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味方でいる、ということ

 サーラと長瀬さんの関係は、最終的に仲良くなった。

 それだけで終わればよかった問題だったのだが……。


「な、なあ……俺、綾戸さんの味方だからさ……」


 何故かサーラに、こういう絡み方をする男子が現れだした。

 あれは……そうか、体育館で長瀬さんを非難した奴か。


 対して、サーラはその言葉に眉をひそめた。

 ちなみに長瀬さんは、サーラの隣にいる。


「悪いと思ってるのなら、由希ちゃんに謝ってほしいな」

「い、いいですよ私は……」


 由希ちゃんとは、長瀬さんの下の名前だ。

 すっかり仲良くなったな、女子の身長のツートップ組。


 対して、男子の方は納得がいってないようだった。


「それは……でも、あれは長瀬さんが」

「悪くないでしょ? かわいそうだよ」

「……えっと、長瀬、すまん。……と、とにかく俺は、綾戸さんの味方、だから」


 とってつけたような短い謝罪と、無駄に長いサーラへのアピール。

 長瀬さんは「気にしてないですよ」と小さく手を振るものの、サーラは思いっきり気にしている。

 気まずそうに机へ戻ったクラスメイトに対し、サーラは眉間を揉んで皺を伸ばすように溜息を吐いた。


「はぁ〜……。高校生になったらまだマシになるかと思ったけど、これで三人目かあ」

「紗亜良さん、大変ですね……」


 起こったことを考えると不思議なものだが、すっかり長瀬さんがサーラを慰めるという関係図になっていた。

 見ている限り、本当に二人の仲は良い。


 ただ、長瀬さん自身の件は既に二人が仲良くなったことと、もう一つの理由で解決したと思う。

 その理由の一人が、会話に混ざってきた。


「おっす、相も変わらずでかでかコンビだね! 間に入ったカワイイ鈴歌ちゃんは、哀れ連れ去られるグレイのよう!」

「グレイ……?」

「もう、鈴歌ちゃんったら……由希ちゃんに宇宙人グレイのこと通じてないよ?」


 佐藤さんが、長瀬さんの側に立った。

 人を見る目に関しては右に出る者がいなさそうな佐藤さんは、長瀬さんにも積極的に絡むようになっている。


「由希っちも、相手が悪いと思ったらガツンと言ってやってもいいし、何だったら先生にも相談していいと思うよー」

「そんな、悪いですよ。紗亜良さんのお陰で大変なことにはなってないですし」

「偉いねー、その身の丈ならむしろ威圧できそうなぐらいなんだけど」

「怖がられたくはないので……」


 話を聞けば聞くほど、長瀬さんは穏やかな人だ。

 こういう人が争いを好んだりすることはないだろう。

 本当に、後は男子が変なアピールさえしなければ、ってところだな……。



 休憩時間にいつものように廊下に出ると、クラスメイトの男子が追いかけてきた。


「なあ、飯田。放課後ちょっと残ってくれないか? 話がある。時間は取らせない」

「別にいいけど、何だ?」

「……その時になったら話すから」


 しきりにクラスの方を気にしながら、俺に話しかけた奴は……今日サーラに話しかけていた男子だった。

 体育館で、長瀬さんを非難したクラスメイトだ。

 あまりいい予感はしないが……断るわけにもいかないな。


 クラスの方を見ていたのは、サーラがこちらを無表情でじっと見ているからだろう。

 そうだな、こういう時は——。




 放課後、教室に残った俺のところへクラスメイトがやってきた。


「飯田」

「ああ」

「飯田の本命は、長瀬なのか?」

「——は?」


 あまりにも予想外の質問から始まり、思わず変な反応になってしまった。


「何でそうなったんだ?」

「いや、だって飯田は長瀬の味方したじゃん。何でなんだよ」

「俺はむしろ、何故そんなに気が立ってるのか分からないんだが……」

「だって、飯田が長瀬の味方したせいで、綾戸さんが俺に対して冷たいんだよ。チャンスだったのに……」


 ああ……なるほど、な。

 あの時にサーラの味方サイドに立って長瀬さんを非難することを、自分をアピールするチャンスだと思っていたのか。

 それで長瀬さんを悪者に出来れば、今頃自分の方が仲が進展していたと。


 ……すまん、佐藤。

 確かに俺は他の男子のことを見誤っていた。


 こいつに、本当はサーラが困っていたなどという情報を教える必要はないな。


「まさかそこまで計算して、綾戸さんに気に入られるために、自分だけ目立つアピールしたんじゃない?」

「何でそんなことする必要があるんだよ……」

「狙ってるから計算して助けたでしょ、今も妙に会話多いし、隣の席だからってすっかり友達ですみたいな感じだし」

「そんなに計算高く考えられる状況じゃなかったと思うが……」


 俺は呆れつつ、「大体な」と続ける。


「本命だからとか、そういう理由で助けたりしてたら空回るだろ。助ける必要がある相手なら助ける」

「じゃあ飯田は、綾戸さんが悪いことしたら非難する側に回るのか? 本命なら擁護するだろ?」


 詭弁にもなっていない暴論に……事前の仕込みを少し後悔しつつ答えてやる。


「綾戸さんがそういうことをするとは思わないが、本当に悪いことをしたのなら反省を促すし怒る。ただ、反省した本人が何度も非難されていた場合は、必ず最後まで味方でいる。といったところか」

「……」


 クラスメイトは少し感情の読めない表情で溜息を吐くと……目を細めて俺を見ながら黙って腕を組む。

 分かってはいたが、あまりいい感情は持たれていないな。


 俺が次に何を話すか考えていたところで——教室の扉がガラガラと開いた。


「あれ、飯田君?」


 そこには、鞄を持ったサーラがいた。


「どうした、綾戸さん」

「机の中にペンケースないかな?」

「ペンケース……これか?」

「それ!」


 透明のペンケースに、キャップが付いた鉛筆や、以前おすすめしたボールペンなどが綺麗にまとまったもの。

 無骨なデザインを可愛くしようとシールが貼られたそのペンケースを、俺はサーラに渡した。


「ところで、何してたの?」

「ちょっと話をな。まあ最初のやり取りで確認は終わった……んでいいよな? まだするなら詳細も話すが」

「い、いや、用事はない! 話は終わったよ!」

「仲がいいの? 悪くはないよね?」

「そ……それは、もう……なあ?」


 本命の登場にすっかり毒気を抜かれた男子は、ヘラヘラと笑って身を引いた。

 サーラは「それならいいけど」と関心が無いような返事をして、俺と一緒に教室を出た。


 放課後、部活で人の減った廊下。

 人が誰も周りにいなくなったところで、サーラが振り返る。


「ごめんね、入るの遅かったかも」

「いやむしろちょうどいいぐらいだった、助かった」


 教室にサーラが入ってきたのは偶然ではない。

 事前に俺が、サーラにこのことをチャットで連絡していたのだ。


 あの日、サーラは俺の味方になると言った。

 今日俺達が廊下で話していたのをガン見していたサーラに対して、俺が何も連絡をしないのは、心配をかけないようにした結果、逆に心配させてしまうと思った。

 助けが必要だったというより、頼りにしないことが却ってサーラに対して不誠実だと思ったのだ。

 それに、実際いてくれると分かっているだけで本当に心強かったのも確かだ。


「あれで収まるといいけど」

「大丈夫だと思う。サーラの最後の言葉が効いたと思うし」


 変に近づかれても困るが、そうなったらそうなったで下心満載だから意味ないだろう。

 第一、あいつのそういうところはサーラに筒抜けになった。


「ところで」


 と、考えていたとこに、サーラが腕を組んで身を寄せる。

 近い近い……!


「私は最後までそら君の味方でいるつもりだけど、そら君も最後まで私の味方してくれるんだね」


 悪戯っぽく笑いながら、息がかかるほど顔を近づける。

 ああもう、そりゃ当然聞かれてるよな……!

 あの場で言うのと、この場で肯定するのはハードルが大分違う。


「一応、まあ……そうだと言っておくけど」

「へへへ……もちろん知ってたけどね、そら君はいつでも私の味方だって」


 知ってる、だなんて言われると、まるで俺の内面を完全に知られているかのようでちょっと納得がいかない。


「悪いことしたら怒るような味方だぞ」

「そういう味方だから嬉しいの」


 う……こいつを言い負かせるのは無理だ……。

 ぐいぐい密着度を上げてくるサーラから必死に顔を逸らしつつ、笑顔で部活に向かうサーラを見送った。

 全く、誰かに見られても知らないぞ……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういった所の2人の関係性が良いですよね。 そら君の言う通りで、心配かけたくない(かっこつけたい)から何も言わない子達に違和感ばかりだったんですよ。 何だかほっとしました(笑)
[一言] モテる女の子は下心に敏感だからね。 持ち上げられるのが大好きな姫様タイプやカーストトップに君臨したがる女王様タイプじゃないならば、こんなやつは余計に嫌われるだけですわ。
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