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自殺

ダークな復讐物を書いてみたくなり投稿しました

俺の名前は工藤 悠人(くどう ゆうと)、保育士を務めていた29の冴えない男だ。

今日も今日とてマンションの窓から夜景を見下ろし酒を飲む。

ここから世界を見下ろすとやけに自分が大きな存在になったような気がする。

実際は至極ちっぽけな存在だと言うのに。


最期の晩酌を終えた俺は用意を整え天井に括り付けたロープの強度を確認する。

……うん、引っ張った感じこれなら大丈夫だろう。

中途半端な所で千切れて苦しみ損なんて最悪だからな。


もう分かってると思うが…俺は今日、首を吊って自殺するつもりだ。


根本的な理由としては元妻である羽田 雪(はねだ ゆき)の不倫を知った事。

前々から家を空けることが多くなっていたが決定的な証拠が出てきたのは先月。

明らかに俺のものではない男物の下着が洗濯物の中にいくつか紛れ込んでいたのだ。


どういうことかと聞いてみれば俺が泊まり込みの仕事の間に別の男が居座っていたことを

あっさりと明かし終いには

「その……私、もう妊娠もしちゃってるからさ。ごめんね」

「すんません。でも俺たちもう本気で愛し合ってるんで。あんたの入る場所は無いんですよ」

と、とんでもないカミングアウトと共に口先だけの謝罪をかまして来た。

勿論俺との子じゃないのは言うまでもないだろう。


婚約こそしていたが正式な結婚届をまだ提出していなかった為下手に大ごとにも出来ず最終的に泣き寝入りだ。

両親も奮闘してくれたが、なあなあで済ませられてしまった。

雪は今間男、高坂 渉(たかさか わたる)の家に転がり込んでいて……結局お腹の子は産むらしい。



全部が馬鹿らしく思えてきてしまった。

その後俺は鬱病になり、何とか頑張ろうとしたが最終的に保育士も辞める事になった。

別れ際の園児たちの悲しそうな顔を思い出すたびに情けなさが胸を締め付けてくる。


首に輪を通し椅子の上に乗って深呼吸を行う。当然恐怖心はあるさ。


でも、心のどこかで楽になれると安堵しているのも確か。

今後の苦しみと一瞬の苦しみを秤にかけてみれば、どちらを取るべきかは分かるだろう?


机の上に置いた遺書を眺めながらふと呟く。

「そう言えば……自殺したら地獄に行っちまうんだっけか」


些細な疑問に過ぎない。ただ何となく気になったのだ。

が、すぐにどうでもいいと納得し俺は精一杯雪と間男と弱い自分を呪う。

もし閻魔様とやらが居るのなら、少しは情状酌量の余地があると信じたい。

許されないにしても……平等に罰を与えてくれ。


最期まで他力本願な願いを抱えたまま、俺は支えになっている椅子を勢いよく蹴る。

その瞬間首に強い圧迫感がかかると共に次第に意識が朦朧としていく。

死が眼前に迫っているのが分かった。


「……ご、めん……な」


誰に対して向けたか分からない謝罪を最後に、俺の意識は深い闇の底へと消えていったのだった。






目を覚ます。そして周囲の状況を見て理解する。


地獄に来たのだと。


俺の前に居るのは消毒用の衣類を着た大量の医者たち。

恐らくそれなりの立場の者であろう壮年男性が俺の眼前まで迫りにこやかに笑いかける。


何故か涙が止まらない。

俺は何となく察していた。赤ん坊になったのだと。

転生……って奴か?見たところ異世界とかではなさそうだが。


そこは何の変哲もない出産現場。

ドクター達は忙しなく母親に寄り添ったり、共に苦難を乗り越えたことを嬉しそうに微笑み合っている。

何人かは俺の元に来てあやすように話しかけてきたりもした。


さながらドラマの最終話のような感動的な現場だ。


しかしさっきも言ったがここを俺は地獄だと思った。

何故かって?そりゃ……


「ついに生まれたぞ!二人目か……お疲れ様、雪」

「渉……私頑張ったわよ」



俺の目の前には医者の他に、人の姿をした二体の悪魔が居たからだ。

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