無茶振りされたんですけど
自分のクラスなのに、居心地が悪い。俺はクラスの模擬店で黒服兼ガードマンをする。つまり模擬店の主要メンバーだ。
今日はその話し合いをするんだけど、俺以外全員クラスの一軍な訳で……思いっ切り浮いてます。
仲良いのは健也位。男子はたまに話すレベル。女子に至っては、挨拶すらした事がない人もいる。
決めた。健也の隣で大人しくしていよう。だって、俺以外皆キラキラしているんだもん。
ここにいるのは、漫画やラノベで言えは主要キャラみたいな人達。俺は名前すらないモブだと思う。
特に鷹空さんは、一際輝いている。主人公かヒロインって感じだ。
漫画でもラノベでも、モブキャラが主要キャラと恋仲になる事はない。
現実ならもっとそうだ。
(俺って身の程知らずの恋をしているんだよな)
戦いだとリアリストを気取っている癖に、学生に戻ると無謀な恋をしているんだから笑い草だ。
「まずはメニュー決めだな。吾郎、何かアイディアはあるか?」
健也、俺一人暮らししているけど、料理は得意じゃないんだぞ。
「アイディアって言っても、衛生面や火の絡みで調理は難しいだろ?業務用の冷食当たりが妥当だと思うぞ」
模擬店は教室でやる。つまり絶対に火気厳禁。食中毒の事を考えると、素人調理はアウトだ。
そして今の冷食のクオリティは凄い。飲食店でもデザートは冷食を使っている所が多いそうだ。
「学祭の食べ物に高いクオリティを求める奴はいないか。腹を痛くしたなんて言われたら、困るもんな」
健也の言う通り、味より安全が大事。食中毒って、健康被害がえげつないんだよね。
「僕、今日バイトだから聞いてみるね」
鷹空さんが賛同してくれた。止まり木でも冷食を上手く活用していると思う。
「でも、それじゃつまらねーじゃん」
陽キャグループの一人がぶーたれる。そしてその視線は俺を捉えていた。
多分、モブな俺が出しゃばっているのが気に食わないんだろう。
しかし、舐めてもらっちゃ困る。俺はヒーロー活動で色んな経験を積んでいるし、様々なプロと交流があるのだ。
「飾りつけとかサービスを工夫すれば良いんじゃないか?ホスト役の奴がメイド喫茶みたく魔法を掛けたら受けると思うぞ。『お嬢さんのハートにも美味しくなる魔法を掛けますね』とか」
アイディアを伝えながら健也を見る。俺を巻きこんだ罰だ。恥をかきやがれ。
「吾郎、この野郎。お前にもやってもらうからな」
健也は嫌なようだけど、周囲は盛り上がっておりほぼ確定だ。
そして健也残念だな。イケメンホストが勢ぞろいしている中、モブの黒服を指名する人はいないぞ。
「おう、きちんと皆を守っててやるぞ。とりあえずスーツは持ってきたけど、ネクタイはどうする?」
一応、ネクタイは数本持ってきた。でも、俺のスーツ姿なんて誰も興味ないと思う。
多分、スルーされて終わりだ。
(ネクタイは美樹本さんに相談してみるか)
学園祭でガードマン兼黒服の出番なんてないだろうし。
「吾郎、スーツ持ってきてくれたの?へえ、良いじゃん。折角だから着てみてよ」
気さくに話し掛けてくれるけど、鷹空さんは一軍女子の主要メンバー。周りの視線が痛いです。
「流石にここだとあれだから、どこかで着替えてくるよ」
放課後だけど、教室には他のクラスメイトも残っている。いきなりパンイチになるのはアウトだ。
そして、俺分かっている。俺のスーツ姿なんて、皆あまり興味がない。着替え終わった頃には、俺の事を忘れているんだ。
「当たり前でしょ!今の時間なら西棟の階段を使う人いないじゃん。踊り場で着替えられると思うの。だから行こっ」
そう言って俺の背中を押し始める鷹空さん。健也も見ているけど、良いの?
「俺等も行くか。男子で階段塞げば問題ないだろ。黒服姿見たら、吾郎の役割もはっきりするし」
健也、俺の役割はガードマンだぞ。手を後ろで組んで監視するだけだ。
スーツ姿見られたら首になる危険性はあるけどね。
「……確かに暴走する危険があるもんね」
クラスのギャルが呟く。これでもヒーロー絡みで、色んな経験しているから暴走なんてしないぞ。
鷹空さんの言う通り、西棟の階段は人気がなかった。
(結局全員来たけど、変な空気になって終わったらきついよな)
……でも、確定なんだけどね。違う意味で着替え辛い。
「どんな鍛え方したら、そんな身体になるんだ?」
健也が少し引いている。これでも仲間からはまだまだって言われているんだぞ。
(やっぱり、栄養面を見直す必要があるか)
ヒーロー専門の栄養士がいるけど、食事がアスリート系になり、楽しみが減ってしまう。
「すごっ……これは保存確定じゃん」
「翼、盗撮はアウトだって。でも、まじで凄い筋肉じゃん。黒服期待出来るかも」
なんか女子も盛り上がっているみたいだ。とりあえず首は免れそうだ。
「自主トレが主だぞ……こんなもんでどうだ?」
とりあえず黒いネクタイをしめておく。鏡がないから分からないけど、喪服っぽくなっていると思う。
そして少しだけヒーローオーラ―を解放。纏っている空気が変わる筈。
「本当に吾郎だよな……ちょっとサングラス掛けてみろ」
健也から渡されたサングラスを掛けてみる。視界が悪くなるし、変身の邪魔になるからサングラスを掛けるのは初めてに近い。
「本物の黒服じゃん。蝶ネクタイに変えれば完璧だって」
ボウタイか。あれ結ぶの難しいんだよな。
(動画見て練習しておくか)
仕事でもつける時あるって言う。覚えておいて損にはならないと思う。
「黒服で決定だな。お前、出迎え役もしろよ。絶対、盛り上がるぞ」
健也の提案に皆が頷く。それだと地味に出番多くないか?
「俺の意見は!?」
挨拶専門の黒服なんて完全に健也達の引き立て役だろ?お客さんの目当ては健也達イケメン。俺を見たらガッカリする筈。
俺の顔を見て帰られたら、絶対にへこむと思う。
(腐っても甲級ヒーローだ。断るべきか?)
ヒーローは見世物でも引き立て役でもない。俺にも命懸けで闘っているプライドがある。
「吾郎、一緒に写メ撮ろ!」
鷹空さんが隣に駆け寄ってきた。そしてそのまま、撮影。正に役得です!
なんか仕事も学祭も頑張れる気がしてきた。
◇
テンション高いまま、本部に到着。
笑顔で学祭の事を申請……そうしたら総司令に呼びだされました。
震える足で向かうのは指令室。正直、物凄く緊張しています。
基本、なにかやらかさない限り総司令に呼び出しをくらう事はない。
(勝手に校長先生からの依頼を受けた事を怒っているのか?)
確かに規約違反だけど、あの場合仕方ないと思う。
考えれば、考える程胃が痛くなってくる。
「お、大酉吾郎です。呼び出しに応じて来ました」
シクシクと痛む胃を抑えながら、指令室のドアをノックした。
ワンチャン不在とか電話中ってパターンないかな?
「吾郎ですね。お入りなさい」
そんな美味い話がある訳もなく、即返事が返ってきました。
「九稲総司令官、お久しぶりです。お変わりがない様で安心しました」
九稲環、S・H総司令官。つまり、俺達ヒーローのボス。
金髪碧眼で見た目だけは二十代前半の美女。
でも、俺が初めて会った時から容姿が変わっていない。正確に言うと四十年前から容が変わっていないそうだ。
何故なら総司令官は異世界生まれ。敵対する組織を追って、この世界にきてS・H創設に携わった。
そして滅茶苦茶強い。バトルスーツを着ていても、一回も勝った事がない。
調子に乗っていると、呼び出しをくらってフルボッコにされてしまう。
「貴方に命令があります。バグズファイブの戦闘力強化、バーディアンへの援護。そして槻浪高校学園祭警備をしなさい」
……命令が多すぎませんか?バグズファイブとバーディアンの件は分る。
学園祭の警備を命じるって事は、例の件にハザーズが絡んでいるって事だ。
「うちの学園祭にも来るかも知れないって事ですね。しかし、何が目的なんでしょうね?聞いた話だと丁級でも対処可能だと思うのですが」
確認出来ているは、彼女を寝取っているだけ……確かに泣いている人もいる。でも刑事事件ってより、民事の扱いになる。民事でも起訴は難しいだろう。
「予知や占術を使える者に調査してもらったので、間違いないでしょう。そして今はまだ力を溜めている時期らしいです。強さはE級ですが、危険度はCとでました」
まじか。ハザーズの強さと危険度は、必ずしも一致しない。
E級と言っても、普通の人間より強い。ぶっちゃけ、強くてプライド高い奴より、弱くても手段を選ばない奴の方が厄介だったりする。
「ろくでもない手を使う組織。又は幹部やボスが強い危険性があるって事ですね」
今いるハザーズが弱いからって、侮るのは危険だ。強いハザーズは、いきなり日本に来れないらしい。
E級やD級のハザーズは拠点を築きつつ負の力を溜めていく。そして、C級やB級を呼ぶのだ。
「貴方には、そのハザーズの情報収集を命じます。ヒーローが直接見れば分かる事もある筈」
総司令にしてみれば校長の依頼は渡りに船って訳か。うちの学校でハザーズに狙われそうな奴。正直、かなりいる。
周りに絞れば、月山と健也。俺は……同情されて終わりだと思う。
「分かりました。バグズファイブは、どれ位まで強化したらよろしいんでしょうか?」
まあ、二級もあげれば義理は立つと思う。バグズファイブは丙七、丙五まで上げればクリアだ。
「デストラックスに対抗出来るまでにしなさい」
……なんて?あいつ等、五対一で負けていたんだぞ。丙一か乙十まで上げないときついぞ。
「確かにヤークトスリーは引退しました。しかし、バグズファイブにも戦う相手がいる筈です。デストラックスは甲級や乙級で対応した方が良いと思うんですが」
何ならバグズファイブが戦っている組織も俺が戦っても良い。
だって丙七から一まで上げるなんて、絶対に長期になるもん。これ以上自由時間を減らしたくない。
「貴方も知っての通り、ヒーローの戦力強化は急務。それに一部の上級ヒーローだけでは限界があります。何より、後輩の育成も上級ヒーローの大事な役割り。忘れたとは言いませんよね」
そう言って圧を掛けてくる総司令。普通の会社だとパワハラ案件だぞ。
確かに俺も守さん達先輩ヒーローに鍛えてもらった。でも、俺はまだ高校生なんですが。
「俺より適任な人がいますって」
俺、育成経験ないし、何よりバグズファイブの方が確実に年上だ。強気に出れる気がしない。
「まずバグズファイブに関してですが、貴方は元戦隊員。しかも生き物の力を宿している。正に適任者です。それに他の上級ヒーローは複数名の育成をしているんですよ。次にバーディアンですが、ご存知の通り、貴方と同じ地域で活躍しています。そして彼女達も貴方と同じ学生。つまり活動時間も同じです。これも適任。まだ何か言いたい事はありますか?」
上司に正論で責められたら、返す言葉がない訳で……仕事が増えてしまいました。
でも、一つ言いたい。ヒーローだって青春したいんだぞ!




