傾ける様にしているのだ。

(今のところ、上に報告しなきゃいけない伝達事項はないな)

  一応、学校の方からも連絡がいく手筈にはなっている……でも、総司令官は『自分の口できちんと報告しなさい。事件の報告は、他人任せに出来ないんですよ』と許してくれない……でも、部下は参加予定のない学校イベントを報告するのは辛いのです。

(数学の課題は忘れられないな。量は多いけど待機中にやれば間に合うだろうし)


「それじゃ、今日の授業はおわりだ。昨日、ハザーズの目撃情報があった。寄り道せずに帰るんだぞ」

  ハザーズの目撃情報か。そんな話は伝わってないんですが。


「よし、帰るか」

   思わず独り言が漏れてしまう……誰か反応してくれないかな?これじゃ、帰るぞアピールしている感じになるんですけど。

 不幸中の幸いで?皆、雑談やら部活の準備に夢中……今のうちに気配を消して帰るのだ。


「吾郎、今日もバイトか?相変わらず寂しい青春だな」

 そんな中、話し掛けてきてくれたのは健也だった。陽キャでイケメンという漫画のキャラみたいなやつ。キョロ充的ポジションな俺とも仲良くしてくれる良い奴だ。

 そしてこいつは、かなりモテる。鷹空さんとも同じバスケ部で、仲も良いらしい。


「正解。働かざる者食うべからずってな。社員さんが怪我したみたいで、急に出てくれないかって言われたんだよ」

 バイトと書いて本業ヒーローと読みます。どうも大山パワーナックルさん、市民を庇ってナイフで刺されたらしい。状況が状況だけに“俺、本当は今日で三日出なんすよね”なんて言えません。

 そしてバイトは警備員って事にしている。実際、警備もするから嘘ではない。


「真面目と言うかお人好しと言うべきか……そんなお前に朗報だ。今度、白鷺の子と合コンするから、お前も来いよ」

 ……マジで?しかも相手が白鷺学院だなんて驚きだ。

 白鷺学院は元お嬢様校だけに、女子の比率が高い。つまり、彼氏のいない子が多いのだ。

 健也は、バスケの練習試合で白鷺の子と知り合ったらしい。

(これは彼女が出来るチャンスでは?)

 俺が鷹空さんと付き合える可能性はかなり低い。皆無と言ってもいいだろう。

 ここは素直に諦めて、新しい出会いに掛ける方が賢いと思う。


親友ともよ。詳しい話を聞かせてくれないか?」

 ヒーローとしてではなく、大酉吾郎個人を必要としてくれる人が欲しいんです。合コンが上手くいかなくても、新しい出会いになるし。


「けーんやー……男バスも、来週練習試合でしょ!早く部活に行かないと部長に怒られるよ!」

 ポンッと子気味良い音がしたので見て見ると、丸めたノートを持った鷹空さんが立っていた。

 何か顔が怖いんですが!もしかしなくても、怒っている?


「なんだよ!俺は寂しい青春を送っている吾郎だちを幸せにしてやろうと思ってだな」

 必死に言い訳?をする健也をジト目で見る鷹空さん。

(鷹空さんが健也の事を好きだって言う話は本当なのかもな)

 だったら、絶対に勝てない。健也は良い奴だ。そして運動神経も良いし、イケメン。

 俺が勝てる要素はゼロだ。


「吾郎はアルバイトで忙しいの。合コンに参加する時間なんてない……だ・よ・ね」

 そう言って鷹空さんは、俺を睨んできた。

 ……どうすれば、丸く収まるんだ?頑張れ、俺。世間の荒波に揉まれた経験を活かすんだ。


 一・大丈夫。健也に彼女が出来そうになったら、俺が阻止するから安心して……どうやって?何より、鷹空さんの恋にアシストするみたいで嫌だ。

 二・俺参加しても無意味だって。モテないし……鷹空さんは健也が合コンに行くのをとめたいんだと思う。

(まじで、どうすれば……誰か、こっちを見ている?確か、あの人は……)

 ヒーローの戦闘経験が、ここで生きるとは。


「鷹空さん、友達が来ているよ。急ぎの用事かもよ?」

 こっちを見ていたのは鷹空さんの友達で健也の幼馴染みでもある副浪ふくなみ智美さん。長い黒髪が人目を惹く清楚系美少女。成績優秀で品行方正、鷹空さんと校内の人気を二分している。


「げっ、智美……吾郎、悪い。俺は部活に行って来る」

 健也は、そう言うとそそくさと教室から出て行った。幼馴染みだからなのか、健也は副浪さんに頭が上がらない。


「智美、ナイスタイミング。グッジョブだよ……それじゃ、吾郎、また明日ね」

 鷹空さんはご機嫌になったかと思うと、副浪さんの元に駆け寄って行った。


「健也の奴、校内の二大美少女を独り占めかよ……吾郎、当て馬ご苦労さん」

 俺達のやり取りを見ていたクラスメイトが俺の肩を叩いてきた。

 こいつの名前は月山満。俺と同じくフツメンで三枚目キャラ。男友達は多いけど、女子からは良い人&お友達ポジションな奴だ。


「月山……俺にワンチャンないかな?」

 俺も夢をみたいんだ。恋人になれなくても良い。鷹空さんとデートしてみたい。


「吾郎、夢も大事だけど、現実はもっと大事なんだぞ。俺等がモテるのは、鶏が空を飛ぶより難しいんだぜ」

 ……俺、コカトリスだけど、空飛べるもん。

 追伸、昼休みに月山がジュースを奢ってくれました。


 ◇

 放課後、雑談を楽しむクラスメイトを尻目に俺は教室を後にした。

 学校からバスに乗り、地下鉄に乗り換える。そして一路、向かうのは警察庁……から少し離れた所にあるショッピングモール。

 目的地は、そこの駐車場だ。制服を着た高校生が警察庁に入るのは、悪目立ちしてしまう。

 その点、ここは人も車も多いので目立たない。そこに停まっている一台の車に乗り込む。

 俺が乗ると同時に、車は警察庁へと向かった。


「甲二級大酉吾郎ことコカトイエロー、交代に入ります」

 警察庁特殊犯罪対策課と書かれた部屋に入る。特殊犯罪対策課、またの名をセキュリティーヒーロー課。通称S・H。


「おっ!来たか。現役高校生。ごろ、女は出来たか?」

 そう言って俺に絡んできたのは、サンサンクのエンジェルホワイトこと美樹本みきもと雪香せつかさん。

(健也、見た目だけは清純系……だぞ)

 美樹本さんは、正真正銘の美人だ。ちなみに兼業でモデルをしている。

 性格は豪快な姉御肌。柔道、空手、合気道の有段者で、よく俺をボコボコ……鍛えてくれる優しい先輩だ。


「放課後の三分の二は、ここにいるんですよ……それより、大山さん、大丈夫なんですか?」

 ネットには詳しい情報が載っていなかったのだ。ヒーロー専門のサイトもあるんだけど、学校で見るのはまずい。


「あいつもお人好しだよな。ハザーズ援護派を庇って怪我したんだからよ。お前、デストラックスって知ってるか?」

 デストラックス、俺が昨日戦ったナイフラットを造ったハザーズだ。


「昨日、バグズファイブって言うヒーローの援護に行った時、そこのハザーズと戦いましたよ……昨日の今日で、もうハザーズを出してきたのか」

 美樹本さんの話では、大山さんはバグズファイブと現場検証をしていたらしい。そこに件のハザーズ援護派が現れて『害獣は人間が勝手に決めつけた事。退治するのはおかしい』と騒いで妨害。

 そこにランスボアが現れ、援護派を襲撃。

 ちなみにハザーズを援護していたのは、動物保護団体との事。


「ハザーズにしてみれば動物愛護なんて関係ないからな。あの馬鹿『私達は動物の味方。気持ちは通じている』ってノーガードになる援護派を庇って、刺されたんだと」

 そのまま書けないって事で、ハザーズに刺されたって濁した記事になったそうだ。

 ランスボアは、そのまま逃走したらしい。

 なんか、きな臭いんですが。


「救援要請です。コカトイエローさん、お願いします」

 ……ハザーズ、俺が出勤してくるの狙ってないか?


 ◇

 同じ頃、鷹空翼はアルバイト先でもある喫茶店『止まり木』にいた。


「智美ちゃん、健也って貴女の幼馴染みだよね?」

 翼は腕組みをしながら、智美の目をジッと見る。その目は真剣そのものだ。そして若干の怒りも含まれていた。


「何で、今更そんな事を聞くのかしら?」

 智美は健也が幼馴染みである事は、何度も話している。それは翼も周知の事実だ。

 今更確認するまでもない事。何しろ智美の話題の四割は健也に関するの事なのだから。


「その幼馴染みが吾郎を合コンに誘っていたの!幼馴染みなら、ちゃんと管理して」

 翼、心の叫びである。強気な言葉とは裏腹に、翼の顔には焦りの色が浮かんでいた。

 もし、合コンで吾郎に彼女が出来たらと思うと、居ても立っても居られないのだ。

 そう、吾郎は盛大な勘違いをしていた。翼が好きなのは健也ではなく、吾郎。

 吾郎が健也と良く一緒にいるから、同じ部活の縁を使って二人に話し掛けていたのだ。


「健也は友達想いだから、大酉君を誘ったの。心配なら告白すれば良いじゃない!」

 ムッとした表情で返答する智美。彼女が不機嫌になるのには、理由があった。


「そんな事して吾郎がポーチャーに襲われたら、どうするのよっ!ヒーローの恋愛が、こんなにハードモードだと思わなかった」

 鷹空翼、彼女もヒーローなのだ。

 魔法少女バーディアンのホークソルジャー。階級は丙三級、甲二級の吾郎とは階級が違い過ぎて、殆んど接点がない。

 だから、二人は互いにヒーローである事を知らないのだ。


「分かっているじゃない。私達が、この街の皆をポーチャーから守らないと駄目なのよ……」

 そう言って翼のぼやきを諌める智美。彼女もまたバーディアンである。名前はクレリッククロウ。

 ポーチャーの主な標的は十代の少年少女。彼等の持っている希望や夢を鳥の形に変えて集めているのだ。

 その危険度はD-。区域こそ狭いが、被害件数が増えている。

 心の力を取られた人間は暗くネガティブになってしまう。最悪の場合、老化してしまう事もあるのだ。


「皆じゃなくて、幼馴染み(けんや)の夢を守りたいんでしょ?そんなに心配なら二十四時間近くにいてガードしていないさいよ。そうしたら、合コンにも行かないし」

 健也の夢はバスケットボールのプロになる事。普段は、おちゃらけている健也だが、夢に向かって懸命に練習している。幼馴染みの智美は、その夢を守る為にバーディアンになったのだ。

 ある意味、翼のツッコミは当たっていた。


「のろけ合戦はそこまでポーチャーが出たわ。しかも、三体……流石に本部に応援要請をしたから」

 二人を止めたのはもう一人のバーディアン。スワンメイジこと白鳥魔美。

 瞬時にヒーローの顔に変わる翼。しかし、彼女は、まだ知らない。

 援護に来るヒーローがクラスメイト兼想い人である大酉吾郎コカトイエローである事を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ