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再会は学校で

久しぶりの新作ながら、沢山の方に読んでいただけて嬉しいです!

「おはようございまーす……」


 やや寝不足の頭で『桐花学園高等部』の大きな看板を横目に、校門の体育教師に挨拶する。

 新学期からこれでは、先が思いやられるよなあ。


 とはいえ昨日は突然の出来事に、頭が変に働いてなかなか眠れなかったので仕方ないっちゃ仕方ない。


『あっ、明日の荷物ようやく! ごめんね、今日はここまで。それ全部食べちゃっていいから』


 俺に悪戯を仕掛けた男友達……ではなくなった、女友達がスマホを操作して電話に出た。

 玄関を開くと、ちょうど俺の部屋にもよく来る宅配業者の声が聞こえてきた。

 昨日は、それで終わり。




 それにしても、綾戸紗亜良、か。

 思えばあいつとは、何故今まで忘れていたんだろうってぐらい一緒に遊んだよなあ。

 綾戸以外の顔が全く思い出せないぐらい、アヤト改め綾戸と遊んだ記憶しかない。


 あいつを幼馴染みと呼んでいいのかは難しいが、今のところそう呼べる存在はあいつぐらいだろう。

 友達は学年が変わるごとにクラスが離れて付き合いがなくなり、新しい友達と仲良くなる。

 そいつとも二年後に別々のクラスとなり、小学校を卒業したら見事に全員いなくなった。


 中学は毎年クラスが変わり……いや、それはもういいか。


 突然の来訪で、次から次へと思い出される昔の思い出を振り返りながら、俺はベッドに入った。

 しかし、何か一つ思い出す度に今のあいつの顔が重なって、その言葉にしづらい感情に頭が冴えていき……。


 結局あいつの置いていった麦茶を飲み干してトイレに行ったときには、丑三つ時から更に一歩はみ出すぐらいの時刻になっていた。




「転校生を紹介します」


 机に突っ伏していた俺の頭は、担任の言葉とともに教室に現れた顔で一気に覚醒した。


「今日このクラスに入る、綾戸紗亜良です。みんな仲良くするようにね」


 そこにいたのは、見間違えようもない昨日の来訪者が!

 俺の内心を余所に、黒板に綺麗な文字で名前を書いた彼女は頭を下げて元気よく挨拶した。


「よろしくお願いします!」


 さらりと髪が流れ、男子のみならず女子も感嘆の溜息を漏らす。


「じゃあ綾戸さんは、そこの席に座ってください」

「はい」


 言いながら先生が指定したのは、一番後ろの席の窓側……つまり俺の隣だった。


 肩より長い髪は艶やかでサラサラしていて、どこか非現実めいた印象を受ける。

 クラスの視線を受けて尚、堂々としていた。


 座る瞬間、俺にちらりと顔を向けて「よろしくね」と笑った。

 後頭部に隣の男子からの視線が刺さっている気がする……。

 あまり目立ちたくはないんだけど、ここでそれを言うと余計に角が立つだろうなあと思うと無難に返すのが一番かな。


「よろしく」


 軽く返して視線を戻すと、担任が今日の予定を話して俺への注目は散った。


 転校初日で分かる。

 彼女は教室の中心となりそうだ。



 クラスの興味はすっかり、窓際の席に集中していた。


「それでそれで、綾戸さんはどこから来たの?」

「部活何に入る?」

「なあなあ俺ら歓迎会するから来ねえ?」


 お、俺の静かな休憩時間が……。


 隣の会話は当然のことながら明確に聞き取れるので、「岡山だよ」「部活はまだ決めてないんだ」「ごめんね、やることあるから」と答えたのが聞こえてきた。

 最後のヤツは、露骨すぎて他の女子にどつかれてた。


 一時限目のチャイムが鳴るまで、質問攻めは続いた。

 授業が始まる直前、綾戸は何か言いたげにこちらを見ていたが、すぐに教師がやってきて姿勢を正した。


 この流れ、実に昼休みまで続いた。

 転校生綾戸紗亜良、実に人気である。


「ねーねー、綾戸さんお昼一緒にしない?」


 クラスの女子は積極的で、綾戸にぐいぐい会話を迫っていく。

 正直俺の席の前でやらないでほしい……。


(それじゃ、ひっそり抜け出させてもらいますかね)


「あっ……」


 女子の背中ばかり見えて居心地の悪い席から立ち、俺はちゃっちゃと弁当を持って教室を抜け出した。

 綾戸は多分、女子と食べるだろう。

 なら、席は空いていた方がいい。



 屋上には、爽やかな風が吹いていた。

 この暑くも寒くもない春という季節は、いつも短いんだよなあ……。


 ようやく、静かになった。


 今日一日で去年一年分ぐらいの喧噪を浴びた俺は、僅かな癒やしを求めて深呼吸する。

 校庭で遊ぶヤツの声も遠く、吹き抜ける風が気持ちいい。


 それにしても、まさかあいつが俺の隣の席だなんて驚いたな。


 それこそ子供の頃は毎日一緒にいたし、親同士の付き合いもあった。

 本当の兄弟みたいに仲が良かったし、俺にとっては大切な幼馴染みなんだけど……。


「何だろうなー、この感覚」


 未だに一致しない『アヤト=綾戸』という図にもやもやしながら、惣菜パンを袋から出した時。


「あっ、そら君ここにいたんだ」


 屋上に、件の綾戸が現れた。


「ふふふ、隣座っちゃうね」


 記憶の中で唯一、俺の中で一致する笑い方をした彼女は、肌が触れるほど近くに座って身を寄せてきた。

 ……距離感バグってない? 大丈夫?

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[気になる点] 一番後ろの席に座ってるのに後頭部に視線が刺さってるってどういう事?
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