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みんなでランチ、サーラのNG

 ゲーセンでプレイが終わり、予定通り六人でランチへ。


「ゲームもそうだったが、六人となると皆の意見を合わせるのも大変だよな。どうする?」


 俺の問いに、佐藤さんがまず話の指揮を執った。


「これだけはダメ、ってのある人ー! しいたけとかトマトとか、激辛とかパクチーとか」

「あ、俺パクチーだめだわ」

「僕もですね」

「おー、男衆苦手という話はマジかー。まあ出してるところも少ないし、その辺は除外で」


 清一と俊がパクチーにNGを出し、次いで長瀬さんがラーメンにNGを出した。

 まあサーラとかあの髪で食べるの大変そうだし、女子をラーメンに誘うというのもな。


「残ったのは……ステーキ系のファミレス! サーラっちはそういう店でも大丈夫?

「うん。基本的に苦手なものはないし、何でも食べるよ」


 イナゴの佃煮……とは突っ込まないでおこう。

 そもそもあれが大丈夫な人の方が少ないし。


「明日も登校することを考えると、ニンニクは避けたいな」

「ナイスアシストだよ飯田君! 完全に頭から抜けていた! 毎日が日曜日だったらいいのになあ!」


 実に佐藤さんらしいコメントだなと思いつつ、六人で席に着いた。


「そういや蒼空はこういう洋食も食うのか?」

「いや普通に食べるけど、何でだよ」

「だって蒼空の弁当、必ず和食だし。何かこだわりでもあんのかなって」

「こだわってるわけじゃないが、単純に好みなのと、後は調味料が増えると管理が大変だからかな……」


 俺の言葉にサーラが頷き、長瀬さんが「綾戸さんも和食弁当ですからね」と言う。

 管理が簡単という意味では、まあ同じ醤油使ってるもんな。


 というわけで、皆でメニューを頼む。

 店にあるタッチパネルから操作することにも慣れ、店員を呼ばずに注文していく。

 注文決定後に、皆で席を立った。


「さて、今日は何混ぜっかな?」

「清一は何をする気なんだ……」


 併設されたドリンクバーに集まった俺達は、それぞれ自分の欲しいものを取っていく。

 俊はコーヒー、長瀬さんはミルクココアとそれぞれ自分のものを迷い無く取って席につく。

 常識人組である。


「今日はこの、ウーロン茶×オレンジジュースでいこう」

「佐藤さんなかなかやるじゃねーか、じゃあ俺はメロンソーダ×コーヒーだぜ」


 反面こっちの佐藤小田原ペアは完全に遊び人組である。

 高校生にもなって、それはどうなんだ……。


「うーん……」


 ふと見てみると、サーラが紅茶の茶葉が入ったコーナーを見て唸っている。


「どうした?」

「このアッサム、セイロン、ダージリンと並んでるコーナーなんだけど……何がいいかなって」

「ああ、迷うよなこういうの」


 産地が違うものの、砂糖とミルクを入れると具体的な差って分からないし、あまり飲む習慣がない。

 とはいえ、茶葉が並んでいるコーナーって見ていて楽しいんだよな。


「参考に、どういうふうに飲む?」

「んー……料理もあるし、ストレートかなあ」

「じゃあダージリンでいいんじゃないか? そうそう、店のお湯は熱くて結構濃く出るから注意な」

「そうなんだ。ありがとね」


 サーラが茶葉をティースプーン一杯分入れるのを見て、俺は隣の棚へ行く。


「そら君は?」

「緑茶かな」

「……あったの?」


 俺は茶葉のコーナーの派手さに隠れている、ティーバッグのコーナーから一つを選んだ。


「そ、そんなところにあったんだ……!?」

「意外と見落とすよな、ストローの上側。文字が隠れてるし」

「うう、次から覚えておこう……」


 サーラと席に着いた頃に、料理が到着した。

 清一はステーキ、俊はパスタ、佐藤さんはサイコロステーキ。 

 俺はチキンステーキで、サーラはハンバーグ。

 最後に俊と同じようなサイコロステーキを二人分頼んだ長瀬さんが、俊を見て恥ずかしそうに頭を掻く。


 メニューが揃ったところで、男子と女子が向き合う形でのランチとなった。


「今日の出会いに乾杯! いやーそれにしても偶然だよね。普段クラスでしか会えないから新鮮」

「そりゃこっちの台詞だぜ、ゲーセンで女子組とか予想外だって」


 佐藤さんは清一の正面中心側で、俺達男子グループを見回す。


「学園の外の情報はあんまり集める機会ないから、面白い話題提供してくれよー男子諸君!」

「面白い話題っつってもな。一応今日初めて遊び始めたばかりだし」

「三人で弁当食べてるぐらい仲いいのにー?」

「ありゃ特別だ、さすがに二度はできねーわ。学食様々だぜ」


 佐藤さんが話題に出したのは、先日の清一と俊が弁当を作ってきたことだろう。

 さすがというか何というか、佐藤さんは本当にいつの間にか情報を得ているよな……。


「僕ももう無理かなあ。冷凍食品だけで作ったから、本当に簡単なものだったけど。でも飯田君の……何だっけ、煮物」

「筑前煮だな」

「そうそう。あれ美味しかったね、さすが調理部だと思ったよ」


 清一を挟んだ向こう側で、俊からの言葉も届く。

 そこまで褒めて貰えると、嬉しいと同時にしばらく幽霊部員状態だったことが申し訳なくなるな……。


 佐藤さんは俺達の会話を聞いて、視線を俺の方に向けた。


「卵焼きもすげーうまかった」

「……ああ、だし巻き卵だな」


 その言葉を出した瞬間、サーラの視線がこちらに向いた。


 ——分かったよ、今晩にでも作ってやるって。


 というアイコンタクトが通じたかは分からないが、サーラは一瞬口角を上げて自分のハンバーグを再び切り始めた。


 そういえば、佐藤さんが黙ったまま妙に俺の方ばかり見ている。

 お喋りにしては珍しいな。


「……どうしたんだ、佐藤さん。俺は面白い話なんて提供できるキャラじゃないぞ」

「いやいや、どんな話でも超面白いよ。どんどん話して」


 佐藤さんは一瞬サーラの横顔を見ると、すぐに自分の食事へと戻った。

 サーラにも話を振ったのかと思ったが、結局催促はしなかった。

 佐藤さんの興味のポイントは未だによく分からん……。


「そういえば、綾戸さんはこのあたりよく遊ぶの?」

「あ、小田原君。今日ゲームセンターに来たのは引っ越してきて初めてだよ」

「やりぃ、超レアじゃん。今日出てきてよかったわ」

「僕もいいもの見られました」


 清一がサーラにも話題を振り、俊もその会話に乗っていく。

 クラスだと他の男子の視線がある中で積極的に絡みに行ける存在ではないだけに、二人とも楽しそうだ。

 サーラも教室よりリラックスしているように感じるな。


 皆が食事を食べ終わったところで、ふとサーラが言う。


「こういうドリンクバー使える時って、もうちょっと長くいたくなるよね」

「うんうん、わかるぞー。注文取ってない状態で混んでると、さすがに遠慮しちゃうねー」

「あ、それでしたら」


 女子組の会話の中で、長瀬さんが何か言おうとする。

 その直後——。


「ご注文の品、苺パフェマウンテンです。お済みのお皿、お下げします」


 長瀬さんのテーブルに、超巨大な赤いパフェが現れた。

 少食代表の俊は、すっかり圧倒されている。


「……沢山食べるんですね」

「お恥ずかしながら……」

「あっ、えっと……沢山食べるの、すごくいいと思いますよ。僕全くなので……」


 俊のフォローになってるのか分からないフォローに、長瀬さんは少し笑ってパフェに手をつけ始めた。

 只でさえ料理の量も多かったのに、その上でこれか……。

 いや、そういえば最初から長瀬さんだけ飲み物もガッツリ甘い物だったよな。


「わっはっは、由希ちーがたっぷり頼んでくれたので、またドリンクバーで遊ぶぜー!」

「よっしゃ俺も」

「——待って」


 佐藤さんと清一が立ち上がろうとしたところで、サーラが二人を止めた。


「二人とも、さっき作った飲み物が残ってるよ?」

「あ、いやー……そいつはさすがに」

「残ってるよ?」


 サーラ、笑顔で無言の圧。

 こういうサーラを見られるのも珍しいな。


 とはいえ、料理を作る組にとっては原価格安のドリンクバーでも無駄にするのはあんまりいい気持ちじゃないからな。


「清一、諦めろ。男なら黙って飲み干すべきだ」

「飯田君、私は!?」

「佐藤さん、諦めるんだ。少年らしい遊びの分は男らしく飲み切ろう」

「男扱い!」


 結局二人は、鼻を摘まんで一気飲みすることになった。

 きっとこれを最後に、二人はドリンクバーで遊ぶことはないだろう。

 思わぬサーラの一面が見られたなと思う。


 ちなみに長瀬さんは、俺とサーラがもう一杯ドリンクを飲む時間で巨大パフェを食べ切った。

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[良い点] おもろいすっよ 頑張ってください 応援してます
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