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清一の違和感、難しい判断

 俺は昼食後、事前に話を合わせた俊と一緒に、清一の席へ向かう。


 休日に遊んで以来、俺達の仲はすっかり良くなった……と言いたいところだが、最近あまり積極的に絡んで来なくなっている。


「なあ清一、最近どうしたんだ?」

「そうだよ。お腹でも壊した? 部活には行ってるみたいだけど」


 さすがに気になったので、金曜の今日に清一に直接問い糾すことにした。


「い、いや何でもねえって」


 絡みに行ったら普通に相手するし、返事が返ってこないわけではない。

 ただ、清一に関してはずっとあっちから絡んで来ることの方が多かったのだ。

 やはり今も、どうにも歯切れが悪いように思う……。


「何でもないことはないだろ。まあ秘密にしたいことがあるなら深く追求はしないが」

「困ったことがあったら遠慮なく相談してね。僕らが協力できそうなことなら、協力するよ」

「……おう、その時は頼らせてもらうぜ」


 清一はそう答えると、チャイムの音に一瞬眉をしかめる。

 気のせいかと思うほど僅かな差だったが、あまり見ない表情なので気になった。

 ゲームの大負けでも笑うような男だからな、こいつは。


 ただ……もしもプライベートな問題なら話しにくいだろうし、首を突っ込むのはマナーが悪い。

 それに、これが清一自身の恋愛事情や、秘密のサプライズに関連したことなら、積極的に分析しようとする気は無論ないのだ。


 協力が必要か不要か……こういうものの判断は難しいよな。


「ま、口は堅い方だから信頼していいぞ」

「それは、もちろん。蒼空のことは信頼している」


 一応会話はそれで終了となった。


 放課後、サーラが清一の席へ向かう。今日はサーラにとって何巡目かの、サッカー部の日だ。

 また後輩のファンがサーラを見に集まりそうだな。


 教師達もさすがにサーラに関して、部活を固定しろとは言わなくなっていたが……大会の時期になるとどうなるかは未知数だな。

 選手として出すには、さすがにどこかに所属している必要がある。

 一度『全部の部活を所属として兼任してはどうか』と言われたけど、無理だと断ったらしい。そりゃそうだ。

 サーラだって休みが要る。今日の金曜放課後をサッカー部に使っても、土曜の練習から日曜の試合まで付き合う必要はない。


 それにしても……あの先輩のいる所か。

 断らずにちゃんと行っているあたりは偉いなと思う。

 それこそ件の部長の失敗を理由にサッカー部を断るようにしたら、一発で失脚しそうなものだと思う。


 ただ、そういう『自分への負担』を理由に相手を落とすようなことは、サーラはしないだろう。

 サーラはあれで正義感が強いというか、曲がったことは嫌いなタイプだ。

 それに今は休日に仲良くなった清一もいるし、クラスには他の女子サッカー部員もいる。

 完全にアウェーということはないだろう。


 ま、あいつも苦労しているんだ。

 俺も今日は頑張るかな。




「これは……これはやばい。運動後においしすぎる……」


 今日はせっかくなので、豚の角煮を作ってみた。

 赤と白の層で出来た肉を醤油をはじめとした調味料で煮込んだものだ。

 十六穀米も炊きたてにしてある。


「普段のあっさりとした和食からは外れるが、喜んでもらえてよかった。味付けの醤油も上手くいって安心した」

「そら君は神、醤油は神の武器。全ての巨人を一撃で滅ぼす」

「小豆島が北欧神話の地になったな……」


 いつものように独特の表現を聞きながら、俺も箸を進める。

 三合の十六穀米、明日にでも炊き直ししないといけない量になりそうだな……。


「醤油って何にでも合うよね。こういうのはもちろん、バターとかにも」

「あれ美味いよなー」

「お魚さんはバター醤油をホイルで包んだ和洋折衷だいすき。でも最強無敵の人が作った西京味噌焼きが最強なのであっちも好き」

「今度は京都の味噌蔵が魔王を倒しそうだ……」


 外国人が日本の料理を見ると、醤油の味付けばかりだと思うことがあるらしい。

 確かに大体の料理は醤油で出来ている。刺身も焼き魚も醤油だし、煮物も醤油。照り焼きもタレも醤油から出来る。

 醤油一本で足りると、迷わなくて済むのだ。


 もう一つの和食に欠かせない調味料が、味噌。

 思えばどちらも、同じ原料だ。


「何でも大豆なんだから、和食は大豆様々だ」

「大豆?」

「そう。以前グラタンコロッケバーガーのことを小麦粉だらけだと言ったが、日本は大豆だらけだ。豆腐を入れた味噌に油揚げを入れ、豆の煮物を醤油で味付けするだろ? そして米の隣には納豆。全部大豆だな」

「すごい。大豆がないとこの国の料理成り立たない」


 そんな言葉とともに大豆にお礼の祈りを捧げ出すサーラに苦笑しつつ、今日の食事も終了となった。


「そういえば、今日のサッカー部はどうだった?」

「あー……例の先輩にまたちょっと声をかけられたけど、鈴歌ちゃんのお陰か女子がグループで庇ってくれて、ほとんど会わずに済んだよ」

「そりゃよかった、さすが佐藤さんだな」

「凄いよねー、私こういうの鈍いから頼りになるよ」


 とりあえず、懸念していたサーラのサッカー部に関しては安心できた。

 ありがとう佐藤さん、俺はサーラ同様この辺りの状況把握は苦手だからな。


 土曜は休み。特定の部活に入っていないサーラは、俺の部屋でのんびり料理を担当する。

 日曜は、勉強をしつつ二人で一緒に買い物をして、二人でキッチンの予定。

 部活を固定していないサーラならではの、穏やかな土日だ。



 そうして何事もなく。

 何も。

 何も俺達は知らないまま、週が明ける。


「今日は、小田原君から休みの連絡が届いています」


 週明けの月曜、清一は休んだ。

 ただの風邪かと思ったが……その日から一週間、清一は休み続けた。

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