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**第一章: 運命の風**
春の風が桐島透の髪をやさしく揺らし、満開の桜の花びらが舞い散っていた。高校三年生の春、透にとって最後の一年が始まったのだ。透は周囲から見れば、ごく普通の高校生だ。成績はそこそこ、友達もいるし、部活にも顔を出す。けれど、透の心には誰にも言えない秘密があった。それは、人の「寿命」が見えるということ。幼い頃から透は、この力に苦しんできた。親しい友人や家族の未来を知ってしまうこと、それは彼にとって重い負担だった。人の目を見てしまうと、その人がどれくらいの命を持っているのかが分かるのだ。だから、透はあまり深く人と関わらないようにしていた。それが、彼の平穏を守る唯一の方法だった。しかし、この春、透の前に現れるひとりの少女が、彼の世界を大きく揺るがすことになる。転校生の橘明日香――彼女との出会いが、透の運命を変えていくのだった。