追放闇堕ち最強化臭
さて、訓練の為に早速練兵場的な広場にやって来たわけだけど、クラスメイトの数が足りない。40人のクラスなのに35人しかいない。どうやら鍛冶師などの生産職は別の場所に集められているみたいだね。
体育の授業よろしく整列した俺達の前に紙束を持った如何にも騎士といった人達がやって来て、挨拶もそこそこに俺達を6人と29人の2つのグループに分けた。
6人のグループの方は神代光大と愉快な仲間達なのできっと特に優秀な職業に当たった人達だろう。勇者とか聖女とか賢者とかそんな感じの。
残った29人も更に、11人、10人、8人の3つのグループに分けられた。俺は10人のグループで敬一は11人のグループの振り分けられている。多分大まかに職業で分けてるんだと思う。物理戦闘系、魔法系、その他とかそんな感じじゃない? 分かんないけど。
まあ振り分け方法は分かんないんだけど1つ不安な事がある。それは同じグループに俺と敬一が追放枠ではなかろうかと目する高崎君がいる事だ。
クラスでの立ち位置や学校での振る舞いそしてこの世界に来てからの様子から、高崎君はいっそ笑えてくるのを超えて真顔になるほどの追放闇堕ち最強化臭を醸し出している。きっと半年もする頃にはハーレムをつくってざまぁしたりしてるんじゃないかな。今までよく見たことなかったけど顔もラノベ主人公顔してるしね。
しかしながらそういうタイプの奴は初めはビックリするほど弱いのがお約束。ついでに勇者召喚した国側も役立たずのカスと見なしている事も多い。
そんな高崎君と同じグループというのは非常に不安だ。まあ2人きりではないからそう大したことないけどね。
グループ毎に間隔をとって広場に散らばると、それぞれのグループの教導担当の方々から挨拶があった。
俺達のグループの担当はA級冒険者のパーティ《器用万能》の皆さんだ。この世界の冒険者はライトノベルなんかに出てくるイメージ通りのアレだ。S、A、B、C、D、E級の6段階の階級が有り、
S級:伝説
A級:スーパーエース
B級:エース
C級:一人前
D級:駆け出し
E級:見習い
という感覚で大体オーケーとのことだ。S級は現在5人しかおらず冒険者の中でも少々特別な立場らしく、実質的なトップはA級なんだそうだ。
《器用万能》はA級の中でも達成してきた依頼の種類は群を抜いて豊富で対応力と依頼遂行力に定評のあるパーティであり、今回もそれを買われて勇者の教導役を任されたとのことだ。
このグループは騎士だとか剣士だとか弓士みたいな物理系の純戦闘職や、魔法使いだとか僧侶みたいな魔法系の職業以外の職業、例えば旅人とか、になった人達のグループだそうだ。だからこそ《器用万能》の皆さんが担当とのこと。
初日に説明された事であるが、この世界において自身の“職業”というのは非常に重要だ。膂力や敏捷や耐久などの基礎ステータスに補正がかかるし、覚えたり成長したりする“スキル”の傾向にも影響するし、装備する武器や防具にも影響するし、自分の様々な行動にも補正がかかる。何をするにしても関わってくるんだよね。
それ故に人を鍛えるにあたっては同じ職業の人間が鍛えることが望ましい。最低でも同じ方向性の職業でないと厳しい。料理人に騎士は鍛えられないのだ。
よって分類するならその他になるような職業のグループである俺達の教導担当には城の人間ではなく冒険者の《器用万能》の皆さんが適当であると判断されたんだろうね。
さて挨拶と軽い説明を兼ねた自己紹介を終えたところで取り敢えず各々の得物でも選ぼうかと多種多様な訓練用の武器が用意された。
このグループには正面切っての戦闘が本分の者はいないが生産職ではないし、これから勇者として活動する一定以上の戦闘能力を持つことは絶対に必要とのことだ。
目の前に並べられた様々な武器。中学2年生特有の病やweb小説、ライトノベル、漫画によって少しは知識が有るけど……はてさてどれを選んだものか。
“職業”による適性は何となく分かる筈だから直感で選ぶと良い、と言われてもね。ついこの間まで一生手に持つ機会が無いと思っていた物だから、直感で選ぶにしても多少絞り込んでからじゃないと迷っちゃってちょいと厳しいね。
ふむ、持っているスキル的に剣以外はまず除外される訳だけども、刀は【剣術入門】の恩恵を受けるんだろうか? 【刀術】的なスキルも有ってそっちの管轄なのかな?
……うーん、手にとって軽く振ってみたけどなんか管轄外っぽいね。むう、ファルカタとかも興味有ったしマジで何で有るのか意味分かんないけど中々の場違い感と共に存在している太刀とか長巻にも惹かれるものが有ったんだけどね。
剣か……良いんだけども……ここは敢えてスキルの無い武器というのも有りか。……いやいやいや、無い無い。確かにチャクラムとかジャマダハルとかも面白そうだけど、たとえ入門レベルだとしてもスキルの恩恵はデカイ。これがゲームならそういう選択も有りかもしれないけど現実なのでスキルのある剣一択だね。
てか旅人凄いね。今のところ適性無しと感じる物が無い。まあ『メッチャ適性有る!』って物も無いんだけどね。広く浅めって感じ。ってか何でこんなに色々有るんだよ。どう考えても時代的なアレとかおかしいって。東洋から西洋から果てには2次元にしか無かった物迄、節操無いにも程が有る。
おっと、考えがそれてしまった。兎に角、今は剣だ。ひと口に剣と言っても沢山種類が有る。どうやらナイフの類いの一部も短剣ということで【剣術入門】の恩恵を受けるっぽいし。
うーむ……自分のステータスを考えると……これかな、ツヴァイヘンダー。
たしかドイツのへんが発祥の両手剣でリカッソという剣身の根本の刃のついてない部分に革を巻いており柄の延長としても使えるのが特徴……の筈。
……別に趣味と直感だけで選んだわけじゃなくてちゃんと理由はあるよ。
先ずは威力が大きいのが理由。旅人という職業は攻撃系のスキルを殆んど覚えないらしく、攻撃力を武器の威力と自身の膂力と技量に大きく依存する。よって武器の威力は高い方がいい。
次に片手武器のメリットが少ないこと。旅人は盾への適性が微塵も無い。その上戦闘でメインに据えられるような魔法も使えないので片手を空けておくメリットがとても少ない。
次にステータスと噛み合っていること。膂力:B-は振り回すのに十分だし、勢いを止めずに大振りを避けてコンパクトに振り回すという器用さが求められるのも器用:A-に合っているし、振り回し続けるスタミナも【持久力向上】が有るので問題無い。
次に対応力が高いこと。リカッソの部分を活用することで間合いは短くなるが取り回しが良くなり懐に入られた時にも対処できるし槍のように使うことも出来る。
あと最後に《器用万能》の1人が使っていて教わり易そう。
以上『上川遊歩は何故ツヴァイヘンダーを選んだのか? その真実に迫る』でした。
というわけで俺はこれからツヴァイヘンダーを相棒にやっていくぜ! よろしくな! ツヴァイヘンダー!
ま、今手に持ってるツヴァイヘンダーとは訓練用なので訓練期間が終わったらお別れなんだけどネ!