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事件後に起こった変化

 改めて、週明けの月曜。

 渡辺先輩は、正式に転校が決定した。

 即退学とならなかったのは、やはり父親のメンツの問題だろうか。


 どちらにしろ俺にとって大事なのは、これでサーラに対して厄介な絡みをする先輩がいなくなったということだ。


 なお、今回の件はサーラにだけ影響があったわけではない。


「綾戸先輩だ!」

「ほんとだ! あのっ、先輩! ありがとうございました!」

「えっ、えっ?」


 佐藤さんの周りにいた下級生が、サーラの周りに集まる。

 話を聞くと、渡辺先輩の被害者達だそうだ。


「いやー、ほんっと大助かりだよサーラっち」

「え、えっとさ、私は別にそんな大したことをしたワケじゃ……」

「したんだよーもー。今回の謙虚は嫌味になんない美徳だけど、受け入れなー?」


 相談を受けていた後輩達にとって、完全にとどめの一撃を刺したサーラは皆のヒーローとなっていた。

 どれだけ手を飛ばしていたんだ……。


 そんなわけで、サーラの人気は更に拍車がかかってしまった。

 今では次期生徒会長だの、本人の気持ちを無視して勝手な話が上がる始末だ。


「私、そんなつもりはないのになあ」

「もしサーラが生徒会長になったらどうする?」

「権力を行使して、真っ先にそら君を副会長に任命するよ」

「絶対生徒会長にならないでくれ……」


 サーラの指名で任命されたら、それこそ目立つってレベルじゃないぞ……。

 ああ、サーラの推薦自体は絶対されるんだろうな。

 来年の俺が平穏無事であることを祈る。




 サーラにとっての大きな変化は、他にもある。

 渡辺先輩の騒動の余波は、他の部活にも掛かってきたのだ。


 サーラに迫った男は星の数。

 というか最初の頃なんて抽選くじみたいな勢いで言われ続けてきたもんな……。


 この事態を今回の事件と絡めて、サーラは先生に相談した。


『私は、特定の運動部には入りませんでした。ですが……今後、運動部に入ることはないと思います』


 後輩達の渡辺先輩に対する告発中、他の部活の名前もいくつか出た。

 全て運動部で、渡辺先輩の時ほどひどくはないものの、強引に誘われそうになった話は上がっていたと。


 教員達も、綾戸紗亜良という逸材の価値は理解している。

 それ故に何かしらの大会記録を残してくれないかと考えていた。

 ただし、渡辺先輩と清一に関する全国報道寸前の件は、更に過敏になっている。

 不祥事の報道だけは、何としても避けたい。


 ここでサーラが、ひとつ爆弾を投下した。


『運動部の先輩からは三割ほど、各部キャプテンからは全員告白されました。強引な人もいました』


 これが決定打となった。

 他の一年からの告発と、今回の不祥事。もう一度起こる可能性。

 とりわけ運動部の顧問を担当していた女性教諭、及びうちのクラスの担任からの猛烈な反対を受け、全ての運動部の顧問は身を引いた。


 運動部の男子生徒も渋るかと思ったが、渡辺先輩に対する女子生徒からの怒りが並大抵のものではなかったので、誰も誘うことはなかった。

 姫とワンチャン付き合えるより、可能性のある女子全員から嫌われる方が圧倒的にリスクが高いからな。


 晴れてサーラは、一時帰宅部として認知される。




 渡辺先輩が学園から去り、最も立場が変わったのはやはり彼だろう。


「っしゃ!」


 先輩からの鋭いシュートを、横にジャンプして受け止める清一の声が響く。

 あの反射神経で動けるんだから、やはり清一なしでチームが活躍するのは難しかっただろう。

 すっかり元気を取り戻した清一が、正式にレギュラーとして復帰した。


 渡辺先輩と連んでいた二人の先輩に関しては、他のサッカー部の先輩からの告発もあり二週間の停学処分となった。

 とはいえこちらの二人は元々そこまで乗り気ではなく、更に高校生活最後の大会前に顧問から目を付けられることになったのも重なって、もう変なことはしないだろうとのこと。


 次のキャプテンは、清一なんじゃないかという噂もある。

 この二週間で、一気にいい方向に動いたものだ。




 最後に、事件と関連したサーラの変化。


「んー……! それじゃ、今日は用事もないし帰るね」

「おっけおっけ、鈴歌ちゃんと買い食いでもするー?」

「しないよ、でも買い物はしたいかな? 食材切らしてるし。というか鈴歌ちゃんは部活いいの?」

「余裕で部誌提出一番手、一発オッケーもらってきました。天才なので! キリッ!」

「実際その辺りは本当に天才的だよね鈴歌ちゃん……」


 サーラは気持ちよさそうに伸びをして、佐藤さんと一緒に帰路へつく。

 今日は……というか今日も、誰からの約束もない。


 そう。

 当たって砕けるような告白が、めっきり消滅したのだ。


 これに関しては、考えてみれば当然のことだ。

 サーラは既に全員を振った上で、渡辺先輩に対して『最低』と言い放ったのだ。

 強引な男に対する制裁として、あれほどまでに強い威力を放った攻撃はないだろう。

 本人にその自覚が全くないあたりが恐ろしい。


 誰にでも明るく優しいサーラ姫でも、嫌いな相手に対してはああなることを皆が理解した。

 当然のことながら、男子達は思っただろう。

 もしも自分が言われたら。

 もしもそれを、こうして撮影されたら。


 結果、無謀な挑戦をする男子はいなくなった。

 サーラの望んだ、女友達と普通にお喋りする平穏な放課後は、ようやく彼女のもとに訪れることになった。


「あーん、それにしても夏の風物詩が出始めちゃったよー。やだなーマジでー」

「暑いの苦手なんだ? 夏の風物詩って、セミとか?」

「ううん、悪魔のヴァンパイアの方」

「そっちは確かに私も嫌だなあ」


 そんな二人の平和な会話を聞きながら、俺も鞄を取った。

 さて、今日はどうするかな。

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