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俺、ヒーローなんだけど   作者: くま太郎


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19/55

一難去ってまた一難

 年上の女性と部屋で二人っきり。年頃の男子なら一度は夢見るシチュエーションかも知れない。

 しかも、相手は大人気モデルのセツカ。写真でも撮られたたら、俺は嫉妬で叩かれるだろう。

(言い訳、言い訳を考えるんだ)

 でも、俺の頭の中は、この窮地をどうやって抜け出すかで一杯だった。

 だって完全に美樹本さん怒っているんだもん。しかも、今いるのはリアル取調室。

 ヒーロー本部は警察署署内にある。つまり、ヒーローも取調室を使えるのだ。


「ごろ、何でまともに戦ったんだ!?変身しないで、ハザーズと戦うなんて馬鹿じゃねえか?あそこは距離をとって、助けを待つ。こんな事は丁級の新人でも分かるぞ」

 備え付けのライトを俺に向けながら、詰問してくる美樹本さん。正論だけに返す言葉どころか言い訳も見つかりません。


「流れの勢いでと言いますか……被害者の涙を見たら、頭に血が昇ってしまって」

 あの男の子の涙を見たら、頭に血が昇ってしまったのだ。あの人も俺等と同じくモテない族。その幸せがハザーズによって壊されたと思ったら、自然に体が動いてしまったのだ。


「あん?まずは今日の行動を教えろ。総司令と会った後、どうしたんだ?」

 美樹本さんはペンを手に取り、メモをしようとしている。

(総司令に会った後?……止まり木に行った事も言わなきゃ駄目?)

 言なきゃ駄目なのは、俺が一番分かっている。でも、それは報告書に乗ってしまう訳で……しかも、美樹本さんは鷹空さんが止まり木でアルバイトしている事知っている。

 色んな意味で上手く誤魔化さなくては。


「クラスメイトがバイトしている止まり木という喫茶店に行きまして」

 止まり木のところを滅茶早口で言う。お願いだからスルーして下さい。


「あんた、また止まり木に行ったの?で、どうだった?少しは進展……する訳ないか」

 なんで確定なんですか?お友達にはランクアップ出来たよ……多分。


「進展も何も学園祭の打ち合わせが主でしたし……鷹空さんを送って行った帰りに偶然事件現場に遭遇したんですよ」

 本当に偶然であって欲しい。もし、月山達の後をつけていた男が件のハザーズだったなら……俺は何てフォローすれば良いんだろう。


「学園祭の打ち合わせ?とりあえず全部詳しく報告しろ」

 そして本当に事細かに報告させられました。俺の執事シーンを再現する必要はないと思うんだけどな。


「でも、人の彼女を寝取るハザーズって、何が目的なんですかね?そんなマニアックな欲求で顕現出来るんでしょうか?」

 ハザーズは異世界から召喚されたり、人の欲を集約させたりして顕現する。

 寝盗りハザーズは後者のパターンだと思う。召喚系ハザーズは、異世界にほんの生活に慣れるのが大変だと言う。女性を口説けるまで馴染むには、かなりの年月が必要だ。


「お前、気付かなかったのか?今日遭遇したハザーズは、ポーチャーだよ。ほら、お前が援護役に決まったバーディアンの敵。ポーチャーは欲じゃなく、男に対する嫌悪感から生まれるらしいぜ」

 ポーチャーって言うと、ホストインキュバス達の事か。

 コシギンイソギンチャクは強い奴にこびへつらう男に対する嫌悪感から生まれたと……俺もヒーローになる前はいじめっ子に愛想笑いしていたから、一因になっているかも?

(まさかイケメン三軍神の一人とか……いや、もう二軍神なんだけどね)

 でも、そうなると疑問が残る。ホストインキュバスはイケメンだったし、件のハザーズもモテる。つまり、女性に嫌われる要素は皆無だ。


「でも、ホストインキュバスとかモテていましたよ。今でも白鷺学院ではコカトイエローより、人気があるって話ですし」

 気になって“コカトイエローよりホストインキュバス”って検索したら、結構ヒットしたんだよね。


「お前またネガティブな検索をしただろ?……高校生になったっていっても、ごろもまだまだ子供だな。女が全員ホストを好きな訳ないだろ。それにポーチャーが生まれる要因は男に対する嫌悪感。男を嫌うのは女だけじゃないだろ?」

 確かにイケメン……特にホストを嫌っている男は一定数いると思う。

(ポーチャーは嫌悪感が力になるんだよな?って事は)

 例のハザーズの狙いが分った。だから、彼氏持ちの女の子を狙っていたのか。


「彼女を奪われた男は、そいつを恨む。それを力に変えているって訳ですか」

 あの悔し涙も力になっているってのか。エロ欲求から生まれたハザーズだとばっかり思っていたら、もっと悪趣味な存在だったとは。


「彼女の方もだな。元カレに対する罪悪感。それにより生じる自分への嫌悪感。ハザーズを倒しても、元には戻れない。アフターケアが大変になるな」

 例のハザーズが、どんな力を使って彼女を奪ったのかは分からない。でも、ホストインキュバスみたいにチャームが原因だったら、彼女の心の傷も深くなる。


「被害者のデータをまとめてもらいますね。アフターケアの手配をお願いして良いですか?」

 正直に言おう。恋愛のごたごたなんて、どうして良いのかさっぱり分かりません。

 飯食って寝ろじゃ駄目だよね。


「確かにお前には荷が重いな。家まで送って手も繋がないって中学生か?ったく、恋愛面は小学生レベルだよな」

 ……手を繋ぐ?フォークダンスでもないし、ましてや付き合ってもいないんだぞ。


「俺まだ付き合うどころか、告白すらしてないんですよ?段階、飛ばし過ぎですって」

 告白は確認だって教えてくれたのは、他ならぬ美樹本さんだ。そんな事したらセクハラ野郎の烙印を押されてしまう。


「顔を真っ赤にして可愛いねー。お前は付き合うって事を特別視し過ぎなんだよ。付き合ってなくても、やる事やっている奴等は沢山いるだろ?全く、ヒーローとしては一人前なんだけど、男としてはまだまだ餓鬼だな」

 そう言うと美樹本さんは腹を抱えて笑った。仕方ないじゃん。モテないモブの上に仕事が忙しくて、女の子と仲良くなれないんだから。


「そんな余裕なかったの美樹本さんも知っているでしょ?そうだ、黒服に合うネクタイって、何色が良いんですか?」

 ネクタイって地味な色しか持ってないんだよね。出来たら仕事でも使えるやつが良い。


「大好きな翼ちゃんに選んでもらえば良いだろ?翼ちゃんのバイトが終わる時間なら、まだ空いている店もあるし……そーだ!知り合いがやっている店を紹介してやる。休みの日に翼ちゃんを誘って行ってこい」

 ハ、ハードル高くないですか?それってデートじゃん。

 確かに美樹本さんはファッション関係の知り合いが多いから、その点は安心だ。

 問題は、俺が誘えるかどうか。それ以上にオッケーをもらえるかどうかだ。


「無理ですって。デートなんて俺には無理ですよ。絶対に断られますって」

 そんな事になったら、仕事に支障をきたしてしまう。


「誰がデートに誘えって言った?このスケベ。学園祭の衣装を見立ててもらうんだよ」

 そう言ってニタニタした目で見てくる美樹本さん。絶対に楽しんでいるだろ。


 ◇

 調査の結果、予想通り初めての彼女もしくは女の子の方が可愛い格差カップルが被害にあっていた。

 当たり前だけど、殆んどの男はまだ落ち込んでいるそうだ。つまり、例のハザーズは、今もパワーアップしているになる。

(早めに手を打たないと面倒な事になるな)


「吾郎君、おはよう。今日は、爽やかな秋晴れだね。一緒に勉学に勤しもうぜ」

 そう言ってお前誰だよって位、爽やかな顔で挨拶をしてきたのは月山。

 友達が幸せそうにしているのは、嬉しい。でも、この笑顔がハザーズのエネルギーにされてしまう危険性がある訳で……。

(学園祭の時は、こいつ等のガードマンもしなきゃな)

 そうする事が月山の幸せを守り、ハザーズのパワーアップ阻止にも繋がる。


「朝から幸せオーラ全開で羨ましいね……聞かなくても順調だって分かるよ」

 本当に俺の杞憂であって欲しい。王餅さんもあれはただの根も葉もない噂で、月山の事を本気で好きならどれだけ嬉しい事か。


「まあな……ところでお前何かしたのか?鷹空さんが、凄い顔で睨んでいるけど」

 何の事だと思って振り返ってみると、怒り心頭な鷹空さんがいた。

 鷹空さんに怒られる様な事……コシギンイソギンチャクと戦った事がばれたとか?

(いや、今朝の記事だと美樹本さんの活躍しか触れてなかった。俺の顔にもモザイクが掛かってしたし大丈夫)

 それなら何に怒っているのか。俺が調子に乗り過ぎたとか?


「ごろうー。なんでポーチャーと戦ったの?ヒーローが来るまで待てば良いでしょ!」

 いや、あのレベルのハザーズなら変身しなくても時間を稼げるし、いざとなれば変身すれば……でも、鷹空さんに俺がヒーローだって言えない訳で。

 俺がヒーローだって知らないたかぞらさんが見たら、ただの無謀な行動だと見えるだろう。


「出血が酷くて、なんとかしなきゃって思ったら、身体が動いて……つ、月山ヘルプ」

 でも、月山は一人で先に行ってしまった。


「……俺は犬も食わない物に、巻き込まれたくないんでね。吾郎、馬鹿な事をしたお前が悪いんだ。素直に謝っておけ」

 馬鹿な事?俺は甲二級コカトイエローだぞ……でも、正体を知っている美樹本さんからもこっぴどくしかられたんだよね。

(……月山は行ったか。今なら言っても平気か)

 でも、なんでバレたんだ?顔にモザイクが掛かっていたのに。

 ……あっ。服でバレたのか。時間的に丁度俺が駅に着く頃だし。

 こうなれば、全力で謝ってやる。


「月山達を追っていたら事件に遭遇したんだ。襲われた人が彼女をハザーズに盗られたって泣いていて、それが月山と重なったんだ。ヒーローが来るまでなんとかしなきゃって思って……」

 結果、美樹本ヒーローが来てからの方が大変だったんだけどね。


「気持ちは分かるけど、吾郎はヒーローじゃないんだよ。エンジェルホワイトさんが来てたから良かったけど……吾郎に何かあったら泣く人がいるんだからね」

 心の中で反論させて下さい。他のヒーローの方が良かったです。朝から報告書見たぞってライソが凄いのだ。


「もう、しないから。次に同じ場面に遭遇したらちゃんと逃げるよ。第一、ハザーズなんて滅多に会う物じゃないし」

 滅多に……下手すりゃ週一で会ったりするけどね。

 次からちゃんと、その後に変身してから戦います。それに素の戦闘力をもっと強化しないと。


「絶対だよ。絶対……僕がどれだけ心配したか分かっているの?」

 昨日の戦いはネットでバズっているらしい。美樹本ホワイトエンジェルさんって、ヒーローでも人気あるんだよな。


「それはすいませんでした。お詫びに今度ご飯奢るよ。ついでに学園祭で使うネクタイを選んで欲しいし……駄目ならお食事券とカタログギフトでも良いよ」

 チキンヒーローと笑うなら、笑え。奢ると言った後、時間を共有したくないから、金だけ寄越せてって投稿がバズっていたのを思い出したのだ。

 チキンヒーロー。コカトリスだから、ある意味正解かも知れない。


「しょうがないなー。そこまで言うなら一緒に選んであげる。丁度セツカさんのブログで男性物ネクタイを特集していたんだよね。しかも、コラボキャンペーンで割引券が当たるんだって」

 マジで?見て見ると、本当に特集していた。

(しかも、この店サンサンクのブルーパラディンさんの店じゃん!)

 ブルーパラディン。サンサンクンの近接戦闘担当。名前は美影音子、見た目は王子様系イケメン女子。中身はファッションオタク。本業はファッションデザイナーで自分の店も持っている。

 そして美樹本さんと同じで、俺を弄るのが大好き。鷹空さんと店に行ったら、絶対に弄られるじゃん

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― 新着の感想 ―
なんだかんだ言いつつ、ヒーローの皆はゴローをおもちy…じゃなかった心配しているんだよ、ね。
美樹本さん……! わりと本気で吾郎に対する扱いが酷い環境が多すぎる中で、男性用ネクタイを特集したりコラボで割引したりと明確な助け舟を出してて、あまりにも良い人ポイントが、高い! イジるくらいはもう必要…
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