**第八章: 未来への約束**
透は明日香の告白を聞いた後、言葉を失ったまま歩き続けた。彼女がずっとその短い寿命を受け入れて生きていたこと、そしてそれでも前向きに今を大切にしようとしていることが、透の心に重くのしかかっていた。これまで、寿命が見える力を持つことは呪いだと思っていた透だったが、今、この瞬間ほどその能力を無力に感じたことはなかった。
「橘さん…俺、何かできることがあるなら、何でもするよ。」透は、ふいに思わずそう口にしていた。
明日香は驚いたように彼を見つめたが、すぐにその顔に柔らかな微笑みが広がった。
「ありがとう。でも、桐島くんが一緒にいてくれるだけで十分だよ。」
透はその言葉に少し戸惑った。自分が一緒にいるだけで彼女を救えるのだろうか。彼女に残された時間は少ないのに、何かもっとできることがあるはずだと焦りが募る。しかし、彼女の静かな微笑みはそれをすべて受け入れているかのようで、透はそれ以上強く言えなかった。
「じゃあ、約束してほしいんだ。」
明日香はふいに立ち止まり、透を見つめた。彼女の瞳は真剣で、その輝きに透は心を奪われた。
「最後の時まで、私がここにいる間、ずっと笑っていてほしい。それが私にとって一番嬉しいことだから。」
その言葉に透は胸が詰まる思いだった。彼女は、残された時間を悲しみや不安ではなく、笑顔で終えたいと言っている。その強さに触れ、透はもう何も言えなかった。ただ、彼女の願いを叶えたいと思った。
「約束するよ。俺は、ずっと君のそばにいる。そして、君が笑えるように全力で頑張る。」
透は明日香の手を取り、固く誓った。その瞬間、透の中にあった不安や焦りは少しずつ消え去り、代わりに彼女との「今」を大切にしようという強い決意が生まれていった。未来がどうなろうとも、透は彼女のために全力を尽くすと心に決めたのだ。
夕暮れの中、透と明日香はしばらく黙って並んで歩いた。言葉は少なくても、二人の間には深い絆が確かに生まれていた。そして、その絆は、残された時間を照らす希望の光となっていた。