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サーラが気付いていたことと、蒼空の理由

 結局あれから一言も交わすことなく、自宅まで戻った。

 サーラも無言で、俺の部屋に入る。


 薄暗くなった部屋の電気をつけ、部屋を明るくする。

 そんな明かりでも、気落ちした心を僅かばかりでも和らげてくれるように感じる。


「なんか飲むか?」

「うん……」


 返事も弱々しいな。

 俺もまあ落ち込む事情があるし、むしろサーラとしては俺のせいで迷惑を被ったわけだから怒る権利すらあると思うんだが……。


 だが、サーラはこういう時に気にするだろう。

 なら……あれだな。


 俺は引き出しから普段使っていない粉末を用意し、お湯を入れる。

 軽くかき混ぜ、あまり熱くならないよう気をつけながら湯吞みに注いだものを二つ。


「ほら」

「うん、ありがと。……あっ、これ」


 一口飲んで、サーラはすぐに思い当たった。

 ま、そりゃこれを飲んだら反応するよな。


「梅昆布茶だ。懐かしいね」

「お気に入りだったよな」

「うん」


 少しずつ、少しずつ、喉に流し込んでいく。


 子供の頃は味覚が鋭敏という。

 和食党の子供だったが、さすがに抹茶や青汁なんかはお互い苦手だったな。

 いろいろなお茶を飲んで、その中でもお互い気に入ったのが梅昆布茶だった。

 その美味しさはお気に入りになり、そんな俺達のチョイスを母さんが笑ったものだ。


 全て飲み終わった辺りで、どうやら落ち着いてきたようだ。


「懐かしいね、これ」

「だよな。俺も結局ここまで持ってきちまった」

「私も、自分の部屋にあると思う」


 少し余裕を持って笑ったサーラは、熱の残滓を両手で包み込みながら視線を落とし、話し始めた。


「ちょっとだけね、気付いてたんだ。そら君のこと」

「俺のことか?」

「うん。目立ちたくないんだろうなって」


 そうか……サーラは気付いていたか。


「分かってたんだ。分かってて、そら君に髪を切るように言った。服も買うように言った」

「……」

「もしかして、私、すごく無理させてるのかもって思ってて……でも、言ったら、そら君は優しいからきっとやってくれるって……優しさに甘えたんだ……」


 どうやら、俺が思っている以上に、サーラはちゃんと俺の内面を理解してくれていたんだな。


「ごめんね、私——」

「はい、そこでストップ」


 俺は手の平を相手に向けて、発言を止める。

 これ以上言わせるのはダメだろう。


「俺の内面に関する話、本来なら知らないサーラは気にする必要はない」

「でも」

「それにな。俺自身も、いつかどこかで変わらなくちゃならないって思ってたんだ」

「……そう、なんだ」

「そ、だからマジで気にするな。俺にとっての『その日』がサーラのお陰で早まった、ってだけなんだよ。むしろ礼を言わせてくれ」


 俺がそう告げると、サーラはようやくふっと笑った。


 今言ったのは、本心だ。

 俺はいずれ過去に距離を置いて、新たな一歩を踏み出す必要があった。

 ただ、今のまま変わらないことが楽だっただけに過ぎない。


「俺も、ここまで来たら話しておかなくちゃいけないな」

「……うん。そら君って昔はもっと、積極的だったと思う」

「そうだったかな……もう昔のことは曖昧だからな」


 それこそ、目の前の奴が俺にとって一番の思い出というか、こいつ以外に思い出がないぐらいだ。

 ただ……中学二年より前は、確かに今より明るかった。


「サーラがどうだったかは分からないけど、俺も小学校に上がった直後は寂しかったな」

「うん」

「でもさ。やっぱ昔の記憶って忘れちまうもんで……六年に上がる頃にはサーラのことも忘れかけてて」

「……うん」

「まあ、徒歩圏内で同じような顔ぶれとはいえ、中学も充実していた」


 一つ一つ、記憶をたぐり寄せるようにしていく。

 仲が良かった奴の顔も、思い出せるような思い出せないような曖昧なものだ。

 特定の友人を作らなかったともいえる。


「中学ともなると、ガラの悪い連中だってうちの学年にもいてな。当時、悪い奴の中で流行っていたことがあった」


 ああいうのは何処の学校にもいた。

 やることも、どこも似通っていた。


「『嘘告白』って知ってるか?」

「……!」


 俺の一言で、サーラは気付いたようだ。


「まあ、この話題を出した時点で気付いたと思うが——中学三年の時、ターゲットは俺になった」

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