表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺、ヒーローなんだけど   作者: くま太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/55

隠れているんだけど

 俺の名前は大酉吾郎。これは秘密だけど、ヒーローコカトイエローでもあるんだ!

 そして俺は任務の為……段ボールの中に隠れています。

 大き目の段ボールを何個も重ねているので、中で座る事も出来る。欠点、なんか惨めな気持ちになってしまう。

 だって、ここはイベント会場。楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

(良いな―。皆、楽しそうだなー。ブラックスティンクって人気あるんだ)

 覗き窓から見えたのは、ブラックスティンクにサインを求める人達。

 丙級や丁級の主な任務地は地元。だからなのか、地元での人気が高い。

 こうして地元のイベントで警備をするし、ファンサービスイベントを積極的行うからだと思う。


「いつも私達を守ってくれて、ありがとうございます。一緒に写真を撮っても良いですか?」

 女子大生っぽい人がブラックスティンクに写真撮影をせがむ。

 今なら甲級ヒーローも一緒に映りますよ。段ボールに隠れていて、姿は見えないけどね。


「うん、良いよ。でも、手早くしてね。俺の任務は警備なんだから」

 ブラックスティンクの視線の先にあるのは第五駐車場。でも、停まっている車はかなり少ない。


「ブラックスティンクさんは、もっと人の多い場所が適任だと思います。でも、バグズファイブの三人がいたら、ハザーズも来ませんよね」

 ……ファンって良いな。無邪気に推しヒーローが万能だって信じてくれるんだもん。

 ちなみに人が少ないのには、理由がある。

 駐車場とは言っているけど、ここはだただの草むら。しかも、入場口から、かなり離れている。

 主に停めているのは、イベント関係者。希望すれば、一般の人も駐車出来る……事にしてある。


(さて、いつ来るかな)

 ナーチャーアニマルとランスボアは、絶対に第五駐車場に来る。問題はいつ来るかだ。

 ただ今の時刻午前十時。そして午後二時に、この近くでアイドルのコンサートがある。なんでも凄い人気のアイドルらしい。名前は……忘れました。

 もうね、仕事が忙しくて流行に疎いんです。

 ランスボアが攻めてくるとしたら、アイドルのコンサートに合わせてだと思う

 ……つまり、後四時間は段ボールの中で待機してなきゃいけないのだ。

(暇だ……でも、段ボールから出ている間に来られたらアウトだしな)

 何よりナーチャーアニマルを警戒させるのはアウトだ。

 スマホでも弄ろうかと思ったら、健也から通知が届いていた。

 健也 “練習試合の後、顧問が肉フェス連れて行ってくれる事になった。良いだろ”……うそん!

 なんでも、相手高校の顧問がイベント主催者と親戚関係らしく、特別に招待させてもらえたそうだ。

 今確認すべき事はただ一つ。

 “女バスも行くのか?”

 ……これで良し。参加を止めたい所だけど、俺の正体を隠したまま、止めるのはあまりに不自然だ。

 だったら、俺が気になる事を聞いておいた方が、精神的に良いと思う。

 そして女バス……つまり、鷹空さんもここに来るらしい。

 今、俺に出来る事は……

 “健也から聞いたよ。肉フェス行くんでしょ?川本しりあいが参加しているから、お勧めの屋台送るね”

 大会関係者から聞いて人気の屋台をピックアップして送っておく。ついで川本さんにも同じ学校の生徒が来る事を連絡しておいた。

 川本 “了解、俺が上手くアシストしてやるよ”

 アシスト……正体がバレない様に手助けしてくれるのか。

 鷹空さんが肉フェスに来る。つまり、コカトイエローになった俺を見るかも知れないって事だ。

(アンチコカトイエロ―になられたらどうしよう?今日はヒーローらしく、戦うか?)

 まあ、そんなタイミング良く会場ここに来るなんてないと思う。


 ◇

 お腹空いた。段ボールの中にまで、肉の美味しそうな匂いが届いてくる。

 ブラックスティンクは、沢山の差し入れをもらっている。羨ましいぞ、ちくしょう。

(俺が段ボール《ここ》にいるのは、一部の人しか知らないんだよな)

 川本さんに腹減ったってライソしようかな。

 そう思っていたら、誰かが近づいてきた。


「エスパルオンさんから差し入れです」

 声の主はそう言うと、隙間から何かを差し入れてくれた。流石は川本ブラックスティンクさん、分ってらっしゃる。

 変身を解いて、差し入れを待つ……え?まじで。

 差し入れを見て、俺は一瞬固まった。それは真っ赤なスープのラーメンと蜂蜜がたっぷり入った牛乳。

 そう川本さんが差し入れてくれたのは激辛ラーメンと蜂蜜ミルク。

(なぜ肉フェスで激辛ラーメン?俺、どっちかと言うと苦手な方なんだけど!)

 でも予知能力を持っている川本さんが差し入れてくれたのなら、何か訳があると思うし。

 何より空腹が原因で依頼失敗はダサい。

 俺は覚悟を決めて、激辛ラーメンに口をつけた。

(辛っ!てか、口が痛い)

 でも、声は出せない。そして今ハザーズが出たらという焦りが俺を追い詰める。

 俺はヒーローだ。激辛ラーメンなんかに負けてたまるか!蜂蜜ミルクの手を借りながら食べ進めていく。

 なんとか食べ終えた頃には汗だくになっていた……当たり前だけど、段ボールって通気性悪いよね。

 もう少しでコンサートが始まるので、変身しておく……汗を拭くタオルとお水が欲しいです。


「健也、買い過ぎ。太るよ」

 ……戦闘態勢で待っていたら、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

(鷹空さんに会いた過ぎて幻聴?)

 流れ的には幻聴の方が有難いんだけど。


「練習試合で動いたから、問題ないんだよ」

 覗き窓から見て見ると、両手に屋台の食べ物を抱えてる健也がいた。その隣を鷹空さんが、嬉しそうな顔で歩いている。

(……悔しいけど、お似合いだよな。後ろのいるのはバスケ部の人達と、相手校の人達か)

 皆、楽しそうだなー。部活終わりにお祭りか……青春漫喫しているよね。

 俺なんて段ボールの中で、戦い待ちなんだぜ。


「もう少しで中秋なかあき小夜さよのコンサートだ」

 誰かが嬉しそうに呟く。そう、中秋小夜、それがアイドルの名前だ。

 でも、俺にとって大事なのはアイドルのではなく、コンサートが始まるって事だけ。

(……来たな)

 外がざわつき始める。同時に大声のクレームが始まった。

「動物を食べるお祭りなんて信じられない」

「牛も豚も生きているんだぞ」

「命を大切にして」

 ナーチャーアニマルは第五駐車場に陣取り大声で叫ぶ。

(やっぱり、素人さんは扱いやすくていいや。なんで、都合よく空きスペースがあるって疑問に思わないんだろうね)

 第五駐車場に駐車している車は、なぜか全て端に停まっている。だから、会場の真ん前に大騒ぎ出来る空きスペースが出来ているのだ。

 ナーチャーアニマルは、ご丁寧に巨大な看板まで持ち込んでいる。

(一枚だけ向きが変だな……そういう事か)

 分かり易くて助かります。


「ここは皆が楽しんでいるお祭りです。邪魔をしないで下さい」

 ブラックスティングがナーチャーアニマルの前に立ちはだかった。こちらも俺の思惑通りに動いてくれている。

(ヒーローの注意で治まってくれたら、有難いんだけどな)

 まず無理だと思う。別にブラックスティングが実力不足って訳じゃない。

 むしろナーチャーアニマルは、ブラックスティングの注意を待っていたと思う。


「ヒーローの癖に、俺等に暴力を振るうのか?」

「お前も肉を食っているんだろ!動物に謝れ」

「罪のないハザーズもいたんじゃないか?ハザーズも生きているんだぞ」

 予想通りナーチャーアニマルは好き勝手にブラックスティングを責め始めた。

 今の彼等は動物保護に興味なんてない。興味があるのは、ナーチャーアニマルの知名度だけ。正確に言うとナーチャーアニマルを利用した金儲けだ。

 ナーチャーアニマルを隠れ蓑にした犯罪行為。過激な活動をすればするほど、入って来る支援金。


「違います。俺達が戦うのは、罪を犯したハザーズだけです」

 そう、討伐指令が下るのは、罪を犯したハザーズのみ。しかも、基本的に浄化が優先される。

 でも、ブラックスティングの訴えは、彼等の耳に届かないと思う。


「……それじゃ、私達がハザーズに襲われたら助けてくれるんですよね?」

 ナーチャーアニマルの一人が真剣な目で問い掛ける。でも、その目はどこか挑発的だ。


「当たり前です。俺はヒーローなんですよ」

 ブラックスティングも何かを感じたのだろう。ムッとした口調で反論した。

 それを見てニヤリと笑うナーチャーアニマルの男。


「吾郎、来るぞ。焦らず、タイミングを見て出て行け」

 川本さんが忠告した次の瞬間、ナーチャーアニマルが設置した看板を吹き飛ばして何かが現れた。

 それは二本足で歩く巨大な猪。プロレスラーみたいな体格で、身長は2M位ある。


「ヒーローはいるか!?俺と喧嘩しようぜ」

 白々しい。いるの分かっていた癖に。


「吾郎。槍は持っていないけど、あいつがランスボアだ。差し入れ上手く使えよ」

 川本さん。多分、そうだと思っていました。ランスボアは槍を持っていなけど、鎧を着ている。今の所、アーマーボアだ。

 それと川本さん蜂蜜ミルクをどう使えと?


 今回の目標

目標一・来場者及びイベント関係者の安全確保。今日のイベントは家族連れも多い。誰にも指一本触れさせる気はない。


目標二・イベントを守る。すぐに解決すれば、そのまま続行出来る筈。


目標三・ランスボアの討伐。ここで倒しておかないと、また被害が出る。何より、あいつは俺達ヒーローに喧嘩を売った。


目標四・ブラックスティングさんに経験を積ませつつ、安全も確保する。心意気は立派だけど、ヒーローとしてやっていくには場数がたりませぬ。


目標五・出来るだけ流血は避ける。肉フェスでイノシシを血塗れるにするのはアウトだと思う。


 今回の希望目標・鷹空さんと健也に嫌われない事。正体がバレていないとはいえ、好きな子と親友に軽蔑されるのはきつい。


(ブラックスティングが逃げてくれたら良いんだけど……流石に無理か)

 ブラックスティングの背後には、コンサートを見に来た来場客が大勢いる。例のブラックスティング推しの女子大生は熱い視線でブラックスティングを見ているし。

 怖くてもヒーローとして、引けない場面だ。

 でも、ブラックスティングじゃランスボアに勝てない。それなら俺が行くしかない。

 俺も怖いし、ナーチャーアニマルのブーイングも嫌だ。

 何より鷹空さんや健也がアンチコカトイエローになったら、絶対に落ち込む……それでも行くしかない。俺はヒーローなんだから。

感想、星で作者のやる気が増えます(ᐢ◍•㉦•◍ᐢ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ