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第41話 家族


 昨日……いや、今日か。嫌な夢を見た。松下さんがいなくなってしまった夢。妙にリアルで怖かった。


「昨日、綾瀬はるかと付き合う夢みた」


「……」


 私が馬鹿だった。


 と言うか、いなくなってしまえ。


「妙にリアルだったな……」


「絶対ウソですよね!?」


 なに正夢になる風に語っちゃってるんですか。


「サト……夢見ろよ」


「……」


 私は前後関係でこれだけカッコ悪くなる言葉を他に知らない。しかし、松下さんは堂々と、言ってやった風な感じを出しながら、ノンアル気分を飲み干している。


「でも、昨日妹から電話がかかってきてさ」


「妹……松下さんて妹いるんですね」


 なんだか、この人の家族構成は想像できない。


「なんか、『お兄ちゃんが孤独すぎてウツになって自殺する夢見たんだけど、大丈夫!?』だってさ。はっはっはっ、ウケるだろう?」


「……」


 笑えない。


 全然、笑えない。


 と言うか、その日の夜に綾瀬はるかと付き合う夢を見たなんて、メンタルがどうかしている。そして、ある意味、どうかしている。


「ちなみに彼氏ができたみたいで、どっちかと言うとそのノロケ話聞かされてさ。全力で奴の不幸を願ったよ」


「……恐ろしいほどに負のオーラをまき散らしてますね。ちなみに、妹の彼氏さんはどんな感じなんですか?」


「知らん」


「ええ、興味ないんですか?」


「あんまりないな。でも、前の彼氏は刺青してたらしいけど」


 !?


「あっ、タトゥね」


「いや、オブラートに包んでも一緒ですよ」


「偏見だよ。タトゥしててもいい人はいい人だし、タトゥしてても、おっさんはおっさんだ」


「そ、そうかもですけど」


 タトゥしてないおっさんに諭されるが、やっぱり心の片隅の抵抗感は否めない。ここらへんの抵抗は日本人だけなんだろうか。外国の人は文化的にタトゥをしてるらしいが、そんな人に今まで出会ったことがないので恐怖を感じる。それに、どことなく『タトゥしてる=危ない人』という図式ができてしまっている気がする。きっと、それは偏見というやつなんだろう。


「サト、偏見はよくないよ。おっさんにだっていろいろなおっさんがいる。それは、タトゥをしてたってしてなくったって関係ない」


「まあ、確かに松下さんがタトゥしてたってしてなくったってどうでもいいですね」


「……どうでもいいはちょっと違うんじゃないか?」


「……」


 面倒くさいおっさんである。


 でも、それは松下さんが教えてくれたことの一つだ。結局、人って話してみてじゃないとわからない……いや、話してみないことでしかわかりあえない。人の表面上だけ見て、その人を理解しようとするのは、おこがましいと言うことなのだろう。


「まあ、結論を言えばもっと視野を広く持てってことだ。地球視点で見てみよう。一人の人間がタトゥしたところで地球にとってなにか変わるのか……要するにそう言うことだよ」


「そんな話でしたっけ!?」


 自分がくだした結論とまったく違う結論を語りだしたタトゥしてない不思議なおっさん。


「まあ、妹の別れた彼氏の話はここまでにしよう」


「結局、その人はいい人だったんですか?」


「まあ、普通だったって。犯罪も車上荒らしくらいしかしてないって」


 !?


「バリバリ犯罪者じゃないですか!?」


 それだと、まったく話が違ってくるんですけど。


「サト、同じだよ」


「な、なにがですか?」


「おっさん理論だ。犯罪者だって、おっさん。犯罪者じゃなくたって、おっさん」


「違いますよ!」


「まあ、前科はあるらしいけど、今は更生してるらしいからいいんじゃないか?」


「そりゃあそうですけど……妹さん大丈夫なんですか?」


「大丈夫だよ。アイツ、地球一気が強いから」


「な、なるほど……」


 意外な松下さんの妹の話を聞いてしまった。


「松下さんの家族ってどんな感じなんですか?」


「うーん……普通だよ」


「妹さんの話を聞いてるととてもじゃないけど普通とは思えないんですけど」


「まあ……ちょっとは変わってるかな。親父は親父の実家でキレて実家からもらった味噌をぶん投げるし、母親はたまに犬と俺を間違えるし、兄貴は最近『コインチェックやるから50万円貸して』って言ってきたけど、まあ普通だよ」


「ぜ、全然普通じゃない! どうなってるんですか、松下さんの家族!」


「多分、普通ってちょっとおかしいことを言うんじゃないかな。それでも、家族は家族だし」


「……納得できませんよ」


 私の家族は母親一人で。それはそれでかなり変だが、それが普通なんて思えない。


「納得できなくても、家族は家族だよ」


「そんなもんですか?」


「そんなもんだよ」


「……わかりました」



















 松下さんがそう言うなら、と私は言った。



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