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サーラの決意

「——えっ、私?」


 俺の過去を最後まで話したところで、サーラが反応した。


「そう。サーラに会ってから、変わろうと思うようになった」

「な、なんで?」

「何でって、無自覚か?」


 俺が指摘しても、首を大きく傾げて「う〜ん……?」と唸り、出て来ないのか反対側に大きく首を傾げて唸るサーラ。

 初日の俺もこんな感じだったのかと思うと、ちょっと笑ってしまうな。


「子供の頃、サーラをいっつも家に呼んだよな」

「うん」

「何でそんなこと出来たかっていうと、サーラを誘う子が他にいなかったから。だから独占できた」

「……」


 そう。

 サーラも俺も幼馴染みで友達だったけど、ずっと一緒だったということは、『それ以外の子とほとんど、もしくは全くと言っていいほど遊んでない』ということに他ならない。


 俺は、そこから中学まで大して変わらなかった。

 中学三年で、大幅に友人を減らすことになった。


 だが、サーラはどうだ。


「今のサーラでそんなこと、絶対出来ないよな。今のサーラには、自然と人が集まってくる。それはサーラが昔と『変わった』からだ」


 あの頃からは信じられないぐらい、サーラの周りには人が集まる。

 そりゃ昔は異性だと思っていなかったというのもあるし、幼稚園と高校生の異性感というのは当然違う。

 それを加味したとしても、俺がサーラを皆の前で気軽に誘って独占なんて出来ないだろう。


 それは、サーラが天性の魅力で人を惹きつけているからじゃない。

 俺はそのことを、クラスの誰よりも理解している。


「なんというかさ、打ちのめされた」

「……」

「サーラは、こんなに変わった。だから俺も、サーラが変わった方がいいと言ったのなら、俺も変わるべきだって」

「……それは、違うよ」


 何だから俺ばかり一方的に話してるな……と思っていたところで、サーラが話を止めた。


「私は……まだ、怖くて話せないこともあるけど……。でも、確かにあの頃、私はそら君にいつも助けてもらっていた」

「俺に?」


 意外な言葉が出てきて驚く。

 俺がサーラを助けたことなんてあっただろうか。


「もしかしたら、そら君はそんなつもりじゃなかったかもしれないけど」

「今思い当たってないからな」

「うん。もし私が変わったとしたら、本当はそら君が変えたんだよ。引っ込み思案だった幼稚園児の私を、みんなの前でも話せる子にしてくれた」


 そう、だったのか。

 俺は本当に遊び相手が欲しかっただけだから、なんだかそこまで重大に考えてくれてたのなら、嬉しくもあるが申し訳なさもあるな。


「だから、そら君」

「ああ」

「何の過去も知らないまま、振り回してごめんなさい。あと……変わってくれて、ありがとう」


 それから、と言葉が続く。


「今度は私の番」


 サーラは、俺の隣に座り直し、俺の両手を包み込むように握った。

 ……温かい。

 冷えた体に、彼女の熱が流れ込んでくるようだ。


 自らの両手を見つめながら、サーラが祈るように宣言する。


「神に誓ってでも、命を賭けてでも、言うよ。私はそら君のこと、絶対に裏切らない」


 これは……俺の、嘘告白への言葉だろう。

 それにしては誓い方が重いし、何より本来彼女には関係のない話だ。


「おいおい、サーラが気にする事じゃないだろ」

「ううん、それでも。そら君は私を助けてくれたのに、私はそら君が一番苦しい時に助けられなかった。仕方ないことだとしても、やり直せないことだとしても——」


 サーラは、握っていた手から視線を上げ、俺と目を合わせた。


「今は、そら君が困っている時に、助けられる場所にいる。だから、味方が欲しい時は私の名前を思い出して。私はいつでも、そら君の味方だから」


 ……ああ、やっぱりこの子は凄いな。

 サーラは、俺が一番必要な言葉をくれた。


 もしも被害に遭った分尽くしたいなどとと言いだしたら、突っぱねただろう。

 嘘告白で振られた分を埋め合わせするように付き合うと言いだしても、突っぱねただろう。

 そういう、サーラの義務感のような自己犠牲で救われても、きっと俺は納得できなかったはずだ。


 ようやく理解した。

 俺はずっと、こいつだけは絶対に味方だと胸を張って言える存在が欲しかったのだ。


「ありがとう、サーラ。これじゃ姫というより王子だな」

「……しょーじきサーラ姫とか言われてるのめっちゃはずいし違和感バリバリある」


 そりゃ本人にとってはそうだろうな。

 でも学校でのサーラはロングヘアを靡かせる清楚系美人だ。


「けど、私にとってはそら君が王子様なんだからね」

「んなワケないだろ」

「無自覚だよね、そら君も」


 いや、それはサーラが俺を過大評価しているだけだと思うぞ。


「……ところで、サーラ」

「うん」

「その、だな……。……近い」


 俺が一言を発した途端。

 サーラは顔を真っ赤にして立ち上がった。


「ごごごごごごごごめごめごめん!」

「大丈夫、大丈夫だから。落ち着いて」

「いきなり無理矢理だったのごめん嫌じゃなかった?」

「温かくて嬉しかった」

「……! ほ……ほんと、に……?」


 相も変わらず、謝る時には過剰に反応するサーラである。

 むしろ、サーラなら多少やること強引でも許してくれるぐらいだと思うんだよな。


「……何だか、話し疲れて腹減ってきたな」

「そ、そうだね! 晩の用意するよ! 今日だってナンパから助けてもらったし、誠心誠意作らせていただきます!」

「いや俺が作るよ、味方になってくれたお礼として」

「それを出されると弱いなあ!?」


 結局二人で一品ずつ作ることになり、互いの料理を褒め合うという夕食になった。


 いろいろあったが……自分の中に溜め込んでいた物を、ようやく吐き出せた気がする。

 体が軽くなったみたいだ。


 それに。


 サーラは味方だと言ってくれた。

 学園の姫が、どんな時でも味方だと言ってくれた。

 こんなに心強いことはない。


 だから、俺も決めた。

 俺も、サーラのためなら、どんな時でもサーラの味方でいようと。

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― 新着の感想 ―
[一言] ふたりともいい子すぎる(;∀;)
[良い点] 言葉の端々からそらのトラウマ、葛藤が浮かび上がってきますね。 サーラを見ていれば、知っていれば、自ずと掛けてくれる言葉は一択な事に気付くのに。 中学の事がどれだけ彼を傷付けてきたのか? そ…
[一言] こんなんもう婚約やん(
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