なんか強そうな感じしませんか?
『何やってるのよ』
あ、ナツィア様こんばんは。今は片手逆立ちですね。さっきまでは両手でやってました。
『はいこんばんは。片手で逆立ちしてるのは観てるから分かるわよ。なんで部屋で独りでそんな事してるのよ。あなたぐらいの歳の子はもっと他にやりたい事があるんじゃないの?』
まあ一般的にはそうだと思います。でも片手逆立ちって一回やってみたかったんです。膂力B-と器用A-なら出来るかと思いまして。どうですか? なんか強そうな感じしませんか?
『ふーん、よく分かんないけど気は確かそうね。良かったわ、気が狂ってないんなら安心ね』
あー……心配してくださって有難うございます。大丈夫です。先の事はイメージ出来ないですしよく分かりませんから今は考えないことにして目の前の事に集中することにしました。
『うんうん。それが良いわ。未来を見据えて生きるのは大事な事だけれどそれで今が疎かになっては本末転倒だわ。未来に囚われず今を一生懸命に生きる事もまた大事な事よ。あなたはまだ若くて時間も有るわ。先の事はこれからゆっくり落ち着いて考えれば良いのよ』
そう言ってもらえると楽になります。
『あなたが元いた世界とは全然違うけれど、この世界だって良い所はいっぱい有るわ。色々な物を見て、聞いて、感じて、そうして沢山の経験を積み重ねて、悩みながらどう生きていくのかじっくり考えなさい』
はい、ナツィア様。そうします。その…何て言うか……これから頑張れそうな気がしてきたといいますか……この世界でもちゃんと生きていけそうな気がしてたといいますか……その、上手く言えないんですけど、兎に角、有難うございます。
『ん。このくらいは何でもないわ。ああ、そうそう、手紙を送る準備出来たから書けたらいつでも言いなさい』
重ねて有難うございます。ところでこの事って他のクラスメイトも知ってますか?
『あなたが話してないなら知らないと思うわよ。あなた以外に声かけてないもの。ああ、あなたが手紙集めてくるなら他の子のも送ってあげるわよ?』
他のクラスメイトには声かけてないんですか?
『ええ。別に義務や必要性があるわけじゃないもの。召喚した手前気にはかけているけれど、面倒だし、何人も声かけてたら安く見られそうだし』
あー、無くは無いかもですね。声をかけられた人が何人もいたら少なくとも特別感は薄れますし。
『でしょー? 因みにあなたに声をかけたのは、あなたが今回選んだ決め手みたいなものだし、あなたの“職業”旅人よね?』
はい、その通りですけどそれとどの様な関係があるんですか?
『私、今は力のある強大な女神だけど元々はちっぽけな旅の女神だったのよ。それもあって気になってたから。この世界、最近“職業”が旅人の子少ないのよね』
そういう事だったんですね。なんでここまでしてくれるのか疑問だったんですけど解決しました。
『まあでもあなたに色々してあげるのは半分は単なる気まぐれよ。私は慈愛の心満ち溢れる素晴らしい女神なので召喚された子達のことは気の毒に思うし、何となく見守って、死んだら安らかな眠りにつけるように取り計らう位はするけれど、それ以上に何かしてあげなきゃいけないとは思ってないもの。これまでの子達にもしてこなかったしね。気まぐれに大したことないからやってあげてるだけよ』
成る程、ますます納得です。とても神様らしい理由で安心します。
ところでどうやってナツィア様に呼びかければいいんですか? 加護をいただいたのも神様と会話したのも初めてなものでやり方が分からないんです。
『あら、そうなの? 普通に会話してたから慣れてるのかと思ってたわ』
魔法もあるしそういう事もあるかなって思ってました。慣れてるわけじゃなくて受け容れてただけです。
『ふーん。そんなものかしら。私に呼びかけるやり方だったわね? あなたのことは大体いつでも注目してるから心の中で強く呼びかけたら私に伝わるわ。返事が無い時は私の像に祈ってくれたらよっぽどの事が無い限り大丈夫よ。教会とかに在る筈だから』
分かりました。丁寧に教えてくれて有難うございます。
『いいのよ。でも教会が近くに無い時はちょっと不便かしら。あなた確か器用A-だったわよね? だったら自前で私の像を作ってくれてもいいわよ』
それは彫刻とかでですか?
『別に金細工でも銀細工でも粘土細工でも何でもいいわよ。旅人ならそういうのの制作にも補正が入るし』
分かりました。任せてください。こう見えて芸術系の評価は結構高かったんです。こっちに来て器用さも上がってますし素晴らしい物を作ることが出来ると思います。
『それは楽しみね。期待してるわ』
ええ、ナツィア様には良くしてもらっているので必ずやご期待に応えられる物を作り上げます。
『あまり気負わずやりなさいよ』
気をつけます。
あ、もう一つ加護についてききたい事が有るんですけどいいですか?
『ええいいわよ。何かしら?』
加護をいただいている事って他の人から見て分かりますか?
『普通は分からないわね。神域に片足突っ込んでるようなのとか信仰に命かけてるのとかなら気付くかも、ってところよ』
そうですか。有難うございます。少し気になったものですから。
『どういたしまして。ところであなた、いつまで片手逆立ちをしているつもりなの?』
限界が見えるまでですかね。今もこう、何かが見えてきそうな感じがしてます。
『多分それ頭に血がのぼってるだけだからやめた方がいいわよ』