床屋さんのヘビメタ
髪が伸びた。癖っ毛なのでうざったい。
デザイン専門学校に行ってるのだが、学校って週5でしょ?そうなると、遊ぶのが土曜でバイトが日曜。床屋なんて行く暇がない。一度ニートやると、そういう考えになる。
でも、今日は遊ぶ友達がいないので、暇だ。床屋に行こう。
今日の床屋さんは、妙にテンションが高かった。なぜだかはわからないが、僕が音楽を始めたので、ヘビメタの話が出来るのが嬉しいらしい。
僕はテクノ、床屋さんはヘビメタが好きだ。
ブラックメタルと言うジャンルが好きらしい。好きなアーティストは……横文字で長かったので忘れた。ここで稼いだお金はcdやレコードに使うらしい。
僕がテクノが好きと言ったら、何が好きなの?と聞かれ、エイフェックスツインとかスクエアプッシャーが好きですね。と言ったら、知らないと言われた。
そんな話をした。
髪を切り終わり、眼鏡を掛ける。
「こんな感じなんだよ。」
店の扉を開けたところに、床屋さんが寝食をしている部屋があり、それを見せてくれた。
cdやレコードを部屋に集めてると言ってたので、その流れで見せてくれたのだ。
その部屋には、音楽の魔物がいる。
魔物は、姿形を纏ってない。固体でも、液体でも、気体でもない。魂やら、魑魅魍魎の類でもないらしい。
魔物は、床屋さんの脳を、ヘビメタに染める。ツーバスをドコドコと言わせる。
開店前の下準備まで。
閉店後、就寝前まで。
テレビをみたり、トイレに行くとき以外。
ヘビメタを聴きたいと思った時、取り憑かれる。
アマゾンで、cdを買わせる。金がなくなる。
床屋さんは言った。「こんなお金の使い方をする大人にならないでね。」僕は答えに困ったが、いやいやとか言って適当にあしらった。僕は受け答えが下手だ。
地獄に行った人の中には、音楽が流れているらしい。ロボットに電線を通すように、音楽が流れている。身体の中に魂以外で物質でないものがあるなんて、気持ち悪そうだ。
音楽は耳から入る。骨を伝い、脳に信号を与える。これを骨伝導と言う。音楽には、サイケデリックと言うジャンルがある。薬物を摂取した時の感覚を表現する。サイケデリックとはなんだと聞かれたら、だいたいそんな説明を出来る。
時に、音楽には人を覚醒させる力がある。
地獄にいる人は、音楽を聴かされ、もがき苦しむと言う。嫌悪感に苛まれたりして、気が狂う。頭の中にはいつも、それがいる。炎にも焼かれ、針に刺される。
罪人は言った。「やめてくれ、許してくれ。火で炙るな、針で刺すな、頭の中に得体の知れぬものを入れるのはやめてくれ。あゝ、幻覚が見える。見えてはいけないものが見えるんだ。ここはこの世から逸脱している。」
あの山を登るんだ、神を敬え。火の海を泳ぎ、いつくもの困難を乗り越えるんだ。それは精神修行にもなる。
その罪人は、火の海を泳いだ。熱かった。肉体は焦げた。
次に、針の道を歩いた。身体には1000個の穴が空いた。
紆余曲折を経た。山頂に着いた。
が、そういうことは、罪を負う前にすることだった。
「またヘビメタが聴きたい。」その罪人は後に、床屋さんの部屋にいる音楽の魔物になった。