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俺、ヒーローなんだけど   作者: くま太郎


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学園祭なんだけど

 いくらヒーローとして活躍しても、学生としての俺はモブでしかない。女子からの印象は『健也の友達』が一番多いと思う。

 そんな俺の学校での処世術は、目立たない事だ。出る杭は打たれる、出しゃばったモブは顰蹙を買う。

 そして目立ったヒーローはトラブルに巻き込まれる。


「来月、学園祭がある。だから、うちのクラスでは、何をやるか話し合いで決めて欲しい」

 担任の言葉に教室内がざわめきだす。

 特にクラスの中心である陽キャの皆様はテンションが上がっていた。

 たこ焼き屋、お化け屋敷、占い、展示……様々な案が出て来る。

 そんな中、俺は様子見に徹していた。

この手の話し合いで強いのは、カースト上位の人達。もしくは一芸がある人だと思う。

俺の一芸はヒーロー……早い話が戦いだ。どう足掻いても学園祭には不向き。

 表舞台には立たず、縁の下を支えようと思う。


「健也がいるからコンカフェが良いんじゃない?ホストっぽい恰好してさ」

 陽キャ女子の一人が提案した。他の女子も一斉に賛同する。

健也も校内有数のイケメンだ。確かに人気がでると思う。

 うちのクラスには健也以外にもイケメンが多い。だから、俺みたいなモブ顔は注目されないで済むんだけど。


「それなら女子も、何かコスしろよ。メイドとかさ」

 次に提案したのは、チャラ男。今度は男子が賛同する。俺も鷹空さんのメイド姿を見たいです。

(コンカフェに決定っぽいな。俺は皿洗いでもするか)

 視線を感じたので、振り向くと健也だった。健也は俺と目があった瞬間、にやりと笑ったのだ。


「それなら執事とかもいたら受けるんじゃね?吾郎とかピッタリだと思うぜ」

 健也君、君は何を言っているんでしょうか?俺に似合うのはジャージとバトルスーツだけだぞ。


「大酉の黒服……グラサンを掛ければいけるかも」

 さっきの女子が妥協案を出してくる。俺には不満だけど、健也の意見を否定したくないんだろう。

 ……そして陽キャ男子の皆。ここは反対するところだぞ。俺みたいなモブが目立っても良いのか?


「女子は知らないか……吾郎の筋肉凄いんだぜ。体育会系の俺達よりムキムキなんだそ」

 確かに鍛えているけど、パワーナックルさんやロウガーディアンさんの方が筋肉凄いぞ。

 まあ、あの二人は素の状態でもハザーズ倒せる人外なんだけどね。


「後、阿保みたいに強いぞ。前に俺が三年に絡まれた時、一瞬で関節極めて大人しくさせたし……ホストや執事系の黒服じゃなくて、ボディーガード系の黒服ならぴったりだぞ」

 月山君、それは内緒にしてって言ったよね。だって、流石に素人を殴る訳にいかないし。

(確かにボディーガードなら、慣れているから良いか)

 コンカフェにいるガードマン役なんて、受け狙いか役にあぶれた奴しか思われないと思う……イコール目立たないで、本業ヒーローに支障が出ない筈。


「吾郎の筋肉が凄いって本当?なんか信じられないな」

 そんな中、鷹空さんが疑問の声を挙げた。女子の皆さんも信じられない様だ。

 でも、気持は分る。俺の体格は平均的だし、体育の成績も決して良くない。

 本気を出せば、多分凄い記録が出ると思う。でも、身バレを防ぐ為、身体能力制限の術式をかけているのだ。


「マジだっての。腹筋なんてバキバキなんだぞ。吾郎、服を脱いで見せてやれ」

 健也、売り言葉に買い言葉なのかもしれないけど、教室ここで脱ぐのは結構恥ずかしいぞ。


「は!?あり得ないんだけど」

 鷹空さんが怒り口調で返す。だよね。目が穢れるよね。

 なんだろう。巻き込まれたのに、えげつないダメージを負っているんですが。


「男子全員のお墨付きだぞ。それなら文句ないだろ?」

 健也の言葉にクラスに男子が頷く。なんで俺の筋肉問題で、こんな大事になるんだ?

 これでも甲級ヒーローなんだぞ!


「きちんと僕が廊下でチェックする。吾郎、行くよ!……他の子に吾郎の腹筋を見せるなんて有り得ないんだけど」

 俺の手を引っ張りながら、廊下に向かって歩き出す鷹空さん。

あまりの迫力に担任の先生も何も言えない。

(小声で何か呟いていたけど、何て言っていたんだろう?)

今は授業中。当たり前だけど、廊下には人っ子一人いない……どのタイミングで腹を出せば良いんだ?


「マジで見るの?」

 確認、大事。だって、俺の腹筋なんて見ても、何の得もないぞ。

 意を決して、シャツをまくりあげる。


「ガードマンに筋肉は大事じゃん……おー、これはこれは……ちょっと力入れてみて」

 言われるままに腹に力を籠める……なんで鷹空さんはスマホを持っているんだろうか?


「うわっ、まじでバキバキじゃん」

「すごっ、六つに割れてる」

「翼、写真撮り過ぎ」

 いつの間にか、クラスの女子が来て騒ぎ出した。羞恥プレイですか?


「皆、誰の許可を得て見ているの?教室に戻れ―」

 なぜか鷹空さんが怒って、集まってきた女子を教室に連れ戻す。残されたのは、廊下で腹を出している俺だけ。


「おーい、ガードマン。腹冷やす前に戻って来い」

 健也、そんな風に言われると逆に戻り辛いんだけど。

 結果、ガードマン役は満場一致で決定。良く考えたら、学祭でも仕事する感じになるの?

 しかし……

(これはモテ期到来か?)

 うん、頑張って身体を鍛えた甲斐がありました。


 ……女子の皆さん、騒ぎが納まるの早過ぎませんか?もう俺に筋肉から興味が失せたのか、次の休み時には誰も触れてこなくなった。

 俺の妄想だと女子に囲まれて、昼ご飯を食べる予定だったのに。

 しかし、現実は厳しく。


「……三日天下ならぬ三分モテ期かよ!月山おまえは良いよな。俺にも、幸せを分けろ」

でも、その月山はスマホに夢中な様だ。


「え?……悪い。聞いていなかった」

 月山君さあ、人と話す時はスマホから目を離すぼがマナーなんだぞ。

(傷が深くなる前になんとかしたいんだけど)

 ハザーズの企みなら簡単に潰せるんだけど、ダチの恋愛を潰す方法は分からない。


「だよねー。俺の愚痴を聞くより愛しの彼女ちゃんとライソする方が楽しいってか。ちくしょう、祝ってやる」

 今は嫉妬したふりをして、お茶を濁すのが精一杯だ。今月山を諫めても話がこじれるだけだと思う。


「まあ、月山にも春が来たって事で良いじゃないか。吾郎、お前スーツ持っているか?」

 健也、今日も爽やかだね。誰の所為で、胃を痛くしているか分かっているのか?

 でも健也には悪気がないんだよな。


「あるぞ。なんなら黒のスーツも持っている」

 緊急の援護以外は転移装置を使わず、車や電車で現場に向かう。その時にスーツを着ていると、怪しまれないで済むのだ。

 式典や講演会で、観客に紛れ込まなきゃいけない時にスーツは必須だ。


「お前は衣装オッケーか。俺は演劇部から借りる事にしたよ」

 うーん、スーツとかシャツってサイズが合ってないと不自然になるけど、大丈夫か?


「ネクタイはどうすれば良い?黒のネクタイもあるけど、それだともろに喪服だぞ」

 スーツは、それなりの数を持っている。先輩ヒーローから『TPOに合わせて持っておきなさい』って指示されたのだ。それに合わせて、ネクタイも数本持っている。

最初は上手く結べなくて何回も練習したんだよな。


「スーツとネクタイ持ってきて女子に選んでもらえば良いだろ」

学園祭か。なんか学生って感じがして良いな。普段が血なまぐさいだけに嬉しい。


「健也、ちょっと良いか?」

 教室ここで彼女の事を聞くのはまずいので、健也を廊下に連れて行く。


「なんだ?もう一回、合コンを開けってか?」

 ……良いの?じゃない。興味はあるけど、今はそれより大事な事がある。


「……月山と仲良くなった子って、どんな人なんだ?その前にあいつの独り相撲って事はないよな?」

 鷹空さんから聞いた話では、俺や月山とは住む世界が違うタイプだ。ライソを仲間に晒されている危険性もある。


王餅おうもちさんか?ハキハキ喋る良い子だったぞ。この人だ」

 そう言って健也はスマホを見せてくれた。

 名前は王餅怜華。白鷺学院の一年。

 ……見た目だけで人を判断しては駄目だと思う。でも、あえて感想を言わせてもらえば……。

 オタクに欠片も優しくないきつそうなギャル。確かに美人だけど、月山、王餅さん(ここ)は無理だって。


「そっか……脈はあるのか?」

 これが一番大事だ。俺は王餅さんの事を知らないし、二人でいる所も見ていない。


「俺も王餅さんとは繋がりがないからな。でも、王餅さんの方から話し掛けていたし脈はあると思うぞ」

 なんでも王餅さんはバスケ部じゃないそうで、その日急遽参加したらしい。

 それで他のイケメンに目もくれずフツメンの月形をロックオンしたと……疑うのは良くない。でも、不安になる情報しか出てこないんですが。


 昼飯を食べようと学食に向かったら、上形先生に確保された。


「大酉、校長先生がお呼びだ。ついてこい」

 先生、なんか不穏なワードが飛びだして来たんですが?

 校長先生なん全校集会でしかお目に掛かった事ないぞ。


「あの、俺何かやらかしました?」

 校則違反はしていない筈。でも、ヒーロー活動を暴力行為だと捕らえられたら痛い。


「そんなじゃないから安心しろ。失礼します。上形です」

 校長先生がいるのは、当たり前だけど校長室な訳で……上形先生に連れられてやって来たのは校長室。

やたら豪華なソファーと必要以上に堅牢な机。そして棚に並べられたトロフィーと盾の数々。

モブ生徒には無縁な場所、それが校長室。ハザーズのボス部屋より緊張するんですけど。


「大酉君、良く来てくれたね。実は君に頼みがあるんだ」

 嫌な予感しかしない。その前に校長先生は社会人ですよね?

 用事があるなら自分の方から来るのは常識だと思うんですが。

 

「なんでしょうか?」

 一応とぼけてみるけど、絶対にヒーロー絡みだと思う。

 当たり前だけど校長先生も、俺がコカトイエローだと言う事を知っている。

 そうでなきゃ緊急出動の時困るし。


「学園祭にハザーズが来る危険性があるんだよ。だから、何かあった時には、君に動いてもらいたいんだ」

 ……まじで?俺、学園祭楽しめないじゃん。折角、皆が休みくれたのに。

(ハザーズが来たら、当番のヒーローに頼めば良いのに……待てよ)

 校長先生はハザーズが来るとしか言ってない。危険性がなければ出動要請は難しい。


「詳しく話を聞かせてもらえませんか?」

 学校にハザーズに襲撃されたのなら、情報が入っている筈。でも、そんな話は聞いた事がない。


「都内にある学校の文化祭や学園祭でハザーズらしき男がナンパをしているという報告されているんだ」

 へ?ハザーズがナンパ?しかも、学生を……前代未聞過ぎて頭がついていかない。

 そいつ、本当にハザーズなのか?


「ハザーズっていう確証を得られていないんですか?」

 ハザーズらしき物を見たって言われても、出動の判断は難しい。ましてやハザーズにナンパされたって通報が来ても本部は信じないと思う。

 それに誤報や悪戯は結構ある。何より陽動の可能性もあるから確証がないと出動判断は難しい。

(丁級ヒーローも文化祭には行き辛いもんな)

 パトロールは丁級ヒーローの役割だ。でも、ヒーローの大半は成人済み。変身した姿で学園祭に行ったら不審者扱いされてしまう。


「彼女をナンパされて怒った男子生徒が返り討ちにあっている。そいつの証言だとハザーズに変身したそうだ。でも、女の方は否定しているんだとよ。つまり目撃者は男子生徒のみ」

 上形先生はそう言うと頭を描きながら、溜息を漏らした。

 そして凄く気まずそうな顔をしている。


「どのケースでもハザーズを目撃しているのは男子生徒のみなんですよ。そして彼女に振られているのも共通点です」

 ハザーズによる寝取り?彼氏が被害を訴えても、彼女は否定。学校側も恋愛のいざこざだと片付けていたそうだ。


「教師は部活とかで横の繋がりもあるんだよ。そこで話を聞いてみたら、似た様なケースが多い事が分かったんだ……中には聞かれるまで黙っていた男子生徒もいてな」

 そりゃ彼女をハザーズに寝取られたなんて言えないよな。絶対に信じてもらないし。

(確かに本部は動きにくいケースだよな)

 被害は失恋のみ。目撃者は振られた彼氏だけで、彼女は否定している。正直、信用度はかなり低い。


「分かりました。俺には無縁な話だけど、許せないので」

 愉快犯的なハザーズだと思う。退治とまではいかなくても、きついお灸をすえてやろう。


「私達が出来る事なら何でもするよ」

 校長先生が了承してくれた。うちは私立だ。評判は大事。学園祭でハザーズの被害があったって噂だけでも大ダメージである。


「まずは本部に報告させてもらいます。それと変身できる部屋を用意して下さい。出来れば人目につかない場所で」

 変身する所を見られたらアウトだ。愉快犯相手に身バレするリスクは避けたい。

 ……一つ愚痴らせてもらえば、絶対に学園祭を楽しむ余裕ないよね!

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