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サーラとの朝と、中学時代を知る人

 次の朝。

 朝目が覚めると……キッチンから物音が聞こえる。

 そこには、サーラがまな板の上で人参を切っていた。


「あっ、おはよー!」

「……ああ、おはよう」


 俺は寝ぼけながら、サーラの挨拶に応える。

 まだ眠気が抜けていないせいで、頭が回っていない。


「今、何時?」

「六時半。そろそろ起きるかなーって思って」

「ありがとう。じゃあ、着替えてくるよ……」

「はいは~い!」


 サーラの声を背中に受けつつ、洗面所に入る。

 そのまま着替え終えて……驚きに叫んだ。


「お、おいおい!? なんでいるんだ!?」

「えっ!? あれっ、昨日確かに朝来てもいいって」

「言ったけども! それは朝食作るためであって!」


 サーラはきょとんとした顔のまま、小首を傾げる。

 なんだその『何が問題なのか?』という表情……。


「昨日食べながら、朝来てって言ったよね」

「まあ、そうだな」


 抹茶栗きんとんを用意して、サーラに朝食べるよう言ったのは俺だ。

 カフェイン多めだから、晩に食べるのは控えたいところなんだよな。


「その時、そら君言ったよ? 『鍵を渡しておくから適当に使ってくれ』って」

「い……言ったか?」

「言ったから鍵もらってるんじゃーん。……あっ、もしかして、かなり嫌な方? 返した方がいいですか?」


 不安そうに言うサーラを見て、考える。


 別に、嫌ではないんだよな。

 何しろサーラが、何か悪いことをするという想像が全くつかない。

 それは俺とこいつが幼少期から家で遊んでいたことも大きいだろう。


 第一こんなに不安な表情をさせることが心苦しい。

 そもそも俺から言って俺から渡したんだから、それを取り上げるとかしたらがっかりするのは当然だよな。


 それにしても……何故『かなり嫌な方』とか、妙に過剰な恐れ方をするのだろうか。


「違う。そういう意味じゃない。ちょっとびっくりしただけだ。朝飯の準備、頼んでいいか?」


 サーラを落ち着かせるように言い聞かせると、すぐに安心してくれた。


「うん、任せて!」

「……ところでなんでエプロン?」


 気になっていたことを聞くと、楽しそうに笑う。


「に、似合う?」

「正直に言おう」

「うん」

「すっ……ごく、良い」

「やったーっ! 今度そら君のエプロン姿も見せてね」

「いや野郎のエプロン姿とかどこに需要があるんだよ」

「ここに! ここにありまーす!」


 とまあ、朝から元気な会話をした。


 思ったんだけど、サーラってうちだと普段の五割増しぐらい元気だよな。

 学校ではちょっと抑えているというか。


「それじゃあ朝ご飯作ってくるねー!」


 サーラは鼻歌交じりにキッチンに戻っていった。

 ……なんか、すごくご機嫌だなあいつ。


 そんなわけで、朝から妙にテンションの高いサーラとの朝食となった。

 なお、抹茶栗きんとんを食べたサーラのテンションは、更に五割増しになったことは伝えておく。

 ご近所迷惑になっていないか心配……かと思ったが、そういえば壁部屋であるここの隣の部屋が目の前の姫なのであった。



 その後。

 朝食を食べた俺たちは別々に登校する。


『そのうち大手を振るって一緒に登校したいよね』


 なんて言ってたけど、さすがに半端なく目立つだろう。

 それは現状、ちょっと勘弁願いたい。


 そして教室に入ると……俺の方を見ながらひそひそと話す声が聞こえてきた。

 ……目立つ行動をしなかったはずだよな?


「おはよー、飯田君」

「ああ、おはよう綾戸さん」


 挨拶を軽く返し、疑問を感じつつ席に着くと……机の中に手紙が見えた。

 綾戸さんは、佐藤さんと喋っている。今なら読んでも大丈夫だろう。

 誰かのいたずらだろうかと思いつつ、中身を確認すると。


『放課後屋上へ来てください』


 これは……。


 俺もバカではない、これがどういう類いのものであるかは分かる。

 分かっているが……。


 ——あまり気が向かないな。


 だからこそ、この手紙の差出人が誰であるか予想がつく。

 おそらくは……。


 昼休み。俺は一人で昼食を食べるべく、弁当箱を取り出す。

 サーラはさすがに初日以降誤魔化すことはできないので、クラスメイトと食べている。


 俺も誘われたが、それは断った。

 サーラには悪いが、昼は屋上にいたい。

 それに、どうにも教室で食べる気にならない事情がある。



 放課後。

 今日もサーラは部活に誘われていた。行くかどうかは分からないらしい。


 屋上の呼び出しに、俺が一人で向かうと——。


「来たな」


 やはり、こいつか……。


 そこには、金髪を揺らしていかにもつまらなさそうな表情をした山本才花がいた。

 普段から侍らせている男子でもいるかと思ったが、どうやら一人らしい。


「ドッキリにもなんねーか、つまらねぇの」

「何だよ、まだ用でもあんのか?」

「いやお前さ、それどったんだよ。急に色気づいて」

「ますます何だよ、髪型変えたら色気づくとかお前は俺の母親か何かか」

「は? ちっげーよ、つうかさ」


 山本さんは、ローファーの音を鳴らして俺に近寄る。

 ……顔はいいんだけど、ガラは最悪なんだよなあ。

 服も着崩していて、それはお前いいのかと思う。いや校則的に良くはないけど、そうじゃなくて俺の前で。


「飯田、何最近調子乗ってんの? お前を見てんのいるんだよ」

「乗ってるわけじゃない、変わろうと思っただけだ」

「変わろうと思った? まさか、気でもあるのがいんのか? 例えば……」


 それ以上は——と思ったところで、山本は離れた。


「ま、あんたがそれならいいけど。あんたのこと、他の連中も見てっから。あんま目立つんじゃねえぞ」

「分かってる」

「結構。……近くで見るとお前結構でけーのな」


 そう言って、肩を叩いて屋上から去って行った。


 ……大丈夫。

 以前よりも喋れている。


 それに、こうして言われても堂々としていられるのは、俺の生活に支えがあるからだ。

 変わろうと思った切っ掛け。

 別に色気づいているからではなく、単純に感謝と、前向きに進む心構えがあってのことだ。


 それにしても、髪を切ったぐらいで絡んでくるなんて、あいつも相当暇なのか?

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