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4話:死地を越えて

「遥かなる大地をしろしめす女神よ 傷付き衰微(すいび)する者に 旺盛(おうせい)の癒しを」


 俺が刺されてもリアは冷静だった。


 可憐な声が紡ぐ詠唱により構成が展開される。

 そこに魔力を注ぎ込むことにより、魔素を媒介として事象が発現した。


 リアの神聖魔術 《治癒(ヒーリング)》により俺の体が淡い薄緑色に発光する。

 すると右胸に穿たれた穴は瞬時に塞がり、俺を戦闘続行可能な状態に戻した。


 しかし侯爵家から下賜された頑丈な鎧を易々と貫くとは。

 これが左胸だったら心臓を破壊され即死し、勝負は決まっていただろう。


「遥かなる大地をしろしめす女神よ (そび)える御難(ごなん)(あらが)う者へ 薄倖(はっこう)を払う力を」


 リアが杖を掲げ、二つ目の魔術を唱える。

 《治癒》とはまた少し違う青白い光を身に纏わせながら、俺はヴィルダンテに肉迫する。


 袈裟斬りにしようとした剣に再びサーベルが絡みつくが、先程のように俺の体勢が崩れることはない。


「ぬうっ」


 押し込まれそうになったヴィルダンテが、蝙蝠の翼を羽ばたかせて飛び退く。

 俺の剣が掠り、頬には一筋の傷が生まれ血が流れていた。


「なるほど。中々に強力な《祝福(ブレッシング)》である。そちらのお嬢さんは支援(バフ)要員というわけか。だがその程度では我を追い詰めるには至らん。疲れを知らぬ不死(イモータル)相手に持久戦は悪手ではないかね? 定命の者(モータル)たちよ」


 確かにリアの支援を加えても、迷宮の主たるヴィルダンテを倒すには程遠い。

 だが今はそれでいい。

 俺は常に全力で戦うだけだ。


「男を嬲る趣味はないのでね。さっさと決着を付けさせてもらおう」


 ヴィルダンテが戦闘を長引かせている原因であるリアの方へと向く。

 赤い眼が爛と輝いたのを見て、リアが怯えるように後ずさった。


「させるか!」


 俺が叫びながら二人の間に割って入ると、剣とサーベルが激しくぶつかり合い火花が散る。

 妙に頑丈なサーベルが折れることはなかったが、ヴィルダンテの体を押しやることには成功。


 俺たちとリアの距離は十メートルほどに広がった。

 幸いにも玉座の間は広いので、このまま押し続けよう。


「うおおおおお!」


 俺は今まで以上に、息を吸う余裕もないくらいの速度で連撃を叩き込み続けた。

 速度だけでなく威力も乗せた連撃にヴィルダンテも防戦一方となるが、その表情に焦りは見えない。


 こんな全力攻撃がいつまでも続くわけがないと理解しているのだ。

 定命の者だからこそ筋肉が疲労すれば威力は落ちるし、息も長くは続かない。


 じりじりと下がりながら連撃を受け流し、俺が疲れ果てるのを待っていた。


 ……それでいい、俺も、いや俺たちも持久戦をするつもりはない。

 俺の体力もそろそろ限界に近付いた時、リアとの距離が二十メートル以上離れた。


 そう、二十メートルだ。

 最後の一人が範囲内から居なくなったことにより、俺の持つ加護 〈孤独の王〉の強さがもう一段階上がる。


 体の奥底から加護の力が湧き上がってきた。

 限界を迎え両腕の筋肉が悲鳴を上げるのとは裏腹に、振るう剣の威力は増して無数の銀刃となりヴィルダンテへと襲い掛かる。


「ここに来て更に加速するだと!?」


 さすがのヴィルダンテも驚き赤い眼を見開いている。

 徐々に防御は追い付かなくなり、ついに斬り上げるようにして放った銀刃がサーベルを大きく弾いた。


 がら空きになったヴィルダンテの首筋目掛けて、返す刀で剣を振り下ろす。

 肉を切り裂く確かな手応えはあったが、それは首にしては真っ黒な皮膚をしていた。


 ヴィルダンテは咄嗟に背中の蝙蝠の翼を広げて首を庇ったのだ。

 翼は深く斬り裂いたが、肝心の首には刃が届いていない。

 今度は剣を振り切った姿勢の俺が隙を晒してしまう。


「惜しかったな」


 勝利を確信したヴィルダンテが笑いながらサーベルを繰り出す。

 鋭い先端が眼前に迫ると、時の流れが緩慢になったような錯覚に陥る。


 まるでもうすぐ死ぬかのような境地だが……俺はまだ諦めていない。

 俺の加護は孤独かもしれないが、決してひとりで戦っているわけではないからだ。


「アルト!」


 緩慢な世界でも俺を呼ぶ愛しい声がはっきりと聞こえた。

 同時に《治癒》とも《祝福》とも違う、黄金の輝きで全身が包まれる。


 それはとても優しくて、暖かくて、力強い。

 溢れる力に逆らわず剣を動かす。


「はあああああっ!」


 緩慢な世界で振るった剣は、俺の脳天にサーベルが突き刺さるよりも早く、ヴィルダンテの右脇腹から侵入する。

 そして肺と心臓を破壊すると、左鎖骨付近から抜けて胴体を切断した。

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