ランチに現れる嵐
意見を交わしながらの物産展は、充実したものだった。
コーナーを撮影して、メーカーを調べて、スマホからサイトを見て……商品の詳細を知っていくことは面白い。
ちょっと調べようと思った郷土料理の歴史とか、関連項目から関連項目に目移りしたら止まらなくなったりな。
サーラはしきりに俺の行動を見て真似するものだから、少し笑ってしまった。
ただどうやら真剣だったらしく、ちょっと怒っていたけど。
さて、朝から一緒だから買い物をしてもまだ正午だ。
せっかく出てきたんだからと、二人でランチを外で食べることになった。
「二名様ですね!」
お洒落な感じのイタリアンに入り、メニューを開く。
料理の名前だけ書かれたシートを一緒に眺めながら、サーラはこちらに質問した。
「こういう時って、どういうものを頼む?」
「どういうものを頼む……か。空腹度合いにもよるけど、自分で作れそうにないものや、他で食べられそうにないものを頼むかな」
「あっそれすごくわかる。チキンステーキとか行きたいなって思うこともあるんだけど、これウチで買ってきて焼いたら出来そうだなーとか思っちゃうと」
「そうそう」
こんなお店まで来て、何とも生活感溢れる会話だ。
なんだか笑ってしまう話だな。
「あっ、この窯焼きピッツァはどうかな」
「なるほど、ピザは家じゃ限界あるからなー。いいかも」
「決まりだね。すみませーん! ピッツァ、しらすのを一つ」
「俺はキノコで」
お互いに注文し、二階席から街の外を見下ろす。
誰が誰だか分からないってぐらいに多いが、こういう時に誰かと出会ったり……は、しないよな。
待つ時間がもどかしい。
何と言っても、目の前に私服のサーラがいるから緊張するんだよな……。
「……」
向こうも何を話せばいいのか分からないようで、こちらを見ては目を逸らす、ということを繰り返していた。
さすがに沈黙に耐えられなくなったのか、サーラが先に言葉を発した。
「……あ、あのさ」
「お、おう」
「午後、どうする? もしよかったら、服とか見に行かない?」
服か。サーラなら何を着ても似合いそうだし、新しい服も気になるのかも。
「いいぞ、行こうか」
「ホントに? 絶対だからね?」
いや念押しするほどか? 嘘は言わないって。
いろいろ着るサーラも見てみたいし、帰ったところで家でやることもあまりないしな。
「お待たせしましたー! 大葉しらす地中海ピッツァと、朝採り山菜きのこピッツァ、サラダとコーヒーです!」
会話に割って入るみたいに、店員が注文していたピザを持ってくる。
出来たてで、生地が薄く具材の多い小型のものだ。
これなら一人前で軽いモノとして十分だな。
「……じー」
「ん?」
ふと正面を見ると、サーラが俺のものをじっと見ている。
なるほど、言いたいことが分かった。
「よし、半分に割るか」
「えっいいの?」
「むしろ俺もそっちのが気になる」
こういう時って、大抵食べ物の時は『あっちを注文した方が良かったかなー』って思っちゃうんだよな。
——という話を振ってみた。
「わかるわかる!」
「逆に家電製品とかスマホは『自分の買い物は正しい選択だった』と思う理由を探してる気がする」
「あー、それもわかる。スマホのおすすめとか話す子、よっぽど詳しいマニアでも無い限りは自分のを良い物として紹介してる気がする」
愛着なのか、仲間集めなのかは分からないが、意見が合ったようだ。
そんな他愛もない会話も、楽しいものだな。
「——お客様」
と、ここで店員から声がかかった。
もう注文していたものは無かったはずだが、セットメニューに何かあっただろうか?
その疑問は、店員の顔を見た瞬間に吹っ飛んだ。
「……お、お前……佐藤……!」
なんと、ここでバイトしているのは佐藤だった……!
思わずサーラの方を見ると、あちらも驚いて凍り付いている。
制服を可愛らしく着こなした佐藤は、顔を近づけて小声で話しかける。
「いやー、言いふらしたりはしないよー? 元々仲良さげだなって気付いてたし」
「気付いてたって、いつからだよ」
「前々から薄ら、かな? 飯田君ってすごくサーラっちに慣れてるし運動部の活躍を知らないし、最初は興味ないだけかと思ったけど……気に掛けないといけない場所で、ちゃんと気に掛けるじゃない」
「あ……サッカー部の先輩の時とか、そうだよね」
佐藤さんの言葉に、サーラが照れながら頷いた。
「それだけじゃないっしょ。後輩が来た時、雨でずぶ濡れになったことを知ってた。その後輩にも自ら釘を刺したね」
「えっ」
サーラがその言葉に、驚いて振り向く。
そうか、休みの日だからサーラは事情を知らないのは当たり前のことだ。
「たまたま来ていたから言っただけだ、お前達のやり方じゃダメだろうって」
「そ、そうなんだ……そら君、ありがとうね」
「いいって、俺も腹立って言いたくなったからな」
俺達の会話を聞き、佐藤さんが再び頷いた。
「これなんだよね。普通恩に着せることやると、それにかこつけてあわよくば、ってのがあるんだけど君は今の会話で一切話してないことが分かった」
「他の奴もそうじゃないのか?」
「マジでいい男すぎんかー飯田ー? 君の周りの男はもっと誰かがピンチになるまで助けずに待機する男だぞー?」
そりゃさすがに言いすぎじゃないか?
なんて言いたいところだが、人の観察に関しては佐藤さんの右に出る者はいないんだよな。
突如、佐藤さんはずいっと顔を寄せてくる。
お、おいおい……近いぞ……。
「後さ」
「な、何だよ……」
「私も『そら君』って呼んでいいかにゃ〜?」
その言葉で、今サーラがとんでもない失言をしたことに気がついた。
「——佐藤さーん!? レジ頼めるー!?」
「あっ、さぼってたらバイト首になっちゃう! とにかく、二人の悪いようにはしないから! ね!」
最後にそう告げると、佐藤さんは去っていった。
「……そ、そら君、ごめん……」
「いや、サーラは悪くないから……」
俺達は言葉少なくコーヒーを飲みながら、ランチを終える。
突然の出会いだったが……見つかったのが佐藤さんで良かったな……。
ただ……あいつ、変な勘違いしてないだろうな……?
後で訂正しておくか。




