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俺、ヒーローなんだけど   作者: くま太郎


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18/55

背筋も凍る戦い

 帰り道、マックスまで上がっていたテンションは一気に下がっていた。

 だって鷹空さんの本命が健也じゃないとしても、俺にチャンスがある訳じゃない。

 今は学園祭と月山の恋を優先したい。その方が勘違いでも幸せを味わえる。

(王餅さんの本命はどっちなんだろうか?)

 考えられる可能性として

 1・あの俺様系イケメンは、王餅さんを気に入りナンパしようとしていた。そして一人になるのを狙って……あんな俺様系がそんな気長な事するだろうか?

 2・あいつは王餅さんの元カレで、恋人に戻ろうと……以下、同文。

 でも、月山より王餅さんと系統が似ているから可能性はゼロじゃない。

 3・ただの偶然。これが一番有難い。全部が杞憂だったなら、どれだけ嬉しい事か。


(流石にもういないか?ここから月山の家に行くとしたら……)

 辺りを見渡したけど、月山達の姿はもうなかった。こうなると探す手掛かりは、月山関係しかない。

 月山達が歩いていった方角にあるのは地下鉄の駅。月山あいつの家に行くのにも地下鉄を使った方が便利だ。

 俺のマンションも同じ路線上にある。それならついでに調べておこう。

 尾行で大事なのは怪しまれない事。駅に向かう人の流れに身を任せながら、周囲をぼんやり見る。

(駅に着いたか。でも、姿はなし……さて、どうすっかな)

 この辺りを探しても無駄だと思う。素直に家に帰るべきか。


「ハ、ハザーズが出たぞ。誰かヒーローを呼んでくれ!」

 優先順位変更。いまの俺だとハザーズに勝つのは難しい。

 でも、当番ヒーローが来るまで時間稼ぎをする事なら出来る。

 今度を逃げて来る人波に逆らいながら進んでいく。


「誰か手を貸して下さい。ダチの血が止まらないんだ!く、来るなー」

 眼鏡を掛けた少年が友達らしき少年を庇っていた。庇われている少年の額からは、かなり量の血が出ている。


「来るなって言われたら、行きたくなっちゃうのが人情っすよ。兄貴に逆らったのがいけないんす」

 ハザーズが薄ら笑いを浮かべながら少年達に迫っていく。

(イソギンチャク型のハザーズ?なんで、駅前にいるんだ)

 パッと見は三下のチンピラ。

 ただ、マフラーみたくイソギンチャクの触手が出ている。

 服は赤、黄、オレンジのストライプのシャツ。手の付け根からも触手が出ている。

 ハザーズは自分の得意な地形を好む。特にイソギンチャクみたいな水生生物は、水辺を好むんだけど……。


「……亜美を返せ。や、やっと恋人になれたのに。あんなハーレム野郎が亜美を幸せに出来る訳ないだろっ!」

 怪我をしている少年が涙目で叫ぶ。心の底から絞り出した悲痛な叫びだ。


「亜美?ああ、兄貴の新しい女ね。残念だけど、あいつはもう兄貴に夢中だよ。負け犬君はママの所に帰って泣いてな」

 イソギンチャクハザーズが泣き叫ぶ少年を見てあざけ笑う。こいつも少し前まで月山みたく幸せだったんだと思う。

 幸せを踏みにじられた上に、怪我までさせられた。それでも亜美さんを取り戻そうとしている。

 友達もハザーズに襲われる危険を省みずに、少年を庇っていた。

 彼等を見捨てたら、ヒーローの名が泣くよな。


「兄貴、兄貴って、随分とチンケなハザーズだな……ここは俺が何とかするから友達を連れて逃げて下さい」

 眼鏡を掛けた少年に逃げる様に促す。当番ヒーローが来るのを待っていたら、巻き添えを喰らって彼まで怪我する危険性がある。

 彼女を失った上に友達まで怪我をさせたら、心の傷が更に酷くなってしまう。

 それを防ぐ為に、イソギンチャクハザーズを煽って標的を俺に変える。


「当たり前だ。俺はコシギンイソギンチャク。兄貴の命令なら靴でも舐めるんだよ」

 誇らしく言い放つコシギンイソギンチャク。

 腰巾着とイソギンチャクが合体して出来たハザーズか。

 武器は腕から生えている触手。あれで敵を刺すんだと思う。

(ギャラリーが多すぎて変身は無理だよな)

 さっきの二人も遠巻きに見守ってくれているし、ギャラリーの中にはスマホで撮影している人もいる。


「へつらう気持ちが根源だから、怒らないのか。あの人達を捕まえないと兄貴に怒られるんじゃないか?……まあ、その前に俺を倒さないと無理だけどな」

 こいつの強さはE+が妥当。五分位持たせれば当番ヒーローが来る筈。


「お前、兄貴は怒ると怖いんだぞ……待てよ、ここでお前も倒せば出世間違いなし。ボスに認められて正規怪人せいきポーチャーになれるかも」

 ポーチャー、確かバーディアンが戦っている組織だよな。

 その前に正規怪人ってなに?ハザーズにもブラック企業あるの?


「倒せたらの話しな……あっぶね」

 コシギンイソギンチャクが殴り掛かってきたのを寸前で交わす。バトルスーツを着ていない今の俺は一般人よりちょい強い位だ。一発でも貰えば大怪我してしまう。


「ふん。何回避けられるかな……えーい、ちょこまかと」

 不幸中の幸いでコシギンイソギンチャクの攻撃は格闘技の先生達より遅い。避ける事に集中していたら、時間まで持つと思う。


「当たったら怪我するんだ。避けて当たり前だろっ……ギリギリセーフ」

 正直に言うと、少しかすった。でも、あまり距離を開けるとギャラリーが襲われる危険性がある。だから、コシギンイソギンチャクを俺の近くにとどめておく必要がある。

 コシギンイソギンチャクの一挙手一投足に集中しなきゃいけないから、精神的にも体力的にもかなり疲れる。

 正直に言おう。結構、やばいです……お願いだから、当番ヒーロー早く来て。


「埒があかねえな。触手こいつで串刺しにしてやるぜ」

 そう言うと腕の触手が槍みたくなった。リーチが長くなったし、イソギンチャクの触手って毒があるんだよね。

(身バレ覚悟で変身するか……いや、やめておこう)

 でも、ここは生活圏の駅。ギャラリーの中に知り合いがいる可能性はかなり高い。

 身バレしたら転校は必須。何より家族や周囲の人間に迷惑が掛かる危険性がある訳で……。


「さっきから一回も当たってないのに、どうやって貫くんだ?もう少ししたらヒーローが来ると思うぜ。お互いの為に、終わりにしませんか?」

 まじでお互いの為にそうして欲しい。

 でも、これで逃げてくれたら警察……いや、俺達ヒーローはいらないんだけどね。

(危険覚悟でインファイトに持ち込むか)

 腕を伸ばしきらないと、触手スピアの威力は半減する。致命傷は免れるけど。当たったら大怪我なんだけどね。


「ヒーロー?そうしたら、お前を人質にするだけさ。俺を一撃で倒せる上級ヒーローが都合よく来ると思っているのか?」

 それが来るんだよね。でも、問題は誰が来るかだ。出来れば守さんか川本さんに来て欲しい。


「来るかも知れませんよ?……寒っ……マジかよ!?」

 急に周囲の温度が下がりだしたのだ。これはまずい。一番アウトなパターンだ。


「良い気になって俺様の邪魔をした罰だ。喰らえっ、口腕スピア」

 コシギンイソギンチャクの触手が俺を目掛けて襲ってきた。

 このパターンは、まずい。早く何とかしないと、やばい事になる。

(この魔力は……まじかよ?)

 背中を嫌な汗が伝っていく。

 必死でバックステップを行い距離を取る。でも、コシギンイソギンチャクの触手を避ける為じゃない。


「そこまでです……アイスギロチン」

 聞き覚えがある女性の声がしたと思った瞬間、目の前を何が通り過ぎていく。

 まじで……死ぬかと思った。俺の鼻先を氷の刃が霞めていったのだ。なんなら靴のつま先が、少し削れている。


「お、俺の腕が……誰だ?こんな酷い事をするのは?」

 半泣きのコシギンイソギンチャクを見ると、腕が途中から両断されていた。誰がやったかって?思いっ切り猫を被っていたけど、俺は分かっている。


「サ、サンサンクのエンジェルホワイトよ。本物初めて見たけど綺麗」

「甲三級ヒーローが来てくれた。これで安心だ」

 ギャラリーの皆様は説明ありがとうございます。助けにきてくれたのはエンジェルホワイトこと美樹本みきもと雪香せつかさん。

 氷雪属性魔法を得意とする甲三級のウィッチ。俺も背後から絶対零度の視線を感じています。


「皆様、危険ですから離れていて下さいね。君も勇気と無謀は違うのよ」

 そう優しく語り掛けてくれた美樹本さんだけど、コシギンイソギンチャクの倍以上の速さがある拳で俺の脇腹に一撃を入れて来た。


「甲三級?なんで、こんな奴の為に?」

 コシギンイソギンチャクは信じられないって顔で呟く。だけど、答えは簡単。こんな奴だけど甲二級のヒーローなんです。

 ヒーロー……特に上級ヒーローが素の状態で襲われた時には、その日待機している一番強いヒーローが救出に向かう。

 ヒーローになれる人材は貴重。上級ヒーローともなれば、どんな事をしても守らなきゃいけない。

 それに上級ヒーロー一人が怪我をすると、シフトに変更が出てしまう。残ったヒーローは予定を大幅に変更しなくてはいけなくなるのだ。


「遺言はそれで良いのかしら?それと特別に死に方を選ばせてあげまます。凍らせられるのと、切り裂かれるのどっちがお好き?」

 そう言ってニコリと微笑む美樹本さん。美樹本さんは氷で刃や槍を創り出して武器にする。

 さっきのアイスギロチンは、氷のギロチンを創り出し首や腕を斬り落とすというえげつない技。


「に、逃げてやる。兄貴にチクってやるからな……え?」

 コシギンイソギンチャク、教えてやる。美樹本さんは目の前にいるハザーズを逃がす程甘くないぞ。

 そしてやらかした後輩も見逃してくれない。


「アイスプリズン……私の氷の檻から逃げられると思って?」

 哀れ、コシギンイソギンチャクは氷の檻に閉じ込められてしまった。あれに閉じ込められた最後。よほど強いハザーズでなければ逃げる事は出来ない。


「こんな檻壊してやる……て、手が離れない?」

 氷の強度もあるが、下手に檻に手を触れると凍着して離れなくなるのだ。


「子供も見ているから、血を流すのは駄目ね……氷漬けになって覚悟しなさい……アイスクラッシュ」

 氷の檻を冷気が包み込んだかと思うと巨大な氷になり、一瞬で砕け散ってしまった。

 当然、コシギンイソギンチャクは粉々に。

 それを見てほくそ笑む美樹本さん。確実にコシギンイソギンチャクより怖いんですが。


「あ、ありがとうございました。お陰でダチも病院に行く事が出来ました」

 眼鏡の少年が美樹本さんにお礼を言う。でも、色んな意味で良くないんだよな。


「そう。貴方は病院に行ってあげて。詳しい話は彼から聞くから」

 美樹本さんの絶対零度の視線が俺を捉えていた。

 もう背中が冷汗でびっしょりなんですけど!

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― 新着の感想 ―
バザーズの世界も世知辛そうだ…
南無、、、、これは特訓コースか、、、
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