【綾戸紗亜良】10年振りの再会と抑えきれない興奮
今回はサーラ視点です!
夕食が終わって、明日の準備もあるからとそら君の部屋から自分の部屋に戻ってきた。
私はしばらくその余韻に浸るようにぼーっとして、ベッドの上へと沈み……手足をじたばたさせた。
『わーっ、わあーっ!』
ふかふかまくらに顔を突っ込み、くぐもった声で叫ぶ。
体の中から溢れる達成感に、もうじっとしてられなかった。
今日一日の出来事、すっごく濃かった!
隣の席での授業。
二人っきりのお昼休み。
対面に座っての食卓。
一緒に食べる料理。
ひとつひとつ思い出しながら、私は口元をニヨニヨと人には見せられないぐらい頬を緩めていた。
そら君のことは、ずっと覚えていた。
別れるのも寂しかったし、別れた後も……いろいろ大変だったから、そら君は訳あって私の中でずっと絶対の存在だった。
お父さんの引っ越し先がまたこっちの方になったと聞いた時、私は真っ先にそら君のことを話した。
お母さんもよく覚えていて、連絡したらまだ引っ越していないことも分かった。
お父さん同士も交流があったから、積極的に動いてくれて。
『まあまあ、紗亜良ちゃん! うちの子のこと覚えていてくれたの? 嬉しいわあ!』
そら君のおばさんは、おにぎり一緒に食べてたのを覚えててくれた。
電話しながら思ってたんだけど……これ、いきなりそら君出てきたらどうしよう!
と思ったんだけど。
『そらはねえ、今一人暮らししてるのよ』
なんと、一人で下宿先から学園に通っているとのこと。
その話を聞いて、私は計画を立てた。
まずは、学園に転入すること。
これはもう成績表見せたら一発でOKだった。勉強しててよかった。
アパートも空き部屋がそれなりにあって、そら君の隣も空き部屋だった。
私は両親に頼み込んで、その部屋を借りさせてもらった。
でも……もしも完全に忘れていたらどうしよう?
だって十年ぶりなのだ。
私にとってそら君はただ一人の存在でも、そら君にとって私は沢山いた友達の一人かもしれない。
小学校のクラスメイトなんて、顔と名前を全員一致させることなんてとてもできない。
そんな私の不安は、昨日吹っ飛んだ。
『お前…………もしかして、アヤトか?』
久しぶりに会ったそら君はもちろんすっごく変わっていて、声も低く、体も大きくなっていた。
だけど前髪の中にやや隠れ気味だった顔を見て、一発で昔の記憶が蘇ってきた。
何より、私のいたずらですぐ名前を思い出してくれたのが、すっっっごく嬉しかった!
あの頃の私とそら君を繋ぐものが、なかなか思い浮かばなくって。
おままごとも、シーソーも、お庭で遊ぶのも……どれも再現しづらいし、思い出の個性としてはフックが弱い。
だから、きっとこれならと願いを込めて持ってきたのが、あのわさび漬け。
いろいろ悪戯も工夫したけど、本当は心臓バクバクで……。だから一口で思い出してくれた時、もう嬉しすぎてそのまま抱きついちゃいそうになってました。危ない危ない。
今日は学校でなかなか話しかけるチャンスがなかったけど、屋上の昼食はすごく楽しかった。
後はまた明日の楽しみと思っていたら……まさかスーパーで出会えるなんて!
これはもう、運命とか感じちゃうね!
だから。
『私が作ったら、半分食べてくれる?』
私は、思い切って料理の提案もしちゃいました。
本当は最初から作ることを狙ってたんだけど、全く勇気が出なかったので缶詰ばかりカートに入れてました。ううっ、ダメな子だあ……。
でもでも、そら君とここで出会えたのなら、やっぱり運命!
お母さんには『男の胃袋を掴むのよ!』と料理を教え込まれていたし、私も自分の料理を食べてほしいと思っていたからね。
でも……もしも好みじゃなかったらどうしよう。
料理って、どうしても好き嫌いが出る。
私が大好きなわさび漬けもたくあんも納豆も、苦手な人はかなりいる。
お弁当で友達とかに『えっ』という顔をされた時は、結構ショックだった。
そら君は昔一緒にそういう具材のおにぎりをたくさん食べたけど、あの頃のそら君のままとは限らない。
そんな不安も、今日吹っ飛んだ。
本みりん、明らかに良い物だった。醤油も間違いなく逸品だった。
そら君のおばさんが選んだからかと思ったら……出てきたのがあの調味料棚。
更に、種類の豊富な雑穀米も。
会話の内容で、そら君が自ら選んでいることも分かった。
それに、あの七味の缶は知っている。
確か、有名ブランド。お店に行った時に値札を見たけど……あれね、今日買ってきた私の食材全部合わせたのより高いです。
多分そら君は、珍しいものとして揃えてるんじゃなくて、それらを知った上で良質なものを選んでる。
私と同じ方向で、更に一歩先を行ってるのかも。
こだわりの調味料の数々。
炊飯済みだった雑穀米。
それらを見て、私は明確に理解した。
——私のそら君は、あの頃のそら君のままだ!
私は見た目ばかり変わって、中身は昔のまま。
だからそら君が全く違う中身になってしまっているかもしれないのが少し怖かった。
全然。
もう全っ然要らない心配だった。
杞の人が空を見上げて不安になるぐらいの取り越し苦労だった。
だって……そら君は、私の……。
「むふ、むふふふふ……」
再び枕に顔を埋めて、到底お目にかけられないだらしなさ全開の声が漏れる。
昨日も妄想ばかりで眠るのが大変だったけど、今日はもっと妄想溢れちゃうかも。
不摂生だったら私がお世話してあげよう! ぐらいの気持ちで行ったんだけど……そら君セレクトの食卓周り、明らかに私の好みドンピシャでむしろ私にとってのボーナスタイム。
何より……これから毎日一緒に夕食なんて!
それってもう、あれだよね!
きゃーっ! 私こんな幸せでいいのかなあ!?
再びベッドの上でじたばたしながら——ふと、一つの疑問を抱く。
そういえば……そら君は今日一日、クラスでほとんど誰とも喋ってなかったなあ。
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