現金コカトリス
今の俺を見たら、誰もヒーローだと思わないだろう。
がっくりと肩を落としながら、トボトボと歩いてるのだ。
だって、あんな無茶振りされたら、足取りだって重くなるぞ。
今やらなきゃいけない仕事
通常業務・場合によって県外出張もあり。何なら連戦の可能性もあり。
鍛錬・仕事がない日も休んでられない。鍛えなきゃ明日の自分が泣きを見る。
バーディアンの援護・つまり地元での活動。知り合いにバトルスーツ姿を見られるのが、あんなにきついとは思いませんでした。
バグズファイブの鍛錬・これは確実に長期案件だ。漫画じゃないんだから特訓して、即強化なんて夢のまた夢。地道に自力をつけてもらいながら、バトルスタイルを確立しなきゃいけない。
学園祭の警備・総司令から命令があったって事は、うちの学園祭にもハザーズが来るんだと思う。身バレを防ぐ為にも、変身しないで対応したい。でも、鷹空さんとの時間を邪魔されたら、容赦なくボコる。
考えただけでも、気が遠くなるんですが。
(このままじゃ駄目だ。なんとかパワーをつけておかないと)
月山のコンビニ……駄目だ。今の俺にはリア充の光は強すぎる。
(そういえば鷹空さん、今日バイトだって言ってたよな)
また来てねって言ってくれたけど、本当に行ったら引かれないだろうか?ライソで聞くのは……嫌でも断れないよね。
なんて考えていたら、止まり木に到着。結論、黙っていればバレない。コソコソ入ってコソコソと帰ろう。
「いらっしゃいませー……翼ちゃん、お客さんだよー」
秒で巣護さんに発見された上に、鷹空さんを呼ばれてしまいました……迷惑がられたら、どうしよう。
「吾郎、来てくれんだ!真理さん、僕が案内します……お客様、こちらへどーぞ」
鷹空さんが、かしこまった口調で席に案内してくれる。でも、その顔には悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。
(迷惑がられてないよね?)
嬉しさのあまり、小さくガッツポーズしてしまう。
「ありがとう……頼む物が決まったら、声を掛けるね」
パワーをつけたいけど、喫茶店なので、がっつりとした食べ物は少ない。
でも、良いのだ。ここでは心の栄養補給がメイン。後からずき家で明太牛丼特盛を買って帰ろう。
(パスタにするかな……待てよ、どうせなら文化祭の参考になる物にするか)
しかし、問題がある。それは、どれが冷食か分からない問題。
普段、料理をしないから皆目見当がつかないのだ。
かといって店の人に聞くのは失礼だ。
「すいませんー。注文良いですか?野菜サンドとツナサンド、それとコーヒーをお願いします」
下手な考え休むに似たる。なんとなく、火を使わないでも作れそうな物を注文してみる。
それに俺にはとっておきの作戦があるのだ。
「それだけで足りるの?……言っておくけど、帰りに何か買うのは駄目だからね」
何故にバレた?でも、牛丼を買っても鷹空さんにバレない筈……バレないよね。
「いや、文化祭の参考になるかなって。サンドイッチなら火を使わないでも作れそうだし……他に何か参考になる物ある?」
これぞ察して下さい作戦だ。世の中、ストレートに言葉にしない方が良い事もある。
「そういう事ね。それなら僕が決めてあげるよ」
満面の笑みで頷く鷹空さん。その笑顔を見る限り、俺の来店を迷惑だと思っていない……筈。
「それは助かるよ」
俺の家事レベルだと、どれが冷食なのか分からないのだ。でも、鷹空さんなら知っている筈。
ましてや文化祭に出せるメニューに絞るなんて無理だ。
(ナンパをするハザーズ……ホストインキュバスみたいに女性から力を吸収するハザーズなんだろうか?)
しかも彼氏持ち限定なんだよな。随分ニッチな欲望から生まれたハザーズだと思う。
ただ一つ言える事がある。そいつに遭ったら、浄化せずにフルボッコにしてやる。
折角出来た彼女を奪うなんて許せない。
ふと、月山の笑顔を浮かんだ。
(月山も俺の杞憂だと良いんだけどな)
最近、月山は本当に幸せそうに笑っている。俺は仕事で、人の醜い部分を沢山みてきた。
だからなのか、何でも勘ぐってしまう。悪い癖だと思うけれども、ヒーローは疑うのも仕事だ。
「お待たせしました。いっぱいあるからちょっと待ってね」
一瞬、自分の耳を疑ってしまった。色々と考えていたら、鷹空さんが注文の品を持ってきてくれた……くれたんだけど。
「ず、随分沢山あるね」
野菜サンド・ツナサンド・ハムサンド・チーズサンド・BLT・ホットドッグ二個・パンケーキ二枚・プリン二個・コーヒー・ココア。
「そう?それじゃ食べよ」
鷹空さんはそう言うとエプロンを外して向かいの席に座った。これは賄いを兼ねているのね。
「サンドイッチは既製品を仕入れるのもありだね。それにパンケーキだと文字やイラストを書けるし」
パンケーキに書くのは書道部か漫研の奴にお願いしよう。女子が書きますって言わなきゃ良いのだ。
パーティションで仕切ればバレない筈。
「お皿は紙皿を使えば洗わなくて済むもんね。問題は生クリームの保存方法だよ」
教室にコンセントはあるけど、電子レンジとポットが優先だと思う。それに他の教室でも電気を使う可能性があるから、確認が必要だ。
「クーラーボックスに氷をいれて保存しておくとか……バッテリー式を持ってる人がいれば良いんだけど」
場合によっては俺が買おうかな。野外警備や避難者捜索の時にあると便利だし。
遭難者を探す時って、諸般の事情で人気のない場所に拠点を作らなきゃいけない。
長丁場になると、水分補給は必須。
前に知り合いのヒーローが持って来てくれて有難かった。
「これを元に皆で話し合おうよ。教室の飾りつけも考えなきゃ」
そっちは得意の人にお任せします。俺は自分が出来る事を知っている。何かあれば、全力で皆を守ろうと思う。
(黒服は柔道部や空手部の奴を巻き込むのもありだな)
クラス全員に何がしかの役割りをもってもらうつもりだ。陽キャ男子は健也に丸投げ……もといお願いして、俺は普段良く話すモブ系やオタク連中を取りまとめる。
女子は俺が関わらない方がスムーズに話が進むと思う。陽キャやギャルな女子とは挨拶するのが精一杯なのだ。
「そうだね。意見は多い方が良いし。成功する様に頑張ろう」
改めて鷹空さんを見て可愛いなって思う。モブな俺との格差は歴然な訳で。
漫画やラノベで、年の差やギャルとオタクの恋愛物語がある。
あれは上手くいくのが珍しいから、創作の題材になるんだと思う。実際は恋仲になる事すら稀、恋人になっても長続きしないのが現実だ。
でも中には、その奇跡を起こした人もいる訳だ。だから……。
(寝取りハザーズをぶっ潰して、学園祭を成功させてやる)
「食べ物はこれでオッケー……黒服ってどんな喋り方するんだろ?」
経験があるけどボディーガードはほぼ無言だ。でも、学園祭の模擬店で無言はアウトだと思う。
「執事みたいに敬語で話せば良いんじゃない?模擬店に来る人は、そこまでこだわりないと思うよ。ボディーガードとか執事とか気にしないって」
それもそうか。主役は健也達イケメン軍団。俺等は雰囲気を盛り上げる添え物なんだし。
何より敬語はコミュニケーションの万能ツールだ。それの俺には初対面の人とため口で話す度胸もない、
「翼ちゃん、今日はもう上がって良いわよ。大酉君、翼ちゃんを送ってもらえるかな?最近、この辺でもハザーズが出て物騒だし」
食事を終えた頃、巣護さんが声を掛けてくれた。まさか、まじで奇跡が起こる……訳ないか。
「真理さん!?……本当に良いんですか?」
この辺りで出没しているハザーズは、バーディアンが担当しているポーチャー。幹部クラスじゃなきゃ、変身しなくても何とか出来る。
むしろ問題はどこまで送って行くかだ。流石に自宅までは厚かまし過ぎる。最寄り駅……いや、近くのコンビニが妥当か。
「いつも頑張っているご褒美。どこか寄り道しても良いのよ」
そう言ってにやりと笑う巣護さん。早く帰れるのがご褒美って事だよね?
それとも……勘違いするのは虚しいだけだ。
「真理さん!……ご、吾郎、着替えて来るからお店の前で待っていてね」
会計を済ませて、店の前で待機。勘違いしちゃいけないのは分かっている。
(……月山の事心配する資格ないよな。俺の方が可能性低いんだし)
月山が騙されているかも知れないってのは、あくまで俺の憶測だ。王餅さんの人柄や行動は、あくまで噂。人伝に聞いた物ばかり。
でも、俺は違う。鷹空さんは、校内有数の美少女。そして誰にでも優しい人気者だ。
言い変えれば、イケメンや秀才を選び放題な訳で……わざわざ俺みたいなフツメンを選ぶ必要はない。
「吾郎、お待たせ」
笑顔で店から出てきた鷹空さん。その笑顔だけは本物だと思う。
今日だけは一緒に歩ける幸せを噛みしめても罰は当たらない筈。
「鷹空さんの家は、ここから近いの?」
自然にあくまで自然に。自宅の場所を聞いて、気まずくならない場所まで送って行こう。
「歩いて十分位かな。この辺りは中学の学区内だし」
つまり地下鉄やバスは使っていないと。最寄り駅が候補から外れました。
「一戸建て?マンション?……でも、部活とバイトを両立させているなんて凄いよね」
俺は学業と仕事で手一杯なのに。鷹空さんは学業・バスケ部・バイトをしている。更に友達付き合いも疎かにしていないみたいだし……あれ、友達としても俺が入る隙間ない気が。
「そうでもないよ。男バスと違って女バスは、練習多くないし。バイトも空いている時間で二時間位お手伝いしている感じなんだ」
男子バスケ部は週五で部活があるけど、女子バスケ部は週三回位との事。土日も休みの方が多いそうだ。
「でも、無理はしないでね。力になれる事があったら何時でも言って」
ヒーローは仕事柄無理を強いられる事が少なくない。そんな時は気付かずに疲労が溜まっていたりする。
俺が鷹空さんの力になれる事……うん、何も思いつかない。
「おっ、その言葉もう取消せないぞ……そうだなー。時間ある時で良いからバイトの帰りにまた迎えに来てもらおうかな」
……思わず自分の耳を疑う。それ協力じゃなくご褒美なんですが。
(仕事以外は暇だから何時でもオッケーだ……総司令にバーディアンに協力しなさいって言われたから、パトロールも兼ねればいけるのでは)
バーディアンをこの地域を担当している。パトロールも協力の一つだ。これで毎回送る事が出来る……いや、流石に毎回だと引かれるよね。何事も限度って物がある。
「都合があえば、お嬢様のお供をしに行くよ……次はどちらに向かうのですか?」
物語に出て来る執事の様に、胸に右手をそえて恭しく尋ねる。照れ隠しと学園祭の予行練習です。
「うむ、苦ししゅうないぞ。次の曲がり角を左に曲がって、五分位の所にあるマンションだよ」
鷹空さんがクスリと笑う。この笑顔を守る為ならS級のハザーズとだって戦ってやる。
つまりもう五分経ってしまったと。楽しい時間はすぐに過ぎるって本当なんだな。
「そうなんだ。どこまで送って行けば良い?」
この辺は人通りが多いから危険は少ない。もうお役御免だと思う。
鷹空さんが断りやすい様に歩みを止める。
「もう吾郎は僕の執事なんだからちゃんと家まで送ってよね」
そう言って、くるりと振り返った鷹空さんは腰に手を当てながら怒った振りをした。
俺は少しネガティブに考え過ぎなのかも知れない。彼氏にはなれなくても友達にはなれるんだし。
「分かりました。最後までお供させて頂きます……あれれ、月山と彼女?」
二人共、笑顔で楽しそうだ。やはり、俺の杞憂だったんだろうか?
ただ、問題がある。俺には女の子の作り笑顔かどうかなんて区別つかないのだ。
(ハザーズの企みなら分かるんだけどな)
分かっている事は一つ。月山が嬉しそうだって事だけ。
「うん……でも、彼女さん変じゃない?妙に周りを気にしているって言うか」
鷹空さんの言う通り、王餅さんは時折離れた所を見ている。
その先にいるのは、俺様系のイケメン!?
かなり気まずいけど、幸い鷹空さんは気付いていない。
あの手の馬鹿は少し刺激しただけで、直ぐキレる。鷹空さんを巻き込まない様にしなくては。
「確かに、少し変だよね。一回月山と話してみるよ……そうなると一緒に帰った事も話さなきゃ駄目か」
月山の心配をしていたら、いつの間にか自分を追い詰めていた。ひかれたらマジで泣くぞ。
「何か困るの?僕は皆に言うつもりだけど?」
皆に言う。つまり健也の耳に入っても平気と……もしかして、あの噂は嘘だとか?
「鷹空さん……」
「うち、ここなんだ。送ってくれてありがとう」
タイミングが良いのか悪いのか。確認しようとしたら、鷹空さんの住んでいるマンションに着きました。
ヒーロー物書きましたが私の最終履修
仮面ライダー スカイライダー
戦隊もの サンバルカン
魔法少女 花の子ルンルン
感想で元気になる作者です




