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優しい姉

午後4時頃、俺の元に姉の夏がやって来る。所謂お迎えの時間と言う奴だ。

当然俺は一人でも帰れるのだが……幼稚園の規則上そういう訳にも行かない。


梅雨の時期特有の湿気を感じながら二人手を繋いで帰路へ着く。

会話はそれなりに弾む。内容は主に互いの幼稚園と学校での生活について。

しかし俺は基本的に楽しい、としか言えない。

幼稚園児の平均的語彙力がいまいち掴めていないためボロを出さないようにするのが精一杯なのだ。


「私保健委員になったんだ。小学5年生になると皆委員会って言うのに入るの」

「そうなの?」


当然知り尽くしていることだがあくまで初耳を装った反応を貫く。

今の俺はあくまで4歳の俊平だ。前世の認識を露見させて齟齬を生むのはまずいだろう。


夏は現在11歳、姉弟仲は極めて良好だ。

……まあ小学校高学年の女の子に甘やかされるという状況はいまいち慣れないが。


と言っても俺を甘やかしてくれる人間なんて夏以外に居ないのもまた事実。

母……雪は言わずもがな。今日も迎えに来てないのが証拠だ。


「お母さんが忙しい時は夏にお迎えお願いするから」

入園一週間後に突然言われた言葉だ。

この台詞だけを抜き出してみれば特段おかしな事は言ってないように思える。


だが雪は特に仕事をしている訳でもないんだ。

じゃあ何をしているのかと言うと……パチンコである。


文句の一つでも言ってやりたいが俺たちにはどうしようもない。

復讐の実行を高校以降に定めた理由は単純、歳の事を考えてである。


結局年齢の差と言うのはいくら嘆いたところで埋めようが無いんだ。

あまつさえ幼稚園児に出来ることなど知れている。


……そう、今は耐えるしかない。無理やり自分に言い聞かせる。



「ごめんね、お姉ちゃんにも毎日迷惑かけちゃって」

俯きながらぽつんと呟く。

情けない話だが、今の俺が出来ることと言えば謝罪くらいだ。

一応園児が口にしても違和感が生まれないレベルの言葉を選ぶ。

これで何かが解決するという訳でもないが……それでも言わずにはいられなかった。



夏は口を小さく開いて驚きつつも即座に首を横に振って否定する。

その拍子に肩まで掛かるほどの長い黒髪がゆさゆさと揺れた。


「ぜ、全然だよ!それに俊平みたいな小さい子がそんなの気にする必要ないって」


反論と共に俺の手を握る力が少し強まる。

きっと心配されているのだろう。俺はその手をぎゅっと握り返す。


夏はため息をついた後、優しく俺に微笑みかけて言ってくれた。


「心配しないで何でも頼ってくれていいからね……私はお姉ちゃんなんだから」




俺は少し言葉に詰まってしまう。

気恥ずかしいような、申し訳ないような、嬉しいような……様々な感情が脳を駆け巡るのだ。


まとまり切らないまま再び出て来そうになった謝罪の言葉を喉奥で止める。

俺としてはやはり謝りたいが、しかし夏はそれを認めはしないだろう。

あくまで彼女にとって俺の面倒を見ることは姉としての責任の一環なのだ。


本当に優しく、強い子だ。あの両親に育てられたとは思えない程に。



しばし悩んだのちに俺は力強く言う。

謝罪以外でありのままの気持ちを伝えられる言葉を。


「……ありがとう」



「……そうだね。そっちの方が私は嬉しいかな」

夏はうんうんと言うように今度は首を縦に振るのだった。

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