男同士でゲーセンへ
友人の名前を『早間俊』に変更しました
「うぇーい日曜遊びにいこうぜー」
という佐藤さんの軽い声がけに、サーラは長瀬さんと遊びに行くことになった。
サーラからのアイコンタクトに頷くと、後日チャットで遊びに行くとのこと。
じゃあ日曜の昼は別々だな。
同じ日、清一と俊に声をかけられた。
サーラ達に影響されてかもしれないが、俺も休日を友人と過ごすのもいいかなと思い二人へOKを出す。
こういう心変わりも、サーラが背中を押してくれたからだろう。
とはいえ、男衆で街中に繰り出したところで男同士で服を選び合うような仲でもないし、俺が普段街中に出る用事となると料理の食材なのでもっとおかしい。
改めて普段の俺って相当枯れてんなあと思い知らされることとなったな……。
「マジかあ、蒼空って全く外で遊ぶことねーんだ?」
「インドア系……の割に、体しっかりしてるよね」
「鍛えるのは、家でも出来る趣味だからかな。参考に、普段二人はどういう場所で遊ぶんだ?」
二人が指定したのは、派手な筐体が明滅し、音が音と混ざって結局どうなってるのか分からない場所。
この凸凹コンビが遊ぶには、確かにぴったりだなと思える場所。
ゲームセンターである。
「あまり来たことはないんだ。何年ぶりだろう……六年?」
「ゲーセン六年ぶりはすげーな……」
「知っての通り、家庭用ゲーム機はそこそこ遊ぶぞ」
どうしても、プレイが下手なうちは延々金を取られるのが嫌なんだよな。
クリアできるまでじっくりプレイしたいタイプだ。
とはいえ、こういう環境にある巨大なディスプレイのゲームや、ここにしかないゲームというのをやるのも面白そうだ。
全く知らないタイトルのゲームが並んでいる。
「おおー、それじゃあ飯田君の貴重なゲーセン初プレイを見られるってわけだね」
「あんまり期待しないでくれ」
そう言いつつも、なかなか自分一人だと訪れない機会に、俺自身楽しみになっている。
特に、コントローラーが独特のものは面白そうだな。
「よし、普段あまりやらない太鼓でもやってみるか」
「おっ! そいつが出てきたか!」
「飯田君のプレイ、果たしてどうかな?」
二人の声を浴び、プレイを始める。
正直この辺りは何も分からないので、楽曲もランダムで選択だ。
選ばれたものは、中ぐらいの難易度の知らない曲。
「いきなり初プレイでこれとは持ってんねえ!」
清一の声に溜息を吐きつつ、バチを構える。
赤いのが中心、青いのが外……意外と難しいな。
リズムを掴むのは問題ない。細かい十六分音符も叩ける。
ただ初見のプレイだと楽曲自体知らないので、中途半端に開いたリズムが四分音符か付点の八分かが掴みづらい……。
画面には、自分のプレイの結果が出ていた。
「……んんん、Bか。楽しいなこれ、みんながハマるのも分かる」
「だよね、だよね!」
「曲は知らなかったが、いい曲だった」
「「——はあっ!?」」
俺の一言に、二人が同時に叫んだ。
「……な、何だ?」
「この曲知らねーの!? めちゃ有名じゃん!」
「いやそうじゃなくて、飯田君は知らないのにあのプレイだったの!?」
どうやら俺が、初見プレイというより知らない曲をプレイしていたことに驚いているらしい。
二人は、何か思いついたように目を合わせる。
「……それじゃ、これ一緒にどう?」
俊が選んだのは、超有名な漫画原作の、古いアニソンだった。
さすがに知っているので頷くと、俊は自分のお金を投入して二人目プレイヤーのバチを持つ。
上下に分かれたプレイ画面を確認して、俊と一緒に遊び始めた。
さっきの曲より大分簡単だが、それよりも驚いたことがある。
「……。……」
下半分でプレイする俊が、とてつもなく上手い。
俺の数字が二十そこらで途切れるのに対し、既に俊の数字は百を超えた。
そんなプレイをしたまま、最後までノーミスで俊はプレイを終えた。
俺はA、俊は……Sが三つ狭そうに並んでいる。ミスはゼロと書かれていた。
「やった、初めてクリアできた……!」
驚く俺の隣で、俊は何故かすげえ嬉しそうに握り拳を震わせていた。
「いやいや、滅茶苦茶上手いってレベルじゃないだろ! 俊はこんな特技あったんだな……!」
「好きで続けてたらこうなったんだよ。それより飯田君こそ凄いね、反射神経いいと思ってたけど、すごくセンスあるよ!」
「そういえば、初クリアって……」
俊は清一の方を見ると、清一は視線を逸らした。
「……なんつーか、俺こういうの全くできねーんだよなあ」
「星が二つぐらいになるともうプレイ怪しいからね、清一は」
マジか、こっちはこっちで意外だな……。
それからいろんなゲームを遊んで回った。
清一は何でも好きなようで、古い縦シューティングを遊んでは即やられても笑い、レースゲームを遊べば最下位付近でも笑っていた。
下手の横好きらしく、あまり上手くはないが十分に楽しんでいる。
家では専らRPGばかり遊んでいるらしい。
反面、俊のプレイは見事なものだった。
基本的に何をやってもそこそこ上手く、俺と清一は途中から完全にギャラリーと化していた。
上手いプレイヤーを見るのって、やっぱ面白いよな。
次に俊が選んだのは、対戦格闘ゲーム。
順調にストーリーモードをクリアしていた途中で、乱入者が入った。
それまでCPU相手にほぼ完封を誇っていた俊の体力が、じりじりと削られていった。
なんとか一勝を取るも、次の試合は一気にコンボを決められて最終ラウンドとなる。
「相性いいキャラでもないのをわざわざ選んだ乱入で、これ……!? この相手、半端なく上手い……!」
俊は驚嘆の声をあげたと同時に、肩を回して深呼吸して姿勢を正す。
真剣なプレイに、思わず息を吞む。
削り、削られ……最後はギリギリ接戦の末に相手を倒した。
手に汗握る戦いだったが、俊の方が一枚上手だったようだ。
俺なら間違いなく完封されてるな……。
俊が勝った後に淡々と画面に向かって礼をする反面、清一は「よっしゃ!」と俊の代わりとばかりに喜んでいた。
俺は見ているだけだったが、あまりの緊張で息を止めてしまっていた。
すげーよ俊、今日一日でイメージが大きく変わったぞ。
「うがーっ! まさかこのシリーズのⅣで、私が負けるなんてーっ!」
筐体の音がけたたましい店内でも、相手側の声はよく聞こえてきた。
対戦相手は女子の声だった。
その声の直後、こちらの方を覗き込むように現れた顔に、俺達は揃って声を上げる。
「佐藤さん?」
そこにいたのは、クラスの佐藤鈴歌だった。
ここに佐藤さんがいるということは……当然、こういうことである。
「えっ? あ! そ……飯田君!」
「本当だ、すごい偶然ですね……」
佐藤さんの後ろから、サーラと長瀬さんが顔を出してきた。