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7話:不可逆の過ち

 〈寄り添う心(カドルマインド)〉で強化された〈孤独の王(ローンロード)〉による一撃が、ヴィルダンテの胴体を切断した。

 俺の脳天を貫こうとしていたサーベルは、体の支えが失われたため逸れて頬を抉る。


「があああああああ!」


 心臓を破壊され、胴体を切断されても尚、ボロボロの翼を羽ばたかせて上体を保っているヴィルダンテがサーベルを持ち上げる。


「ああああああああ!」


 迷宮の主に引導を渡すべく、俺は頬の痛みも忘れて無我夢中で剣を振るった。

 黄金の太刀筋はサーベルを根元からへし折り、続けてヴィルダンテの首を斬り飛ばす。


 鬼の形相を浮かべたままのヴィルダンテの首が地面を転がり、少し遅れて上半身と下半身もその場に崩れ落ちた。

 ヴィルダンテを形成していたものは燃え上がり、一瞬で灰になった。


 緩慢な世界が終わり、時が正常に動き出す。

 途端に自分の心臓の鼓動が耳元で激しく鳴っているのを自覚し、酸欠になった脳が肺に呼吸を要求した。


 肩で息をしながらリアの元に行こうと振り向いて、数歩進んだところで剣が手から滑り落ちる。

 視界がぼやけ前のめりに倒れそうになった俺を、柔らかい何かが優しく抱き止めた。


「アルト!」


 愛しい声が間近で聞こえて、穴の開いた頬から痛みが引いていく。

 その後には暖かい手の感触が俺の頬を撫でていた。


「リア……やった、俺はやったぞ……!」


「大丈夫ですか? 頬以外に怪我はない?」


 次第に呼吸が落ち着き、ぼやけた視界が戻ってくると、心配そうにこちらを見つめるリアの顔があった。

 そして俺が無事だと分かると、涙を流しながら微笑んだ。


 ああ、これで俺は貴族になれる……やっとリアに相応しい男になれるんだ。


 俺がこの迷宮を初めて踏破した。

 未踏破の迷宮は財宝と出現する魔物の素材を餌に冒険者を誘き寄せている。


 迷宮が踏破されるとダンジョンコアが現れ、迷宮の主に代わって踏破者が迷宮の管理権を得ることができた。

 そして迷宮が枯れるまでは安全に財宝と魔物を供給できるようになるのだが、その利益は未踏破状態の迷宮を遥かに上回る。


 その全てを国に献上すれば、侯爵令嬢と釣り合う爵位を得られる程に。

 安堵で体に力が入らないがまだやることは残っている。


「よし、ダンジョンコアを……」



 ―――ここでようやく違和感に気づいた。



 迷宮の主を倒したはずなのに、リアの後ろに見える入口の扉が解放されていないし、ダンジョンコアが現れる様子もない。

 弛緩していた体が一瞬で強張る。


 は? いやいや、あいつは灰になったじゃあないか。

 あれで倒していないだなんて、そんなふざけた話があるものか。


 ただ信じたくない、その一心で振り返ろうと……リアが驚きの表情を浮かべて俺の腕を引っ張った。

 二人の立ち位置が入れ替わった瞬間、衝撃を受けて水平に弾き飛ばされる。


 壁に激突して肺の空気が一気に押し出されたが、腕の中のリアは抱きしめて離さなかった。

 衝撃の発生先を見るとヴィルダンテの灰が残ったままだったが、灰の中心から真っ赤な腕が伸びていた。


 筋骨隆々な腕に皮膚は無く筋線維が剥き出しで、太い血管が脈打っている。

 まるで灰の中から出てこようとしているみたいだった。


 どうやらあれに殴られたらしい。

 そう考えるのと、俺の掌が誰かの血で濡れているのに気付いたのは同時だった。


「……え? リア?」


 俺の腕の中でぐったりとして動かないリアを見る。

 色白な顔がいつも以上に白い。


 視線を下げると彼女の着る白い法衣の胸元は紅く染まり、その範囲は広がり続けている。

 リアの腹部はあの皮膚の無い腕に殴り抉られ、拳ほどの大きさの穴が開いていた。

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