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清一の抱えていた問題

「明らかに仮病だよな」


 開口一番の俺の声に、佐藤さんが腕を組んで答えた。


「むしろそうじゃなければ何なんだって感じだよねー。だってあの小田原君だよー?」


 その言葉に、集まった皆が顔を合わせて頷く。


 一限目の休み時間、先週日曜に遊んだメンバーで集まっていた。

 議題は無論、ホームルームで話題に出た小田原清一の欠席だ。

 これで五日連続となる。


 小田原清一は基本的に、いつも明るい奴だ。

 どんなにゲームでミスしても笑っている姿は、ここにいる全員が知っている。


「既に先週の時点で怪しかったよな」

「飯田君はさすがに気付いてたかー。ちょーっと気になるよね」


 佐藤さんが唸りながら、俊の方を見る。


「早間君から見て気付いたことは?」

「そうだね……チャイムが鳴った時、ちょっと嫌そうな顔をしていました」

「俺もそれは気になった」


 チャイムが鳴ると、授業が始まる。

 授業が苦手……というのは、去年から続くことだ。

 それにテスト直前でもないのにあんなに憂鬱そうにするだろうか。


 後、思い浮かぶことといえば。


「時間経過。つまり」

「——部活だ」


 それまで黙していたサーラが口を開く。


「私と小田原君が最後に会ったの、部活なんだよ。だからみんなよりちょっと長くいたんだけど」

「部活か……」


 清一はサッカー部で、金曜の放課後はサーラと一緒に部活へと向かっている。

 その日は何事もなく終わったわけだが。


「……そうか、その翌日土曜は清一もサッカー部に出ている」


 ふと出た俺の言葉に、佐藤さんが唸る。


「んんんー……ちょいと悪いパターンが見えてきたよ」

「俺もだ、あまり考えたくはないが……」

「どうする?」

「そうだな。清一へ直接聞くのは任せてもらえるか?」

「分かったぜい! んじゃ私は私で探ったり動いたりしとくんで」


 頼りになるコメントを残し、一限目のチャイムを聞いた皆が席に戻る。

 佐藤さんが動いてくれるのなら、そちら側は彼女に任せよう。

 それに……清一の問題は、俺にも関わってくるかもしれないからな。




「小田原君への訪問ですか。そうですね……」


 昼休み中、俺と俊は職員室で先生へと相談を持ちかける。


「これ、なあなあにしておくと後で大きな問題になると思いますよ」

「そうですね……。それとなく話を聞いて、普通の欠席ではない気はしているのですが、教師である私が強引に踏み込んでいいものか悩んでいる部分もあります」


 この先生、丁寧ではあるものの少し押しが弱い人でもある。

 それが良い面もあれば、今回のように悪い面として出てしまう場合もあるんだよな。


「ですから俺達が直接話を聞きに行こうかと」

「分かりました。二人とも仲良くしているようですし……では、お願いできますか」


 先生に了承をもらい、俊と一緒に清一の住所まで向かうこととなった。

 ちなみにサーラと長瀬さんは、部活以外でも佐藤さんと一緒に動くらしい。

 あの二人が脇を固めているのなら、他の生徒も迂闊に手は出せないだろう。




 小田原家は、歩いて二十分ぐらいの場所にあった。

 庭も小さいながら花が咲いており、車庫もある。

 清一が普段通学に使っている自転車も、車庫の脇にあった。


 綺麗な一軒家の門にあるチャイムを鳴らし、俺は自分の名前を告げた。


『……ええっ、蒼空か!? この家まで!?』

「元気そうじゃねーかこの野郎、歩くの大変だったんだよ、早く上げてくれ」

「僕もいるよ」

『俊もかよ!?』


 それから家に上げてもらうと、玄関では上品な雰囲気のおばさんが出迎えてくれた。

 清一の母親だが、清一とは大分違う雰囲気だ。


「わざわざ遠くから来てくれてありがとう。せいちゃんに事情があるのは分かるんだけど、私には話してくれなくて……」

「分かりました。心当たりがある、とは言いがたいですが、聞いてみます」

「ありがとう、お願いしますね」


 清一のおばさんから飲み物といただき、菓子類は晩が近いからと断って清一の部屋へと入る。


 部屋はなんというか、清一らしいというか。

 端的に言って、いろんな物が散らかりっぱなしだった。床に服があり、机の上に本が平積みになっており、買い物袋が淡々と並んでいる。

 清一はそれを隅に避けると、俺達をベッドの方へと誘った。


「さて、本題から行くが。仮病の理由は、部活で合ってるか?」

「……本題はえーよ。でも蒼空らしいな」


 俺の言葉に、清一は溜息を吐きつつも疲れた顔で薄く笑う。


「理由は綾戸さんのことか?」

「多分、そうなんだろうな」


 曖昧な答えとともに、清一は話し始めた——。




 先週の月曜、清一は部活に出た。

 キーパーとして動いていると、練習中のフォワードが何やら集まって話をしている。

 清一が訝しんでいると、うち一人が清一に聞いた。


『日曜日、綾戸紗亜良と小田原が遊んでいたって噂がある』


 ゲーセンで遊んでいたのは、どうやら俺達だけではなかったらしい。

 特にサーラは有名だし、長瀬さんと一緒だと目立つからな。


 清一は部員の問いに、何の裏表も考えることなく普通に遊びに誘えたしランチも一緒だったと答えた。

 サーラ姫狙いかという問いには明確に否定したが、それでも他の男子は全て断られた話だ。

 当然この話は、部長のところまで届く。


『小田原、何故お前が……』


 渡辺先輩はキャプテンになるだけあって、それ相応に実力がある。

 その先輩から清一に、集中的にシュートを打ち込まれた。


 問題は、他の部員もそれに乗ったことだ。

 サッカー部にはサーラ狙いの奴も多く、実際に誘って断られた奴も何人かいた。

 清一は、そいつらの集中砲火を浴びることとなった。


 ゴールキーパーの清一は、右に左に走らされた上、疲れ切ったところを直接ボールをぶつけられて受け取れないことを責められた。

 直接的な殴打ではない。やっていることは、あくまでキーバーの役目の範疇。

 しかし、明らかにその狙い方は普通ではなかった。


 翌日も、翌々日も。

 キーパーの清一は、異様なまでに狙われ続けた。


 清一の状況は、金曜日が決定打となった。

 その日のサーラは、清一と一緒に部活に来たのだ。

 部でのカーストが出来ていた関係で清一を『格下』と認識していた渡辺先輩は、あいつと一緒に行動するぐらいなら、俺なら当然いけるとサーラを誘う。

 当たり前のことだが、サーラは断った。


 一度断られていたとはいえ、後輩が当たり前のように遊んだ相手が自分とは話もしてくれない。

 その怒りは、当然部内の後輩へと向かった。


 問題の土曜日。

 部のロッカールームで、渡辺先輩を始めとした計三名が、清一に詰め寄った。


「……そこでよ、言われたんだわ。『内心見下してるだろ』って」

「無茶苦茶な言いがかりだ」

「言いがかりだぜ……でもな、証明できねえ。部では、先輩が黒と言えば白は周りの同意のもと黒だったことになる」


 嫌なタイプの年功序列だな……。

 たかだが一年早く生まれたぐらいで、何がそんなに偉いのか。


「それから『お前は俺がいるうちはレギュラーには出さねえ』って言われて」

「それはダメでしょ! 完全に越権行為だよ!」


 俊が声を上げ、俺も同意する。

 部内での実に醜い嫉妬を理由に他生徒の活躍ポジションを奪うのは、最早ただの高校三年生の権限を超えている。

 これで清一が実力足らずならまだしも、清一はレギュラーキーパーだ。

 いなくなれば、一年二年の他生徒にだって影響が出る。


「大変だったな……。清一の事情は分かった、自分から言い出しにくい理由もな」

「……すまねえ、かっこ悪いな」

「いや全く。むしろ先輩の立場でありながら仲間を集めないと後輩一人いびれない渡辺先輩のダサさがやばい」

「うん。正直聞いているだけで恥ずかしいし、仲間二人しかいない時点であんまり人望ないよね」


 とりあえず、問題は全てクリアになった。


「話してくれてありがとう。さて、そういうことなら」

「僕達の出番だね」


 俺と俊は顔を見合わせ、使命感と共に頷いた。

 俺達が明確に仲間として協力することを理解して、清一は顔を歪めると長袖で顔を覆う。


「……すまん……すまねえ……ほんと恩に着る……」

「似合わねえよ清一、さっさとバカみたいに何も考えてないバカ笑いするようになれ」

「実際ほんと何も考えてないプレイで笑うよね小田原君」

「うっせ……」


 俺達の言葉にようやく少し笑った清一を見て、覚悟を決める。

 この問題は、サーラにも影響するだろう。

 ならば確実に、完全な状態で解決しなければならないな。


 俺はスマホを取り出して、サーラにチャットを送った。


『一度みんなで話をしたい、土曜集まれるか?』


 サーラからはすぐに『二人ともオッケーだって』と返ってきた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「かっこわるいよな」って言葉に対して、慰めをすっ飛ばして「ダサさがやばい」って一刀に処するの、気持ち良すぎて笑っちゃったけどめっちゃ格好良いですね。 仰る通りなんですが、私みたいなのは被害者…
[一言] そんな部活潰れてしまいなさいな。 いろんな部活行くのを止めさせるのも良いよな。
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