水商売
渉は帰って来るなり靴置きを見回す。
恐らく雪の靴が無いのに気付いたのだろう。
舌打ちをして俺たちの顔をちらちらと気まずそうに見下ろす。
「ったくあの馬鹿女が……お前ら飯大丈夫か?腹に溜まるもんあったかな……」
渉は髪をかき回して手に持ったコンビニ袋を漁る。
隙間からはつまみの類が見えた。家で晩酌でもする予定だったのだろう。
「大丈夫、俊平と一緒に作って食べたから」
「そうか……もうお前らは寝とけ、明日も学校とか幼稚園あんだろ」
そう言って渉は足早にリビングまで歩いていく。
……珍しく今日は機嫌がいい。そのことに俺は安心する。
酷い時には酩酊状態で暴れたりするからな。
こんな風にまともな対応をされるのは、10分の1位の幸運なケースだろうか。
特に予定も無いため言われた通りに俺たちは部屋に戻って寝る。
時刻はもう22時目前……さすがに子供が起きてるのはきつい時間だ。
「マジなんだよ!真美だっけか、あの馬鹿一夜で俺に240万溶かしたんだって」
「……うぅん?」
視界が黒く染まり意識が落ちかけていた直前、渉の楽しそうな声で目を覚ます。
リビングからここまで大して距離は無いため大声で話せば当然声は部屋にも響く。
多分、同じホストか裏方か知らないが……同業者と電話しているんだろう。
俺は頭を抱える。寝ろと言うなら少しは声を控えてほしいものだ。
「え?いや大丈夫っしょ。これからどんどん出勤日数増やして稼ぐっつってたし」
渉の声はどんどん弾んでいく。どうやら相当羽振りのいい客を捕まえたようだ。
機嫌が良かったのもそのお陰だろう。
「あ?馬鹿お前、一々そんなので罪悪感感じてたら何年も水やってける訳ねーだろ」
「……」
「にしてもああいう頭空っぽな奴は本当に助かるぜ。金払って話すことに違和感持たねえんだもん」
どんどん罵倒のペースは早まっていく。
「言わば男に貢ぐ為だけに生まれてきたような女!精々役に立ったまま死にやがれって話だけどな」
俺はホストに関わらず水商売そのものを否定する気は全くない。
人によっては他人から金を騙し取る悪辣な職業に見えるかもしれないが……
少なくとも合意の元に行われているのは事実。
一息に言えるものでもないが他人を楽しませられるのも立派な才能の一つだ。
だがこれはそれ以前の一個人としてのモラルの問題だろう。
別に必ずしも感謝しろと言いたいんじゃないが……聞いててとても気持ちのいい話じゃない。
とは言え、そんな人間が稼いだ金で今日も生活が出来ているのだ。
耐えがたい……しかし避けようがない事実。
労働基準法は数年を経ても変わっていない。最低でも高校生になるまでは就職どころかバイトも出来ない。
金銭面の問題も有耶無耶にはしておけないだろう。
ただ復讐というだけなら簡単だが、やはりいくつも懸念材料はある。
その最たるものが……
「ああそうだよ、あいつガキ二人置いてって今日もパチンコ。我ながら何で結婚したかなぁ……」
現在進行形で、夫婦関係が瓦解寸前だという点だ。
何か思ったより書いてたら幼稚園時代が長引いていく……
もう一話電話続いてそこで区切れるよう頑張ります




