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帰宅テスト

作者: 砂虎

※絶対に1ページ目から読んで下さい。ルールを守らなければ命が失われます。



こんにちは、会ったこともないあなた。

最初に大切な確認を行います。

あなたは帰宅途中に意識を失い、気がつくと窓のない施錠された部屋の一室で目を覚ましましたか?

部屋の壁には血で描かれた不気味な怪物の絵が塗りたくられていますか?

私はこの本をその部屋のベッドの下に隠しました。

もしもあなたが別の場所でこの本を見つけたならば本は読まずそのまま閉じて下さい。

そしてこの本を見つけたことを忘れ決して誰にも言わずに幸せな人生を送って下さい。


もしもあなたが私が言った通りの場所にいてこの本を見つけたならば

心を落ち着けて私の言うことを聞きルールについて知って下さい。

ルールを守らなければ命が失われます。今はまだ手の込んだ冗談のように感じているかもしれませんがこれは事実です。


最初のルール、この本は1ページ目から順番に私の指示通りに読んで下さい。

さもなくば命が失われます。

これがテレビゲームならばわざと間違った選択肢を選んでどうなるか試してみるのもいいでしょう。

けれどこれは現実で、あなたは北区と呼ばれている場所に監禁されています。

馬鹿な真似をして人命を無駄にしないで下さい。

無事に生き残り家族の待つ家に帰りたければ北区の人々の用意したテストに合格するしかないのです。


北区の人々とは何者なのか?どうして自分が選ばれたのか?この本を書いた私が誰なのか?

あなたの頭はたくさんの疑問で混乱しているでしょう。

いくつかの点については私も説明することが出来ますが今はテストに集中して下さい。

何度も繰り返しますがこのテストには人の命がかかっています。


最初のテストは今いる部屋からの脱出です。

扉の前にキーパッドがありますね?

既に確認していてどのボタンを押しても反応しないことを不安に思っているかもしれませんが安心して下さい。

テストが始まれば電源が入りキー入力を受け付けるようになります。

まさかとは思いますがキーパッドを壊してはいませんね?

ルール2、施設の中にいる間は不用意に機材や備品を壊すのはやめて下さい。

私は北区の人々があなたのために壊したキーパッドを修理してくれるとは思いません。


話を続けます。あなたが目覚めてから4時間が経過すると照明が赤く点滅を始めます。

これが最初のテストの合図です。モニターに複雑な計算式と制限時間が表示されるでしょう。

数学オリンピックに出場するような優秀な学生でもない限り

制限時間内に正攻法で問題を解くことは不可能な難易度です。

けれど大丈夫です。私は答えを知っています。正解は「5050」です。

制限時間内にキーパッドに数字を入力し「E」を押せば扉が開くのでこの本を持って脱出して下さい。

入力ミスした場合は「C」のボタンを押せば入力がリセットされます。

もしもあなたが数学がちょっと得意であった場合、本当に正解が5050であるか疑うかもしれません。

この計算式の答えがそんなに綺麗な数字になるのかと。

私を信用出来ないのであれば別の方法もあります。

テスト開始と同時に壁に血で描かれた怪物の口の部分が開くのでそこに手を入れて下さい。

あなたの指1本と引き換えに壁には正解の数字である5050が浮かび上がります。

私を疑うのはこの最初のテストで最後であって欲しいと願っています。

見知らぬ部屋で目覚め訳の分からぬままテストに参加させられる不安は私にもよく分かりますが

何の考えもなく私の指示を無視したところでこの先のテストを突破するのは難しいでしょう。


部屋を脱出したら食堂へ向かって下さい。

食堂以外の扉は施錠され入れないようになっているので道なりに進めば場所は分かるはずです。

食堂へついたら次のページを開いて下さい。



食堂へ着きましたか?

もし何事もなく食堂に到着したのであれば私は嬉しく思います。

もしも食堂へつく前にこのページ、それ以降のページを開いていたならば謝罪します。

あなたがページを開こうとした時、全身を激痛が襲ったはずです。

私は嘘をつきません。正直に告白します。そうなるように設定したのは私です。

より正確に語るとあなたが私の指示を無視してページをめくろうとした際の最初のペナルティを

私が北区の人々から与えられた限られた自由の中から選択したのです。

なぜそんなことをしたのか?実は選択肢の中にはペナルティを与えないというものもありました。

しかし私はあえて激痛によってあなたを苦しめることを選択しました。

なぜか。もちろん理由はあります、命を守るためです。

私には「最初のペルナティ」を決める権利が与えられました。

意味が分かりますか、次にあなたが指示を無視して先のページを開いてもその際に何が起きるかを決める権利は私にはないのです。

あなたは私の指示を守ったかもしれないし、守らなかったかもしれない。

それはこれを書いている今の私には分かりません。

けれどどちらの選択をしたにせよ私は繰り返しあなたに懇願します。

お願いですからページをめくる順番は私がこの本で指示した通りにして下さい。

これはテレビのどっきり企画などではありません。

もしもあなたが選択を間違えればあなたは死にます。



それでは第二のテストの攻略法についてお教えします。

食堂のテーブルには和洋中の様々な料理が置かれていますね。

その中から一品を選んで完食すればテストは合格となり次のテスト会場への扉が開きます。

既に察しがついていると思いますが料理の中には古今東西の様々な薬品が入っています。

ビーフシチューを選び「覚悟をもって」完食して下さい。

覚悟をもってです。そうこのシチューは安全ではありません、毒入りです。

食べ始めれば凄まじい苦しみがあなたを襲うでしょう。

しかし安心して下さい、この毒はあなたを死に至らしめることはありません。

きっとあなたは毒入りでない食事を教えろと思うでしょう。

しかし私は「無害な料理もある」ことは知っていてもそれがどれかは分からないのです。

私が知っている情報は以下の3つです。


1.料理の中には完全に無害なものもあります

2.料理の中には即座に命を奪う毒が盛られたものが多く含まれています

3.私が詳細を知っているのは「有害だが死には至らない料理」のみです


必ずビーフシチューを食べて下さい。

無害な料理を探そうとするのはやめて下さい。

それこそが北区の人々が第二のテストに仕掛けた罠であり、彼らの享楽の趣向なのです。

確実に生き残る道が用意されていたのに苦しみを避けようとしてより絶望的な道を選んだ愚者を嘲笑うという。


食堂のテストにクリアして第三のテスト会場に着いたら次のページをめくって下さい。




第三のテスト会場、大広間に到着しましたか?

およそ自然な形で誕生したとは思えない異常な風貌の獣にベルトコンベア、奥に並べられた蝋人形と

正気を失いたくなるような光景が広がっているでしょうが心を強く持って下さい。

テストは全部で4つ、既に半分は突破してきているのです。

最初にテーブルの上にある首輪をはめて下さい。

首輪は少しずつ内側へ膨張し最後にはあなたを窒息死させる危険な代物ですが首輪をはめない限りテストは始まりません。

首輪をはめると首輪の隣にあったパソコンが起動します。

パソコンの中には北区の歴史など膨大なテキストファイルが置かれており

その中にこのテストをクリアするためのヒントも紛れ込んでいるのですが

まともに調べていては窒息のタイムリミットに絶対に間に合わないようになっています。



まずは食堂へ戻りステーキの皿を取ってきて下さい。

皿をベルトコンベアに乗せてスイッチを起動します。

こうするとことで危険な獣に近づくことなく肉を食べさせることが出来ます。

数分すれば肉の中の睡眠薬によって獣は眠るのでその間に暖炉に火をつけましょう。

獣が眠ったらその横をそっと通り抜け神父の蝋人形が持っている蝋の本をとって暖炉の中に入れて下さい。

中から鍵が出てくるはずです。

鍵を火かき棒で取り出したら最初に目覚めた部屋の近くまで戻ります。

「221B」のドアプレートがかけられた部屋の鍵穴に鍵を使えば扉が開き第三のテストは合格となります。

もちろん首輪も外れます。この先で使う機会はないので適当なところに捨ててしまって構いません。



221Bの部屋へ入り内側から鍵をかけたら次のページを開いて下さい。

内側から鍵をかけると最後のテストが始まり終わるまで部屋からは出られません。

もしも本を忘れて内鍵をかけてしまっても取りには戻れないので注意しましょう。




このページを開いているということは最後のテスト会場まで無事に辿り着いたということでしょうか?

そうであると信じてこの言葉を送ります。ありがとう、よくここまで頑張ってくれました。

それでは最後のテストの解説を始めます。まずは部屋にある椅子に座りましょう。

座るとあなたは椅子に拘束されテーブルの上のロックボックスが解除されます。

ロックボックスの中にある赤と黒の薬のうちどちらか片方を飲み干し生き残る事が出来ればあなたは解放され無事に帰宅できます。


ここで大切なお知らせがあります。

これまで私はこの本を通してテストの答えを直接的に教えてきましたが

最終問題ではそうすることを禁止されています。

私が出せるのヒントだけです。でも私はあなたをヒントだけでも誘導することが出来ると信じています。

北区の人々は私にあなたの詳細なプロフィールを渡しました。

あなたは天才ではありませんが決して馬鹿でもありません。

ヒントを見てよく考えれば必ず私がどちらの薬を飲ませようとしているのか分かるはずです。

ヒントは次の4つです。


1.片方の薬には服用から30分後に激しい苦しみを与える毒が入っています。

2.ロックボックスにある怪物の口に指を入れると切断される代わりにその毒がどちらに入っているか判明します

3.何の犠牲もなくあなたが助かることはありません

4.これまで受けてきた3つのテストについて思い出してください



薬を飲み終え20分が経過したら次のページ、最後のページをめくって下さい。




これが最後のページです。

このページが開かれたということは、あなたは私の誘導に気がついたということでしょう。

つまり何の犠牲も払わずにあなたが助かることはないという助言を信じて指を切断し

赤の薬が30分後に激しい苦しみに襲われる薬であることを特定し第二のテストと同じようにあえてそちらを飲んだ。

赤の薬が激しい苦しみを与える毒だからといって黒の薬が無害であるという保証はないからです。



私の予想は正しいでしょうか?

間違っていたら私はこれから失われる命のことを想い絶望します。

正しければ私はここまで私の誘導に従ってくれたあなたに最大級の感謝を捧げます。







ありがとう。

本当にありがとう。

あなたのおかげで………「私の」命は救われます。



この一文を読んだことであなたもようやく気がついたでしょう。

私が間違った薬を飲むよう誘導したことに。

最後のテスト、正解は黒の薬です。

たしかに赤の薬に毒が入っているからといって黒の薬が安全である保証はされていません。

しかし第二のテストと違い赤の薬が激しい苦しみを伴うからといって

その代わりに命は助かるなんて保証もまたされていないのです。

あなたはこれから想像を絶する苦しみに悶えながら死んでいくことになります。



きっとあなたは拘束された椅子の上で「騙したな嘘つきめ!!」と私を罵倒していることでしょう。

しかし私はこれに「いいえ」と答えます。

残された時間を使ってこの本を最初から読み直してみて下さい。

私はあなたに一度も嘘をついてはいないのです。


信じられませんか?ですがこれは本当のことです。

私は最初に何度も繰り返し「ルールを破れば命が失われる」と言いました。

けれど「あなたの命が失われる」とは一度も言っていません。

「もしもあなたが選択を間違えればあなたは死にます」と忠告しましたが間違った選択が私の指示に従わないことだとも言っていません。

ルールを破った場合、失われる命は私のものでした。

あなたと同じように北区の人々に誘拐、監禁されてしまいあなたを最終テストまで誘導した上で殺害した場合に限り帰宅を許される

「正直者の誘導殺人テスト」をやらされていた私の命が失われる人命だったのです。

最終テストの3つ目のヒント「何の犠牲もなくあなたが助かることはありません」の犠牲とは

あなたの指のことでも、服薬による激しい痛みでもありません。

あなたが助かるなら私が犠牲になり、私が助かるならあなたが犠牲になるという意味だったのです。

第一のテストの答えが二者択一を連想させる「5050」フィフティフィフティであることもそれを示唆しています。


今あなたは「何がフィフティフィフティだ!!こんなの全くフェアじゃない!!」と激怒しましたね。

ふふ、この1週間私は生きて家族の下へと帰るためにあなたのプロフィールを気が狂うほどに読み込んだので

どんなリアクションをとるか分かってしまうのです。


ですが自己弁護でも何でもなくこれはフェアなゲームであったと私は思っています。

むしろ私の方が不利すぎると感じるほどにあなたが生き残るためのヒントはたくさん仕掛けられていたのです。

例えば第三のテストで私は獣を排除するために食堂から睡眠薬入りのステーキを持ってくるように指示しました。

これはよく考えればおかしなことでしょう。

ステーキが睡眠薬入りだと知っていたならば第二のテストでわざわざあなたにビーフシチューを食べさせて激痛を与える必要はありません。

第二のテストでステーキを食べさせ、第三のテストではいくつかの料理を盛り合わせて獣に食わせれば

「即座に命を奪う毒」によって獣は死ぬからです。

大広間のパソコンの中には今回のテストに関係する膨大な量のテキストファイルが入っていたことも伝えました。

第三のテスト中は窒息死のタイムリミットがあったので調べている暇がなかったでしょうが

第四のテストは221Bへ入室し内側から鍵をかけた瞬間から始まるので

第三のテストを突破した後で一度大広間に戻ってパソコンを調べる時間はいくらでもあったのです。

そうすればファイルの中にある「正直者の誘導殺人テスト」の記述から私の企みにも容易に気がついたことでしょう。


他にもまだまだありますよ。

蝋人形の本を暖炉で焼くことが鍵になるなんてあからさますぎる程のヒントですし

最終テストの部屋に入る前にもドアプレートの「221B」でよく考えて推理しろと警告しています。

この番号が世界一有名な名探偵シャーロックホームズの住所であることは

大学時代にミステリー研究会に入っていたあなたが知らない訳がありません。


こうして振り返ると私がいかに厳しい条件でデスゲームをやらされていたのかあなたも分かってくれるでしょう。


さて私の計算が正しければそろそろ服薬から30分が経過しあなたは死ぬ頃合いです。

さようなら、会ったこともないあなた。

あなたの屍の上に出来た道を駆けて私は家族の待つ我が家へと帰ります。

死の淵にいるあなたは真夏の怪談話のように家路を急ぐ私の前に化けて出たいと考えているでしょうがそれは無理というものです。


だってあなたは私が誰かすら知らないのですから。

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