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3話:期待外れ

 侯爵家から下賜された魔銀(ミスリル)製の剣を振り下ろす。

 銀の刃が煌き、空間に三日月のような軌跡を残した。


 この剣には地母神の祝福が施されているため、対不死族(アンデッド)に絶大な効果がある。

 斬り付ければ再生を阻害するし、低級の不死族なら存在そのものを滅することもできるが……。


「ふむ、冒険者らしい品のない乱暴な剣筋。乙女を守る騎士(ナイト)の剣としては相応しくないな。我を見習いたまえ」


 吸血鬼の王ヴィルダンテはいつの間にか手にした細身のサーベルで俺の攻撃を軽々と弾いた。

 確かにヴィルダンテのサーベル捌きは美しい。


 フェンシングのように半歩引き、胸元でサーベルを掲げるように構え、俺が放つ銀刃をいなしては構え直すのを繰り返す。

 俺がリアに相応しくないという現実を言い当てられたような気がして心がざわつく。


「うおおおおおおお!」


 心に生まれた迷いを叫んで吹き飛ばし、俺は攻撃し続ける。


「だが実力は確かであると認めようじゃないか。剣速も威力も、過去の挑戦者たちの中でも一、二を争う。一角(ひとかど)の剣士を三、四人まとめて相手にしているようだ。さぞかし特別な加護に恵まれているのであろう。たった二人で我に挑む理由もそこにあるのかね?」


 事前に聞いてはいたが本当にお喋りな奴だ。

 だがそれでいて隙は無く、冷静にこちらを分析してくる。


 返事をするつもりはないが、確かに俺の加護は特別だった。


 加護というはこの世界を創造した神から人々が生まれた時に与えられる不思議な力で、その内容と強さは人それぞれだ。

 そして一度与えられた力は生涯変わることがない。


 加護の内容としては剣や槍、火魔術といった特定の武器や属性魔術の技能や威力が上昇する、受動的なものが一般的だ。

 その中でも特別に強い加護に対しては〈剣聖(ソードマスター)〉や〈槍衾(ファランクス)〉、〈紅蓮魔術師(パイロマンサー)〉といった固有名詞(ネームド)で呼ばれるようになる。


 俺の加護は〈孤独の王(ローンロード)〉という。

 恥ずかしい呼び名な上に扱いづらい加護であったが、固有名詞が付く程には強い。


 孤独と名の付いている通り、俺の周りに人がいなければいないほど戦闘力が強まるのだ。

 具体的には半径二十メートル以内の生きている人間がカウントされ、そこには森人(エルフ)狼獣人(ガルゥ)のような亜人も含まれる。


 生きている人間の定義は心臓が動いているかいないかなので、その副作用(サイドエフェクト)で加護の強弱から人の生死の判別もできた。


 加護の強弱については相対的な評価になるが、範囲内に人が四人いる状態で並の冒険者程度の戦闘力を発揮できる。

 そこから一人減る毎に加護の力は増加するので、ヴィルダンテの「一角の剣士を三、四人まとめて相手にしているようだ」という評価は間違っていない。


 周囲に人がいると弱くなるという加護の性質上、商隊の護衛といった多くの人が関わる仕事は不向きだった。

 なので俺は新人冒険者の時から、他人との接触が少ない迷宮探索を主にして活動している。


 迷宮は財宝で人間を誘き寄せ、魔物をけしかけて殺し、その養分を啜るという仕組みで成り立っていた。

 そのため大人数で攻め込まれてあっさり攻略されないよう、迷宮への侵入には人数制限がかかっている場合が多い。


 ヴィルダンテが言っていた定員というのが正にそれだ。

 先程勝手に開いた黒塗りの両扉は、最下層に降り立った人間が五名以下でないと開かないようになっていた。


 たとえ人数制限があっても、最大人数だと俺の加護が半減してしまうのが辛いところだ。

 俺とリアの二人、少数精鋭で挑んだ理由は加護の力を十全に発揮するためだが……。


「だとしても弱い。足りない。その程度……過去の挑戦者と同じくらいでは、我に届かないと思わないのかね」


 俺の攻撃をあしらい続けながら、迷宮の主は落胆の溜息を吐く。

 ヴィルダンテが俺の攻撃をサーベルで防ぐばかりで一切反撃してこなかったのは、こちらの実力を見極めるためだったようだ。


 それが終わった今、ヴィルダンテの動きに変化が生じる。

 右側面からの一撃を左へ受け流す際、奴のサーベルが俺の剣に絡みついた。


 引き戻そうとしてもサーベルと剣が磁石のようにくっつき合い離れない。

 そのまま引っ張られ俺が体勢を崩した瞬間、ようやくサーベルが剣から離れる。


 そして手首の返しで翻ったサーベルの切先が、無防備になった俺の胸元に吸い込まれた。

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