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9話:残された想い

 リアに勧められてその英雄譚が書かれた本を読んだことがある。

 内容は王道で孤児の少年が冒険者として成り上り、世界中を冒険し、功績を認められ下級貴族になる。


 属する国の王女に見初められ恋に落ち、周囲の反対を押し切り、駆け落ちして世界に飛び出していく。

 リアはその主人公と俺が同じだと言ったが……。


「お嬢さんは死んだかね」


 リアを抱いたまま呆けている俺に、灰から生れ出たヴィルダンテが声をかけてきた。

 ヴィルダンテの全身にはいつの間にか皮膚の代わりに、炎のように燃え盛る血がまとわりついている。


 血の炎を体に纏った、火達磨がそこにいた。


「よくぞ私をここまで追い詰めた。実に十年振りだよ。賞賛に値する。さあ、決戦の第二幕を始めようじゃないか」


「……」


「我がお嬢さんを殺したのだ。復讐したいとは思わないのかね」

 

「………復讐して、何になる。リアはもういない」


 腕の中のリアが二度と目覚めることはないと思うと、戦闘での負荷とは比べ物にならない虚脱感に支配される。

 綺麗な碧眼が俺を見つめることもなければ、可憐な声音が俺の名を呼ぶこともない。

 心にぽっかりと大きな穴が開き、胸が締め付けれられた。


 俺のせいでリアが死んだ。

 やはり間違っていた。

 ここに来るべきではなかった。


 復讐心など湧かない。

 何故なら俺とリアは自らの意志でここに来たからだ。


 憎むべきはヴィルダンテではなく、愚かな選択をした俺自身だ。

 もし今から過去に戻れるのならば、過去の俺を殺してでも迷宮に行かせないようにするだろう。

 

 ヴィルダンテが盛大に溜息を吐く。

 俺の様子を見て酷くがっかりしていた。


「そうか、君はそういう考えの持ち主か。折角久しぶりに全力で戦えると思ったのに、まったくもって興ざめだ」


 背後の扉が音を立てて開く。


「お嬢さんの命に免じて見逃してやろう。亡骸を連れて疾く立ち去るがよい。そして惨めに生きるも、お嬢さんの後を追うも好きにしたまえ」


 俺への興味を失ったヴィルダンテが背中を向けて玉座に戻っていく。

 俺は敵にまで軽蔑されていた。


 だがそれでいいのかもしれない。

 見逃してくれるというのであれば、リアの体を父親の元へ返すことができる。

 もう勝敗などどうでもいいし、ヴィルダンテと戦おうとしてこのチャンスを逃すわけにはいかない。


 リアを返したあとは、罪を償うつもりだ。

 なのに……。


 リアを抱きかかえて扉へ向かう。

 すると、失われたはずのぬくもりがまだあることに気が付いた。

 まるで俺を励ますかのように暖かい。


 やめろ、やめてくれ。

 俺はそんなに強い人間じゃない。

 リアの居ない世界では生きていけないんだ。


 なのに、歩みを進める度に優しくて、暖かくて、力強い黄金の輝きが、挫けた俺を励まし続けてくる。

 次第に体に力が戻り、穴の開いた心が満たされていくようだった。

 そうなるともう堪え切れなくなって、扉の前で立ち止まってしまう。


「ああ、もう。わかった! わかったよ、リア」


 リアを絨毯の上に静かに寝かせると、溢れる涙を強引に拭う。

 落ちていた剣を拾い振り向いた。

 玉座からつまらなそうにこちらを見ていたヴィルダンテが驚いている。


「おや、心変わりしたのかね」


「ああ……リアが居るうちは諦めるわけにはいかないからな」


 そうだとも。

 死んでも尚、リアは俺を信じ続けてくれている。

 その想いを、想いだけは踏みにじるわけにはいかない。


 俺の体にリアが……リアの加護 〈寄り添う心(カドルマインド)〉が残っているうちに、俺はリアの英雄なのだと証明してみせよう。


「それは重畳。さあ、その身に宿る力を我に見せてみたまえ」


 ヴィルダンテが炎の面に浮かぶ両目を爛と輝かせると、背中から炎の翼が生える。

 対する俺は黄金の輝きを全身に纏わせ剣を構えた。


 リア、今度こそ君の英雄になってみせる。

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