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【佐藤鈴歌】鈴歌ちゃんは全部お見通し(予定)

 私、佐藤鈴歌は学園の情報を集めるのが好き。

 他人のコイバナは蜜の味だし、誰かの成功も失敗も全部知りたい。


 得た知識は、必ず私の役に立つ。

 知らないよりは知っている方がいいし、やらないよりもやる方がいい。

 動き続けないと死ぬタイプのマグロです。


 そんな私にとって今一番の話題と言えば、やはりこのお方。

 我が桐花学園に転入してきた完璧超人女子高生、綾戸紗亜良。

 ——改め、私の親友サーラっち!


 サーラっちは校舎案内でみんな振り返った。すげー美貌、CMみたいな髪、歩く姿の美しさ。更に体験入学でのスーパープレイ。

 特に最後の一つは、録画していた生徒が結構いて、一気に出回ることになったぐらい。

 噂が流れる頃には授業中の成績優秀っぷりも広まり、晴れてその姿から『姫』の称号を得た。

 なんちゅーか学生だと『学園のアイドル!』とかが似合うはずなんだけど、サーラっちの場合は完全に姫じゃないと似合わない感じ。


「こんな人、いるんだなあ」


 件の流れて来た動画を繰り返し見ながら、サーラっちの姿を思い出す。


 そんな我らが姫は、女子には誰でも優しく明るいけど、男子には一歩引いてる。

 優しくないわけじゃないんだけど、自分から話しには行かないし、告白はもちろん遊びに誘われても基本的に断っている。

 お高く止まってはいないけど、手を触れようにも高くて届かない。そんな感じ?

 話題の中心ではあるけど、コイバナはなさそう。そのうち告白ラッシュも終わるでしょ。


 ま、サーラっちと一緒にいたら、今年は退屈せずに済みそうかな?

 この時の私は、まだそのぐらいしか考えてなかった。


「それがまさか、こんなダークホースがいたとはね」


 サーラっちの訪れによって、私の中で明確に変化した人物がいる。

 それが、飯田蒼空だ。


 名前は爽やかで格好良いけど、なんかぬぼっとしていて垢抜けない男子って認識だった。

 逞しい体だけどスポーツもせず、調理部に入っては幽霊部員。

 浮いた話も何もなく、なんていうかあんまり見ていて面白いキャラじゃなかった。

 サーラっちにも興味を示してないみたいで、こっちもコイバナとか何もなさそうだなーって認識だった。


 ところが。

 この飯田君が、サーラっちに関わる時限定で動く動く。

 悪い噂のある先輩だろうと教室に来た後輩だろうと、サーラっちに迷惑をかけた相手ならサーラっちを庇う。

 それを認識した瞬間、この天才鈴歌ちゃんは気付いちゃったわけですよ。

 サーラっちは、結構な高頻度でチラッチラ飯田君の方を見ていることに。


 あっ、こいつらできてんな!


 まあ確信に変わったのは、たまたまバイトしてたら休日デート見つけちゃったからなんだけどね。

 あの防御力全振りサーラっちが男子と自然に会話しているし、何より表情が断然明るい。私ですら見たことがない。

 表情がころころ変わって、無邪気で子供っぽさすら感じるぐらい。

 もしもこの姿が学園で披露されていたら、サーラっちは姫じゃなくてアイドルだったね。


 ただ、それだけじゃない。

 飯田君側の表情が物凄く豊かなのだ。

 教室でも無表情ってわけじゃないけど、どっちかというとムスッとしていて怖いキャラなんだよね飯田君。

 今の飯田君は苦笑したり、肩を竦めたり……どこか大人びた雰囲気でありながら、ナイフで名物ピザを切り分ける時なんて、すっげえ優しい顔になってんのよ。

 超いいじゃん……隠れ銘柄すぎるでしょ飯田君、サーラっちだけインサイダー取引してたなー?

 正直『サーラっちとデートできる幸運な男』だから表情豊かなのかと思ってたけど、これ逆なのでは? と勘が告げている。


 思い切って話に入って行き、二人の賑やかしをしてみる。

 ここで驚いたけど、飯田君は自分が後輩をたしなめたことを全く話してなかった。

 ここから分かること。彼は、わざわざ自分の活躍をサーラっちに話す必要を考えてないのだ。

 だからこそ思ったよね。そういう人だから、サーラっちは飯田君を選んだんだなーって。


 何より。


『そら君、ありがとうね』


 そら君!

 いいな、そら君! すっげー可愛い呼び方!

 私もその名前で呼びたい!


 と言ってみたけど、すぐに『だめ』とチャットをもらいました。

 しゅーん。




 さて、興味の中心が飯田綾戸ペアで固定された私は、二人の様子をたっぷり観察することにしました!

 あとクラス一大きい女子、長瀬由希ともよく話すようになった。


 由希ちーは体格いいけどインドア控えめな少女! 浮いた話がないのが驚くほどの可愛さを秘めているのに、男共は見る目がないなー。

 話してみると、漫画アプリで悪役令嬢ものとか読んでてびっくりした。けっこーディープな話題もいけるみたいで、思わぬ仲間が出来てご満悦なのだ。


 三人で休日に遊びに行くと、飯田君に小田原清一、早間俊という最近仲いいクラスメイトがいた。

 二人はサーラっちの存在にちょいビビリしてたけど、あっちに『そら君』がいるからなーと思ってるとやっぱOKした。

 多分彼なしだとNGだったんだろうなーって思うと、やっぱサーラっちにとって飯田君の存在はめちゃでかいね。


 小田原君は、私にとって新鮮だった。

 男の子ってプライド高いなって思う瞬間多いんだけど、彼はめちゃくちゃ下手なのを晒しながら楽しんでいるのだ。

 私としては好感度高め。

 逆に早間君はゲーム全般かなり上手く、そこそこの点数取っても勝てないと悔しがるタイプ。

 この二人が友達やってるのも不思議である。


 ランチでは小田原君のセンス光る混ぜ方と一緒に乾杯した。

 後でめっちゃサーラっちに怒られたけど。


 ここで私は、とんでもない秘密の可能性に気付いた。

 切っ掛けは、飯田君の返した言葉だ。


『筑前煮だな』


 私はサーラっちと由希ちーと一緒に学食で食べている。

 サーラっちとおかずを交換するのは、昼間の楽しみの一つなのだ。


 筑前煮は、サーラっちが交換拒否したおかずだ。

 男子二人の会話の中で『ナスも食べたかった』という話題も出てきた。

 サーラっちがあの日『これならいいよ』とくれたのは、確かナスだったはず。

 めちゃめちゃ美味しかったのを覚えてる。


 そんなことを思い出していると。


『だし巻き卵だな』


 次に飯田君が出した料理は、サーラっちの弁当には入っていなかったもの。


 その料理の名前が出た瞬間、サーラっちが飯田君の方をガン見した。

 飯田君もサーラっちの方を見て、なんか小さく頷いてた。

 サーラっちがなんか必死に細かく頷くと、飯田君はふっと小さく苦笑した。


 ……。


 もしかして。

 もしかしてなんですけど。


 この二人、弁当共通では……?


 由希ちーは飯田君の対角線上で聞こえてなさそうだし、女子組はサーラっちの弁当の内容を話してないので、多分私しか気付いてない。

 まさか同棲? さすがにそれは現時点で、配達物などを考えても教師にバレないのは不可能だろうし……。

 後で探りを入れてみますかね?

 さすがに踏み込んで聞いていいラインかどうか難しいので、NG出たら引き下がります。

 そこはもう、サーラっち大好きな親友ですから。




 ま、そんなこんなで鈴歌ちゃんの学園生活はすっかり野次馬根性バラ色人生なわけですよ。

 人と人の関係を見るのは実に愉しい。私に愉悦をくれたまえーハハハ。


 ……とはいえ。

 ここ最近は楽観視できない状況かも。


 あれから数日のうちに、何故か小田原君の歯切れが悪くなることが多くなった。

 底抜けに明るいキャラなので、急に蓋がついちゃった感じなのは気になる。


 もう一人。

 クラスの中でもサーラっちほどではなくとも存在感のある、山本才花。

 彼女がどうにも、飯田君を見て腕を組んだり溜息を吐いたり、忙しない感じなんだよね。

 あんまりそっち方面と関わるのは好きではないけど、こっちもちょいと調べておきますかね。


 せっかく楽しいことになってるんだ。

 今年一年は、楽しく過ごせるよう動かせてもらいますよっと。

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― 新着の感想 ―
[一言] なかなか観察眼に優れた勘の鋭い女子ですな。
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