ポーチャーの狙い
昨日は本当に幸せだった。思い出だけでも、卒業まで頑張れると思う。
でも……あの幸せを奪われた人達がいる訳で。
問題は、どうやってポーチャーをおびき寄せるかだ。被害と目撃者は最低限に済ませたい。
(何か手掛かりがあると良いんだけどな)
幸い、守さんが寝盗りハザーズの物だと分かる体毛を手にいれたそうだ。今は分析中との事。
今日はタイミングよく、出勤日。放課後には解析が終わっていると思う。
「吾郎、おっす。昨日駅裏に上級ヒーローが四人も来たらしいぞ。バイトじゃなきゃ見に行ったのに」
声を掛けてきたのは月山。でも、ある意味君も関わっているんだぞ。
一番関わっているの、俺なんだけどね。
「らしいな。お前もホワイトエンジェル推しなのか」
誰も俺のデート?を守る為に、上級ヒーローが集まったなんて思わないだろう。
編集なしの動画みたけど、オーバーキルどころじゃなかったぞ。
とりあえず川本さん達には、何かお礼をしようと思います。地元の名物でも取り寄せようかな。
「あの中ならエスパルオンかな。頼れる兄貴って感じがするし」
それは正解です。川本さんって、イケメンな上に頭も良いんだよね。一流大学の教育学部に通っているヒーローって反則だと思う。
「健也はホワイトエンジェル推しらしいぞ。そういや、学祭に彼女さん来るのか?」
出来れば来ないで欲しいな。
今までの行動パターンから考えると、寝取りポーチャーはうちの学園祭に来る。
目当ては月山と王餅さん。
二人を餌にするのは、気乗りがしない。ブラックスティングと違い、月山達は一般人。危険に晒す訳にはいかない。
「……来る予定だよ。うちのクラスの模擬店を見た後、第三体育館でやるバザーを見に行く予定だ」
なんで、そんなマニアックな出店に。校内でも知っている人少ないと思うぞ。
俺は警護の関係で全部の出し物や出店をチェックしている。
「バザーってPTAやボランティア部が手作りした物を売るってやつだよな」
(確かPTA会長が関わっているから、場所だけは広い第三体育館になったんだよね)
まあ、立地が悪いから、生徒も選ばなかった場所なので、クレームはなかったらしい。何しろ離れ小島みたいな場所にあるのだ。
「知り合いに頼まれて顔を出しに行くんだって」
売るのはフェルトで作ったマスコットや自筆のイラスト。付き合いで先生達は買うらしいけど、カップルが行っても盛り上がらないと思う。
「用事が、あるだけましか。俺は寂しい学祭決定だよ」
漫画とかなら、可愛い女の子と二人で楽しむんだろうけど。俺は楽しむ余裕すらないのだ。
「誰かに声を掛ければ良いじゃないか」
声を掛けても大丈夫な相手がいればね。鷹空さんと一緒に回りたいけど、流石にそれは厚かましいと思う。
「上形先生に手伝いを頼まれたんだよ。黒服以外は全部お手伝いさ」
いつハザーズが来るか分からないのに、学祭巡りなんて出来ない。何かトラブルがあれば生徒指導室に内線が掛かって来る手筈になっている。つまり、俺は学園祭の殆んどを生徒指導室で過ごす事になるのだ。
自分で提案した策だけど、泣きたくなってしまう。
「そ、そのうち良い事あるって」
それは慰めかい?俺は君達が学園祭を楽しむ為に頑張るんだぞ。
(俺が頑張らなくても良いってパターンが一番なんだけどね)
とりあえず放課後に本部に行って詳しい話を聞こう。
◇
月山と一緒にくだらない話で、盛り上ながら教室に向かう。
(確か鷹空さんは朝練って言ってたよな)
そしてある問題に気付いた。どんな顔で会えば良いんだ?
いや、普通に挨拶すれば良いんだろうけど……鷹空さんが内緒にしたがっているパターンもある訳で。
しかも、今まで個人的に挨拶出来たのは週に三回位。それが遊びに行った途端、挨拶するって勘違い野郎に認定されないだろうか?
「吾郎、おはよー。昨日は楽しかったね。セツカさんにもお礼のメールしちゃった」
鷹空さんが、満面の笑みで挨拶してくれた。心配は吹き飛んだけど、違う問題が勃発したのです。
狼に肉を見せるってレベルじゃない。絶対に食いつてくる。
「な、なにか反応はあった?」
なんて送ったのか物凄く気になります。内容次第では、尋問&駄目出しが確定する。
「昨日送ったばっかりだよ。セツカさん、忙しいし、僕の事なんて覚えてないって。でもセツカさんだけじゃなく、NEKOさんにまで会えるなんて嘘みたい」
ごめんなさい。絶対に覚えています。だって、昨日俺達の邪魔をさせない為だけに休日出勤してくれたんだし。
「美か……NEKOさんか。ボウタイを結ぶ練習をしないと」
美影さんはデザイナーだけあり、ファッションに関しては一切の妥協をしない。昨日も本格的なボウタイ結び方動画を送ってくれた。でも、かなりレベルの高いやつなんだよな。
「部活の先輩やクラスの子に自慢しちゃった。一緒に写メ撮ってもらえば良かったなー……吾郎は、そんなに喜んでなかったよね?あまり、緊張もしていなかったし」
そりゃ、もう五年近い付き合いだし。違う意味では緊張していたけどね。
鷹空さんに『昼は牛丼とラーメンにしようか?』って、言った瞬間、美影さん、殺気全開で睨んできたのた。
そして鷹空さんが服を見ている隙に、呼ばれて駄目だしの嵐。喫茶店でバイトしているから、店にない食べ物の方が良いって思ったんだけどな。
「昨日は違う意味で緊張していたから……服もオッケーだし、メニューも、だいたい決まった。後は内装とかの準備だね」
メニューに関しては、アイデアを出しただけでほぼノータッチだ。モブに決定権なんてありません。
「皆、絶対に成功させようね」
鷹空さんが呼びかけると、クラスの皆がが頷く。絶対に成功させるし、絶対に皆を守る。
◇
気の所為でしょうか?本部についたら、皆がニヤニヤした目で俺を見てくるんですが?
「川本さん、昨日はありがとうございました……それで何か分かりましたか?」
お礼も大事だけど、今一番気になるのは、寝盗りハザーズの事。学校の皆を確実に守るには、情報が必要だ。
「それはお互い様だよ。でも、サンサンクに会う時を覚悟しておけ。色々聞かれると思うぞ。それに結構ヤバめな事が分かってな。本部でも対策を練り始めている」
分析を終えた後、川本さんがサイコメトリーで毛に宿った記憶読んだそうだ。
聞かなきゃ駄目なんだけど、あまり聞きたくないです。
「犬もしくは犬属のハザーズ。フェロモンを使って女性を虜にしている可能性が高いと。良くある分析結果ですよね……何を読み取ったんですか?」
犬系のハザーズは、結構多い。特に闘犬を元にしたハザーズは強いので厄介だ。
でも、対策を練る程の事でもないと思うんだけど。
「どうも、こいつは虜にした女を一か所に集めようとしているらしい。それだけじゃなく、振られた男も呼ぶつもりだ。そして一番強かった想いは、降臨。多分、自分達の頭を日本に呼び寄せるつもりなんだと思う」
二つも、ヤバい情報が出て来たんですけど。犬ハザーズの被害者は分かっているだけで、男女合わせて二十人。
つまり、その人達を集めて何かをしようとしている訳で。絶対に無事では済まないと思う。ポーチャーの危険度はD-。でもボスが降臨すれば一気にCまで上がる。
何よりボスの強さはC+はあると思う。
(そいつは被害者を一か所に集めてどうするつもりなんだ?頭をどうやって降臨させる気なんだ?)
確かポーチャーは、心のエネルギーを鳥に変えて取り出すんだよな……待てよ。
「被害者リストありますか?……やっぱりだ。彼女を盗られた人はいるけど、心の力をとられた人はいない。被害者を一か所に集めて一斉に心の力を取り出すつもりなのかも知れません」
二十人分の心の力があれば、強力なハザーズ……それこそボス級のハザーズも降臨させる事も可能だ。
「問題は何時、どこに集めるかだよな」
嫌な予感がしてきた。そしてこういう予感に限って当たるんだよな。
「多分、うちの学校だと思います。都内で次に学園祭があるのは、うちの学校です。それに学園祭なら他校の生徒が来ても不審な目で見られる事はないですし」
問題は、どこに集めるかだ。
でも、決まった事が一つだけある。俺は学園祭に生徒としてはでなく、ヒーローとして参加する。




