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竜とドラゴン

青く澄んだ湖を2人で渡り切り西の城の部屋に入ると胡妃は用意されていた衣装を侍女に着せられた。


それは泰斉東国の袍とは全く違った衣装であった。


輝きを抑えたシルバーの生地のドレスで腰から下はフワリとしたフレアタイプで動きやすいものであった。

また黒い髪はツインテールに結ばれ花の飾りのリボンが付けられた。


何もかもが泰斉東国と違っていたのである。


アルフレッドもまた濡れた騎士の衣装を脱ぎ、黒地の燕尾服に着替えると愛らしい姿をした胡妃を目に笑みを浮かべると手を差し伸べた。

「それでは我が国へ」


胡妃はキュッと唇を引き締めると大きく頷き

「お願いする」

とアルフレッドの手を握りしめた。


扉の向こうには大理石で作られた廊下が伸び、2人はそこを通って外へ出ると巨大な翼の生えた生き物がドーンと待ち構えっていた。


彼女から見たそれは爬虫類のトカゲが翼を生やして巨大化した生き物に見えた。


胡妃はその生き物を見ると

「なんだこれは?」

トカゲの仲間か??

「いやだが大きさが…それより翼もある」

とカッと目を見開いて呟いた。


ジーと見ている彼女に苦笑しながらアルフレッドはそっと彼女の腰を抱くと

「ドラゴンだ」

そちらの言葉で言えば

「翼竜だな」

と告げた。

が、胡妃は思わず口をがばっと開けると

「竜だと!?」

と言い

「違う!何を言っている」

それは大間違いだぞ

「似ているのは鱗と…顔くらいで他は全く違う!」

と答えた。


アルフレッドは「え?」と驚きながらドラゴンに乗り、手綱を引いて大空へと舞い上がった。


胡妃は西の大陸で言うところのモーニングドレスを身に纏いながら舞い上がった風でふわりと捲り上がる裾を慌てて膝で抑えた。


アルフレッドは胡妃が落ちないように腰を抱きながら空を見上げ

「胡妃殿、ドラゴンから見る風景はいかがですか?」

と聞いた。


胡妃はスカートの裾を気にしながらもキョロキョロと見回し、やがて、視線を落して眼下に広がる青く輝く海を目にすると

「おおお」

と声を零した。

「凄く美しい…」

この様に空から海を見るなど初めてだ


泰斉東国にはドラゴンのように空を駆ける生き物はいない。

竜は空を駆けると言うが人が乗るものではない。


それに胡妃は墨絵などで竜を見たことがあるが本物を見たことは一度もない。

伝承として色々聞いて知っているがそれだけある。


なので空を飛ぶなど初めてである。

驚きである。


だが。

彼女は凛と

「これはドラゴンであって竜ではない」

と告げた。


アルフレッドは手綱を手に

「なるほど」

では竜とはどういう生き物なんです?

「我々はドラゴン=竜と教わってきたのでそうだと思っていたが」

と答えた。


胡妃は空を見上げながら

「竜は生き物ではない」

竜は神だ

「水…つまり流れを司る神だ」

と告げた。

そして、ドラゴンの顔を見ると

「確かに顔は似ておるが」

とふむっと腕を組んで呟いた。


アルフレッドは驚いたり怒ったり表情がころころと変わる百面相をする胡妃にクスクス笑いながら

「そうか」

じゃあ国に戻ったら見せてもらってもいいかな?

と聞いた。


胡妃はカッと目を見開くと

「何を言っている!」

竜が顕現すると大雨になると言われている

「大惨事になるぞ」

それにわらわも本物の竜をこれまで一度も見たことはない

と告げた。


アルフレッドは今日既に何度か驚いた表情をまた浮かべて

「…大惨事…ですか…」

と呟いた。


胡妃は深く頷き

「ただ絵で良ければ描くぞ」

絵ならば竜は沢山見た

とにっこり笑った。


アルフレッドは微笑むと

「じゃあ、是非描いてもらおう」

と告げた。

「楽しみにしている」


胡妃は笑むと

「任せておくがいい」

と答えた。


それは他愛のない遣り取りであった。

しかし、この言葉に秘められた意味の深さを胡妃もアルフレッドも気付かないでいたのである。


竜とドラゴン。


西の大陸でも。

東の大陸でも。

同一視されていたのだが…その実態は全く違うモノであった。


海を隔てた二つの大陸。

海が隔てていたのは価値観や文化文明だけではなく。


そこに息衝く全てが実は違っていたのである。

その事に気付くのは少し先のことであった。

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