似ている
「ただいま」
家のドアを開け二人そろって言うもやはり返答はない。
いつもの事と言ってしまえばそれまでだが夏は悲しそうな顔をしてランドセルを下ろす。
まだ小学生の子だ。帰っても家に親が居ないのは悲しいものなのだろう。
俺は手を洗いに洗面所まで向かった。
石鹸をまんべんなく纏わせ、流そうとしたところでふと鏡の中の俺と目が合う。
……やはり似ている。
反射する自分を見て一番に抱く感想は既視感だった。
勿論前世にそっくり……なんて事は無い。
俺は父親、高坂渉似の顔立ちをしている。
鋭い切れ長の目、細い鼻、少し厚めの上唇。逆立つ癖っ毛。
過去に見せられたことのある渉の幼少期の頃の写真と瓜二つだ。
幼稚園に迎えに来る他のお母さんたちからは子供ながらも綺麗な顔立ちとよく言われる。
確かに整っているように見えるかもしれないが……
「はぁ……」
ため息がこぼれる。
似ている、というか似てしまっているという事実に対してのものだ。
血の繋がっている親子だから当然と言えば当然である。
それを理解しても尚脳裏に浮かんで来るのはかつての光景。
「俺、ホストとかやってる関係で……結構裏の怖い人たち知り合いに居るんですよ」
まだ俺が工藤悠斗だった頃、雪と当時21歳の渉とで話し合いをした時だ。
初めは反省した、とでも言うように俯いていて俺の要求を聞いていたが……
突然渉はしびれを切らしたかのように様子を変えてきた。
「悠斗さんのご両親……多分今50代くらいですかね?」
「……それが何か?」
ピンポイントに当てられる。俺の年齢を知っていれば予想は難しくないだろうが。
渉は狙い通りとでも言いたげににやりと笑う。
「怖いですよね~そういう年頃の人って、よく不慮の事故とか起こしたりしません?」
紛れもない脅迫だった。
俺には、いざというときに事故を起こせる後ろ盾があるという。
実際裏社会の事なんて創作ぐらいでしか耳にしない。
しかし知り合いのよしみとは言えカタギに危害を加えるというのは相応のリスクもあるだろう。
つまりただの脅す為だけの嘘。その可能性も充分にあった。
だが俺の頭によぎるのはもしそれが本当だったら?という懸念。
嘘と決めつけられるほどの判断材料はないのだ。
もし判断を誤った結果失うものが両親だとしたら……取り返しがつかないなんてものじゃない。
俺は歯を食いしばって追及を止めた。
その瞬間のさぞ痛快そうな渉の邪悪な笑みは、生まれ変わった今でも夢に見る。
俺は鏡に向かって最大限口角を上げて笑顔を作ってみる。
眉は少し垂れ下げ、見下すように目を開く。
あの時の渉の顔を精いっぱい再現してみた。
……やはり似ている。顔のパーツがそもそも渉と近いからだろう。
自分でも嫌になるほどの完成度である。
復讐を遂げるチャンスになるとはいえ、あいつらの息子として生まれ変わった事を完全に受け入れられはしない。
非常に複雑な思いが胸中に渦巻いている。
そんな俺の心境など関係ないとでも言うように遺伝子は正常に受け継がれていく。
お前の今の親が誰なのかと丁寧に教えてくれるのだ。
きっとこれから成長していくにつれますます似てくるだろう。
その避けようのない事実が、気持ち悪く思えて仕方なかった。
次回は具体的な復讐計画の説明になると思います




