友達がリア充になりそうなんだけど
次の日、学校に行くとクラスの男子が月山を囲んでいた。
(質問攻めだな……でも、なんか)
月山の笑顔がぎこちない。無理に笑っている感じがする。
まあ、まだ付き合えるとは決まった訳じゃない。それなのに、周りだけが盛り上がっていたら、苦笑いにもなるか。
「吾郎、おはよー……男子、必死だね。女子に軽蔑されているとも気付かないで」
月山達を遠目で見ていたら、鷹空さんが話し掛けてきた。
必死?確かに代わる代わる質問をしまくっているけど。
「軽蔑?あれ、月山を祝っているんじゃないの?」
俺も後からどんな子だったか聞くつもりだ。でも、それで鷹空さんに軽蔑されるのは嫌です。
「うん、うん、やっぱり吾郎はそうじゃなくちゃ……あれは月山君を通して、白鷺の女子と仲良くなろうって言う魂胆なんだよ」
それだったら健也に頼んだ方が確実だと思うけど……そういう事か。
「あー。健也に負けるけど月山には勝てるってやつ?」
確かに女子からしたら軽蔑の対象かも知れないけど、その気持ちは痛い程分かる。
健也はイケメンで陽キャ。しかも運動神経が抜群で性格も良い。
当然、モテる。同学年だけじゃなく、上級生や他校の子にも人気があるらしい。
でも健也は恋人作らない。だからなのかクラスの女子の大半は健也狙いらしい。
つまり、うちのクラスで彼女を作るのは至難の技。
(一か八かで告白して爆死するより、新しい出会いを求めた方が賢いもんな)
美樹本さんからも『告白は確認。気持ちだけでも伝えたいって告っても、漫画じゃないんだから無理だぞ
』って言われた。
「話を聞いていたら、そんな感じみたいね。大声で話しているから嫌でも聞こえてくるし」
月山の周囲だけ見ていたから気付かなかった。女子が冷たい目で、月山を取り囲んでいる男子を見ている。
ただ今男子の株が大暴落中みたいです。
(参加しなくて良かった……まあ、元から俺には下がる株もないけど)
「月山に彼女か……鷹空さんは白鷺に知り合いとかいる?」
ちなみに、俺は全くいない。てか、仕事が忙し過ぎて、クラス以外に友達がいません。
「いるけど、それが何?」
なんか険悪な空気になったんだけど!?今の会話のどこに地雷があったんだ?
もしかして俺が『その子を紹介して』って言うと思ったとか?
脈はないとはいえ、好きな子にそんな事言えないぞ。何より初対面の女子となんて話が出来る気がしない。
「月山と仲良くなった子、どんな人なんだろうと思って……あそこまで盛り上がって月山の独り相撲だったら気まずいし」
月山も俺と同じモテない君だ。勘違いしている可能性は否定出来ない。
ただ俺と月山には大きな違いがある。俺は周囲に大人が多いから耳年増なんです。
ヒーローって、案外振られやすい仕事だったりする。自然と先輩ヒーローの失恋話も知っている訳で。
結果、女子って怖いなって思ったエピソードを山ほど知っている。
「あー。そっちか。確かに月山君は良い人なんだけどね」
出た!女子の良い人なんだけどね。先輩達いわく言われたら諦めろってワード。
「月山は良い奴だよ。でも、あいつは人の善意を疑わない。何より勘違いで相手に迷惑を掛けたって落ち込むと思うんだ」
その時は肉まんのお礼に飯でも奢ってやろう。
ヒーローをしていると、人の嫌な面を見る事が多い。その所為か心配性になってしまうのだ。
「健也も人を疑わないタイプだしね、それとなく聞いてみるよ……あと、真理さんがまた来てねって言っていたよ」
止まり木は料理も美味しかったし、落ち着く雰囲気で癒された……何より、鷹空さんがいる。大事なのでもう一回言っておく。ウエイトレスな鷹空さんも可愛かった。
「常連になりたい位素敵なお店だったし、機会を見つけて行かせてもらうよ」
出来れば鷹空さんの勤務日を知りたい。問題は、それを聞く度胸がないって事だ。
◇
ハザーズが出ないからって、気は抜けない。今日は体力増強の為にプールに来たんだけど……。
(逃げるなら今の内だ。見つかったら、とんでもない事になる)
俺の視線の先にいるのは、爽やか系イケメン。
名前は平守。ヒーロー名はピースガーディアン、甲一級。
甲一級だけあり、俺より強い。もう、レベルが違うって感じだ。
そして平さんの周りには周りには、新人ヒーローが数人いた。
「それじゃ、訓練をするぞ。君達、準備は良いか?」
さっきまでの爽やかスマイルが消え、厳しい表情になる平さん……スイッチが入ったな。
(名も知らない新人君達。ちょっと……かなりハードな訓練になるけど、負けるんじゃないぞ)
心の中で新人にエールを送っておく。ちなみに新人は既に変身している。
守さんは平和守る為、毎日ハードな鍛錬をかかさない。結果、変身しなくても、乙級ヒーロー以上に強くなったのだ。
新人は丁一か良くて丙七位だと思う。変身していても、守さんの訓練についていけない可能性がある。
「お、お願いします。俺達青春戦隊ユースファイブ、学園の平和を守る為なら、何でもします」
せ、青春戦隊⁉バグズファイブを軽く超すきつい名前なんですが!
(学園の平和って事は、俺と同じ学生か……よし、関わらないでおこう)
ユースファイブからは俺の苦手なカースト上位臭がする。守さん+カースト上位戦隊、関わるのは危険だ。
「良い心意気だ……そこにいるのは吾郎じゃないか!お前も、一緒に鍛錬するぞ」
そうは問屋が卸してくれなかった。
「ピースガーディアンさん、お疲れ様です。今、新人の訓練中ですよね?邪魔したら悪いので、俺は自主練していますよ」
うん、我ながら無難な返しだ。
守さんは、プロ中のプロ。正にプロヒーローの鏡だと思う。
そしてヒーローと言う職業に誇りを持っている……だからなのか、ヒーロー仲間にも、とんでもなく厳しい。
「大丈夫だ。元々お前を呼ぶ予定だったからな。早くこっちに来い」
……いや、俺が大丈夫じゃなくなる危険性があるんですが。
「……分かりました。今、行きます」
これ以上断ったら、さらに訓練がハードになる危険性がある。
もう、覚悟を決めよう。
「改めて紹介しよう。こいつの名前は大酉吾郎。君達と同じ高校生だ」
近くに来て分った。ユースファイブは青春エンジョイオーラを放っていた。
同じ高校生でも、俺とは天と地の差がある。
「このモブ野郎がですか?」
ユースファイブのブルーが怪訝そうな目で見て来た。
(ゴーグルがサングラスみたいになっている?それにあのマークはピースサインなのか?)
金のネックレスもしていて、凄くチャラいんですけど。
「ヒーロー名は言えないが、吾郎は上級ヒーローだ。丙級のお前達が束になっても勝てないぞ」
信じられないって目で俺を見てくるユースファイブ……階級マウント取っちゃうぞ。
「マジっすか?俺の名前はチャラブルー。タメっぽいし、仲良くしようぜー」
ヒーロー名もチャラ男由来なのか?それと初対面で距離近すぎない?
「俺はエースレッド。ある部活で全国大会に行った事があるから、名前を聞いたら驚くかもな」
……ある部活って、マークが思いっきりバスケットボールなんだけど……健也も中学の時に全国に行ったから、知り合いかもしれない。
「あーしは、ギャルピンク……ヒーローの素顔を見たらドン引きするってマジなんだね」
そう言ってケラケラと笑うピンクさん。ちなみにマークは派手にデコられたハート。
ちなみに素顔見せたらドン引きはヒーローのあるあるです。
でもね、礼儀ってあるって思うんですよ。自分の気持ちに素直でサバサバ系なんだは免罪符にならないんだぞ。
「私はドクモホワイト……身体は鍛えているみたいだけど、顔は平均点以下ね」
そう言って笑ってきたホワイトのマークはヒール。
ちくしょう……プロモデルの美樹本さんにチクってやるぞ。
「俺はモブイエロー。君とは仲良くなれそうな気がするよ」
バトルスーツの設計者に聞きたい。なんでイエローのマークがモだけなんですか?
格差が酷すぎない?
(学園限定のヒーローか。正体すぐにばれるんじゃないのか?)
パリピやギャルは目立つし、エースは特定しやすい。読モにいたっては、校内に一人いるかどうかだ。
「よし、吾郎まずはお手本をみせてやれ。今回は、救助想定5―Cで行くぞ」
張り切って俺に告げる平さん……逆に俺のテンションは、だだ下がり。
救助想定、その名の通り、プールを使った人命救助訓練なんだけど。
(よりによって5ーCか。あれ、きついんだよね)
「……はい、訓練着に変えてきます」
救助想定は普段からやっている。ちなみに要救助5は『もし、変身前に溺れている人を見つけたら?』ってやつだ。
そして平さんは、とことんもし?を追求するヒーロー。そこからシチュエーションに合わせてA・B・Cと色んなパターンを作っている。
「……まじ?あいつ、バックレる気じゃね?」
着替えて来た俺を見てギャルピンクが唖然としている。
気持は分るよ。俺もプールで、この恰好をしている人を見たらひくもん。
俺の恰好は厚手のパーカーとスエット。5―Cのテーマは『冬に溺れている人を見つけたら、どうするか』だ。
「今から吾郎には、この恰好でプールに入ってもらい要救助に見立て訓練用のマネキンを持ち返ってきてもらう」
これは、冬にコンビニ行った時に要救助を見つけた想定。都内ならまだ良いけど、俺の故郷だと心臓麻痺確定なんですが。
「あの、これレスキュー隊とかの役割じゃないですか?」
はい、イエロー君。ナイス、ツッコミ。でも、平さんは、そんなに甘くないんだ。
正確に言うと世間はなんだけど。
「……世間って理不尽な物でね。ヒーローは自分の命を省みずに、皆を助けてくくれる正義の味方だと思っている。もし、君達が要救助を見捨てたと思われたら、地獄の様なバッシングに遭うぞ」
俺達、ヒーローは常に満点な行動を求められている。特別な力を持っているから、助けてくれて当たり前。清く正しく、優しい性格でいて欲しいと。
「そ、そんな身勝手な……ヒーローに人権はないんですか?」
レッド君が慌てている。正確に言うと、笑える位あっさり剥奪されるのだ。
だから必死に身バレを防ぐし、機関も作られた。
「ヒーローになれば、皆が羨望の目で見てくれる。確かに、それも事実だ。でもキャバクラに行っただけで、炎上させられたヒーローもいるんだぞ。お前等が踏み込んだ世界は、そんな所だ」
あー、あったな。正義気取りの週刊誌に撮られたんだよな。まあ、そこは後日ハザーズに襲われたんだけどね。
「わ、分かりました。彼を手本に頑張ります」
なぜか俺を見ながら宣言するレッド君。
……結果、いつも以上にハードな訓練となり、ユースファイブは一時間で全員ダウン。
「嘘だろ?あいつ俺等より、きつい訓練していたよな。なんで、変身していないのに、平然としていやがるんだ」
チャラブルー君、答えは簡単。ヒーロー歴つまり訓練期間が違うんだよ。
ヒーローにとって訓練量は生命線。上位になればなるほど、強いハザーズと戦うし、求められるハードルも上がる。
生き残る為には、きつくても訓練しなくちゃいけないんだ。




