**第三章: 距離の取り方**
透はそれ以来、意識的に明日香との距離を保とうとした。彼女が教室の中で誰かと話しているときも、彼女が窓の外を眺めているときも、できるだけ目を合わせないようにしていた。彼女の寿命があまりに短いことを知ってしまった以上、深く関わるのは避けるべきだと感じていた。もし彼女に親しくなりすぎてしまえば、彼女が去るときに感じる喪失感が、耐えられないほどのものになるに違いない。
だが、運命は透に容赦なかった。ある昼休み、彼が一人で読書をしていた図書館で、明日香が偶然にも隣の席に座ってきたのだ。彼女は透に気づくと、静かに微笑んで声をかけてきた。
「桐島くん、だよね?」
その瞬間、透は心の中で「しまった」と思った。彼女と話してはいけない。できるだけ関わらないようにしなければ、と頭の中で何度も唱えたが、彼女の穏やかな笑顔を前にして、その決意は揺らいでしまった。透は内心の葛藤を抑えながら、なるべく冷静に答えた。
「ああ、そうだよ。橘さん、だよね?」
「うん。ここ、よく来るの?」
「まあ…読書は好きだから。」
それだけの短いやり取りだったはずなのに、透は自分の胸が高鳴っているのを感じた。彼女との会話が、何か特別なものに感じられてしまう。気づけば、透は彼女の言葉に耳を傾けることに必死になっていた。そして、その一瞬が、透の中で何かを変え始めていた。




